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【怖い話】深夜、葬儀場

どうも、ゴリ松千代です。


当時の私はバスフィッシングに夢中で、気の置けない友人達と頻繁に野池や河川へと足を運んでいた。皆の顔がほころぶような事もあれば、目の前の出来事に戦慄する事もある。それはさかのぼる事、数年前……未だに脳裏に浮かぶあの恐怖の瞬間を、これを読んでいる方々と共有したいと思う。

立派なオオクチバスを追い求める事が段々と熱を帯びてきた頃、かの有名なK湖へと車で遠征する事が決まり、私の心はまさに水揚げされた魚のように瑞々しく跳ねていた。午前4時に現地集合だなんて、低血圧で朝が弱い私にとっては普段であれば断る案件だ。それでもはやる気持ちを抑えられないのは、やはりその湖の知名度や期待値がそこら一般の釣りスポットとは桁違いだったからだろう。

時は過ぎ当日、午前3時。スマートフォンのけたたましいアラームに脳を揺らされ飛び起きた。梅雨が明けたばかりで、こんな時間ではまだ少し肌寒さを感じる。前日どころか前週に準備が整っていた釣りの道具を車へとぶっきらぼうに投げ入れて、予定進行にはなんの滞りもなくエンジンをかける。待っていろK湖、とばかりに私はゆっくりとアクセルを踏み込んだ。

下道を走り数十分。3時半を回った所だったか、それでも外は深夜に違いない。暗闇で車通りはほとんどなく、当然人ひとり見当たらない。そのせいもあり、私は自分の進行方向にある明かりのついた施設に目が行った。あぁ、セレモニーホール(葬儀場)だ。エントランス部分、つまり入り口だけ明かりがついている。防犯のためだろう。

目の前を通らざるを得ない所にある葬儀場。こんな時間のそういう場所だ、『何か』あったら怖いよな、なんて事をイベントで浮わついた私の心がいたずらに囁いた。……TPOに反したその余計とも言える感受性のせいで、私は『何か』にすぐ気がついてしまった。

子供が、そこに立ったままうつむいている。

その場所までは少し距離があって鮮明には見えない。それでも間違いなく子供であろう人影がそこにあるという事だけが、明かりのせいで認識出来る、出来てしまう。あいにく遠回りをしようにも直進しか出来ない道で、もはや引き返す事もままならない。

胃、肺、心臓を同時に握られたような不快感と嫌悪感を抱きながら、否が応でも車は止められなかった。鳥肌と共に緊張が走っていた。目を覆いたいような気持ちでハンドルを握り締め、半目で視線を逸らし、施設前を通り過ぎようとした。しかし私はその恐怖心……いや、正体を知りたいという好奇心に勝つ事が出来なかったのだ。セレモニーホールの正面で、私は『それ』にゆっくりと顔を向けてしまう。


それは、機能を停止させた受付役のペッパー君だった。

※電源オフでうつむいたペッパー君は、Google画像検索等で各自確認して欲しい。

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