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器官

地下鉄を乗り継いで着いた先は、酔っ払いが不法投棄した今朝の夢だった。
「私は物書きです。作中、必ずと言っていいほど死人が出るんです。幸福な物語を完成させたいのに」
「いわゆる希死念慮の量り売りでしょう。それをしなければ現実がより不幸になる。いいのですよ、そのままで」

フィクトロマンティックがお気に召さないおかっぱ頭の女の子。
観賞用に取っておいた赤リップを塗りたくり、神格化された上野動物園のシャンシャンを見に行く。

行き場のない喫煙者の溜まり場。
いくつもの紫煙が染み込んだ壁に向かって吐き捨てた台詞。
「知らない誰かじゃなくてあそこにいたあいつが死んだんだ。同じ空間にいたあいつが」
ラジオペンチでくだらない会話を文節ごとに区切る。

気の迷いでメジャー移籍を表明するも、気づけばでたらめコメンテーター。
「生々しい話をしようじゃないか。僕は嫌わないから」
ルームシェアの天地がひっくり返ったという噂話。アンダーリムの眼鏡で真実を見極めたい。

この世は舞台か。観劇する誰かは誰なのか。
不透明な糸を手繰り寄せて商圏マーケットと睨めっこ。骨の折れたビニール傘はメルカリで10円。おざなりになったセミファイナリストの野望。

浮腫んだ足を引き摺って夢から醒める。
「いつでも踊れるけどなあ、人って」
言いながら、氷のブロックを叩き割る長髪。
剃刀のような鋭い細目に水の膜がはっている。
一筋垂れるのも時間の問題だが、きっと瞬きはしないのだろう。

ハマショーの『MONEY』がすきです。