【小説】40才のロックンロール #1
" どうして僕いつも一人なんだろう "
夜道のイヤホンから、銀杏BOYZの峯田の声。何か、僕にとっては好ましくないものが込み上げるのだが、それを必死に押さえ込む。蓋を開けようとしてくる何かに、無意識に抗う。
蒸し蒸しする夏の夜。梅雨も明けそうだ。
" 気付いたら、あの娘を思ってた "
湿度の高い空気に、さらに峯田の声が絡みつく。すっかりぬるくなった缶ビールの最後の一口を、喉奥に放り込む。
ふと、今日何も食べてないことに気がつき、目に入ったなじみのラーメン屋に行くことにした。まずくもうまくもない、普通のチェーン店だ。
「醤油ラーメンと瓶ビール。あと、餃子6個」
無愛想な客に対する、マニュアル通りの店員。冷房は効いてる。
" ラーメン専門店の餃子をご家庭でもお楽しみください! "
カウンター席のメニューには、そんなことが書いてある。冷凍餃子も販売しているようだ。
俺にも家庭があったなら、いまと違うんだろうな。たいしてうまくもないこれを、家族に買って帰る日もあるのかもしれない。何かの免罪符としてか、なんなのか分からんが。
あぁ、また比較と妄想の癖が始まった。くだらない。
来月、僕は40才になる。これは妄想でもなんでもなく、紛れもない事実だ。
僕の人生はいつも、ままならない。ままならぬままに、40年が経とうとしている。鳴かず飛ばずで、パッとしない人生だ。
こんなはずじゃなかっただろ?
酒に酔うと、よくそんなことを思う。確かに想像もしていなかったけど、でも、特別何かを思い描いていたわけでもない。めんどくさいことを避けていたら、こうなった。
一番めんどくさいのは、そんな自分の面倒を見ることなのだ。
そんなやつが、もう40才になろうとしているなんて、まったく愉快だ。
そんな書き出しにしてみることにした。
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