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生物はストレスをエサにしている

右鎖骨が太い

子供の頃、柔道を習っていた。

小学校2年生のころだったと思う。
練習中に投げられ、宙を舞った。

右肩から畳に叩きつけられ、その衝撃は口の中まで響いたことを覚えている。

しかしそこまでの痛みは感じない。すぐに起き上がって相手を掴みに行った。

異変を感じたのは練習後、

師範の先生に見てもらうと、どうやら骨折だ。

肩からの衝撃が波及して鎖骨が折れる、これは鎖骨骨折の典型例。

骨というのは折れたところを近づけて固定し、そっと待っていると自然治癒する。

本来落ち着きのない低学年男子は動き回りたい気持ちを耐えた。

頑張った甲斐があって数週間すると痛みも減り、治ってきたという実感もわいてきた。

「きっと元通りの骨に戻っているだろう」

最終的にはレントゲンで骨の完治を確認する。

そこで不思議なレントゲン像を見た。

折れた骨が太くなっている。

担当医によれば、1度折れた骨は負けないように強くなるのだと言う。

当時連載していた漫画『ドラゴンボール』のサイヤ人と同じメカニズムを連想させた。

サイヤ人というのはその漫画に登場する、戦いに適した種族である。

彼らは大ケガを経験すると治ったあとは以前より大幅にパワーアップする。

当時の私は「僕はサイヤ人の血が混ざっているのかも?」なんて思ったくらいだ。

人間にもサイヤ人と同じ能力があるということを知ったのはそれから約10年後のことだ。

ウォルフの法則

それから約10年後、私は整骨院の専門学校に通っていた。

そこでサイヤ人の能力、つまり骨が強くなるメカニズムを学んだ。

生きている骨は、人工的な構造物とはまったく違っている。

自動車でも、建築物でも、堤防でもそうだが、力学的ストレスはなるべくかからない方がありがたい。

力学的ストレスが少なければ少ないほど長持ちするからだ。しかし人間の骨は違う。

生きている骨は力学的ストレスをエサにして発達する。骨は力学的ストレスを欲しているのだ。

骨に力学的ストレスが加わると骨内に電位差が発生する。その電位差によって骨細胞は活性化し骨を頑丈にするのだ。

力学的ストレスが多くかかれば、それだけ骨の強度が高くなる。これをウォルフの法則という。

ドイツの解剖学者、Julius Wolff(1836~1902年)が提唱した、“骨はそれに加わる力に抵抗するのに最も適した構造を発達させる”という法則である。

実際、太っている人は骨への力学的ストレスが多いため骨粗鬆症になりにくいという。(その分、関節は壊しやすいのだが)

私の鎖骨が太くなったのは、骨折するほどの力学的ストレスがかかったこと、それに加え固定による圧迫力に応じて、骨の強度が発達したのだと考えられる。

ストレスをエサにして発達するという現象は骨だけではない。生命全般に言えることだ。

生物はストレスをエサにしてしる

ここで言う「ストレス」とは「職場の上司がストレスだ」というような、精神的につらいことを意味しているわけでは無い。

ストレスに関する論文1600本発表したカナダの生理学者ハンス・セリエによればストレスとは「損傷刺激に対する、体の反応」と捉えている。

つまり人間関係のつらさだけではなく、試合前、デート前、アルコールを飲んだとき、辛いものを食べたとき、運動したとき、重力、気圧、水圧、それらが不快という自覚があるか、ないかは別としても全て一種のストレスである。

自動車やビル、堤防などの人工物ならストレスを受ければただ耐えるだけだ。壊れるギリギリまで耐えようとする。

一方で生命は耐えるだけではない。自分を変えてストレスに対応しようとする。

神輿(みこし)をかつぐと、ストレスがかかる場所は肩だ。よく神輿をかつぐ人には「神輿ダコ」ができている。彼らの肩はストレスに対応しようと変化して表皮が厚く硬く発達している。

このようにストレスをエサにして発達し、ストレスとお付き合い可能にしてしまうのだ。

先ほどの骨なら圧力ストレスがかかる部位は強度を発達させて対応する。

病原体に感染すると抗体を作り再感染しないように免疫システムを発達させる。

低酸素ストレスにさらされる高地では心肺機能が発達する。

植物もストレスをエサにすることがある。根っこを発達させるために麦踏みをすることはその代表例だ。

どんな生命も快適ではない環境に身を置くと、その環境に対応すべく身体機能を発達させる力が働いている。

私たちはストレスをエサにして発達しているようだ。

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