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1971年のニコンのランタンガラス

半世紀前の1971年に日本工学工業株式会社ニコン)が出願した光学ガラスの発明です。ニコンとはかのカメラメーカーのニコンですが、ニコンは自社製品で使用するために光学ガラス部門を持ち、社内でガラスの開発・生産を行っていました。現在ではガラス事業は光ガラス株式会社に分離したうえで同社がニコングループの傘下に入る形になっています。

ランタンを主な高屈折率化成分とした高屈折率低分散ガラスについての発明です。1971年に出願され1975年に拒絶査定を受けています。

従来の高屈折率低分散ガラス

この発明の時点では高屈折率ガラスとしては、
トリウム (Th)を含むトリウムガラスや、
レアメタルの中でもタンタル(Ta)・ランタン・ガドリウムを用いて高屈折率化したガラス
が存在していましたがトリウムガラスは放射能があるという問題があり、後者はタンタルの価格が高いことに加え、タンタルは高屈折率化と同時に高分散化作用をもたらすため低分散領域のガラスをカバーできないという課題がありました。

そこでこのニコンの発明では高屈折率化成分にランタン(La)とガドリニウム (Gd)を主に用いています。ガドリニウムはランタンに似た化学特性を持つランタノイド元素に含まれる元素の1つで、その働きもランタンと類似し、高分散化を避けつつ高屈折率化するのに有効な成分です。特許文献ではこのほかに、アルカリ金属(2族元素)酸化物や酸化アルミニウム (Al2O3)を導入することとされています。これらの酸化物はガラスを安定化させる効果がありますが、割合が増えすぎると屈折率が低下して、高屈折率低分散ガラスにならなくなるので酸化物換算質量で全体の20%以下に留めるものとされています。

この組成系のガラスは安定性が高く組成の自由度が高いと謳われ、ジルコン (Zr)・ニオブ(Nb)・イットリウム(Y)・チタン(Ti)・タングステン(W)・インジウム (In)などの種々の元素の酸化物を導入することで屈折率やアッベ数を広い範囲で調整できるとされています。

ホウ素とランタンの組み合わせを主要な組成としたタイプのランタン系ガラスは1970年代以降高屈折率低分散ガラスの主流となりましたこのニコンの発明がホウ素—ランタン系ガラスの始祖というわけではないようですが、この系統のガラスの比較的初期の例の一つと言えるでしょう

実施例の組成

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実施例1ではホウ素 (B)・ランタン (La)・ガドリニウム (Gd)・アルカリ土類金属のマグネシウム (Mg) それぞれの酸化物からなる比較的単純な組成の光学ガラスが記載されていますが実施例2以下ではアルミニウム・アルカリ土類金属の配合を変えたものや、種々の高屈折率化酸化物を追加したものなど多様な実施例が記載されています。

なお実施例1では、屈折率は1.722・アッベ数は53.8で、ランタンクラウン領域の硝種が密集した位置にあります。現行の光ガラスの品種ではJ-LAK8が類似した光学定数(屈折率1.716・アッベ数53.7)を持ちます。しかし前述のように組成のバリエーションが豊富なことを考えると、この品種がそのまま実施例1と同じ組成を持つとは考えられません


ランタン系ガラスにはほかにも上の記事で紹介したようなガラスネットワーク構成酸化物としてケイ素を主に使ったものもありますが、このニコンの発明の実施例1ではケイ素を含まずにホウ素のみをネットワーク構成酸化物として活用しています。



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