【小説】40才のロックンロール #2
"今日は最高!今日は最高の気分だー!"
朝起きる。軽く掃除する。軽く筋トレする。朝食は長年食べてない。両耳にイヤホンをぶっ刺して、クロマニヨンズの「ギリギリガガンガン」を聴く。オールスターのハイカットに足を突っ込み、紐を固く結ぶ。そして、鈍く家を出る。
これが、僕のルーティーンだ。ルーティーンと言うと、なんだかかっこいい雰囲気が漂うが、ただの日常だ。
僕は近所のアミューズメント施設に勤務する、普通の店員だ。普通の店員って何なのかよく分からないけど。お客様を怒らせることも少ないが、特別感謝されることもなく、日々任務をこなしているという感じだ。
アミューズメント施設というと壮大なイメージがあるが、とっても小さい施設だ。幹線道路沿いに突如あらわれる、異空間。その名も、「アメリカンドリーム」。勘弁してくれ。
アメリカンドリームには、夢が詰まっている。ビリヤード台が5台、ダーツが2台、カラオケが5部屋、卓球台が3台、それにバッティングセンターにストラックアウトみたいなやつとか、クレーンゲームとかもある。それなりに楽しめるし、駅から離れているから、お忍びでたまに芸能人なんかも来る。
僕はここで学生の頃からアルバイトをしていて、卒業と同時に辞めたが、なんやかんやあって戻ってきた。気付けば正社員として雇ってもらっていた。同年代のそれに比べれば、給料は低いし、土日に出ることも多々ある。でも、もう慣れた。
「おはようございまーす。」
「おう、おはよう。粟井、相変わらず目が死んでんな(笑)」
社長の鎌田さんに挨拶する。鎌田さんは、誰よりも早く出社する。次が僕。次が先輩の谷岡さん。この三人に加えて、学生のアルバイトが数人いる。
「死んでないすよ。勘弁してください。」
「また始まったよ、『勘弁してください』が。」
鎌田さん曰く、僕の口癖は「勘弁してください」らしい。確かに、世の中は勘弁してほしいことで溢れている。
出社すると、タイムカードをレトロなマシンに突っ込む。「ジジッ」とアナログな音を立てて、時刻が刻まれる。9時28分。ギリギリセーフ。出社は9時30分の決まりで、僕は11時の開店に向けて準備を始める。
「粟井わりぃ、遅くなった。」
谷岡さんが出社してきた。今日も遅刻。
「今日も二日酔いすか?(笑)」
「いや、今日は違う。カミさんにアレがバレて、深夜まで絞られた。」
「なんすか、アレって(笑)」
「あとでゆっくり話す。」
別にゆっくり話さなくてもいい。どうせ女性関係か、ギャンブル関係だろう。谷岡さんは、子供が三人いるが、仲の良い女性は三十人いる。つまり、アホである。でも、僕は谷岡さんのことが好きだ。
「あれ、今日って浅井ちゃんの日?バイトのシフト。」
「そうっすね。浅井さんが10時半から来ます。」
「じゃあ今日は楽しそうだな!がんばろうぜー。」
卓球ゾーンでつぶれたピンポン球を回収していたら、浅井さんが出社してきた。余裕を持った出社。優秀。
「おはようございます!」
「おぉ浅井ちゃん、おはよう!今日もかわいいねぇ!」
谷岡さんのこういうところは、つくづくアホだなと思う。でも、なぜか爽やかさをまとっている。普通のおじさんなのに、女性から好かれるのは、
こういう爽やかさが要因なのか。
いや、こんな分析どうでもいい。
今日も一日が始まった。どうでもいい一日が。
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