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深津貫之さんが語る “生成 AI 時代の UX” とは?

生成 AI は、UX デザインに革命をもたらしつつあります。業務の効率化にとどまらず、顧客体験の価値を高める強力なツールとしても進化を続けています。

その好例として、フードデリバリー大手の「出前館」の取り組みが挙げられます。Google Cloud の小売業向けマネージドサービス「Vertex AI Search for retail」と Google の AI「Gemini」を駆使して、お客様の「食べたい」気持ちに寄り添った検索機能を実現しました。さらに、魅力的な商品コピーを自動生成できる仕組みも導入し、ユーザーエンゲージメントの強化を図っています。

本記事では、生成 AI 時代の UX と事業展開について、生成 AI や UX デザインの分野で最先端を走り続けてきた第一人者の深津貫之氏に生成 AI の可能性と、私たちが描くべき未来像について詳しく語っていただきました。


生成 AI 時代の理想的な UX とは?

―本日はお時間をいただき、ありがとうございます。早速ですが、今回の出前館さんの生成 AI 活用の事例について、深津さんの率直な感想をお聞かせください。

深津貫之さん(以下深津): 出前館さんの取り組みは非常に興味深いですね。あいまいな検索ワードからでも、最適な商品を見つけられるチャレンジは素晴らしい。これは検索機能だけにとどまらない、あらゆるサービスに応用できる重要な視点といえます。

例えば「最近、肉料理が続いているから、今日は魚料理にしませんか?」といったユーザーの状況や過去の行動履歴に基づいた提案も、将来的には実現可能になるのではないでしょうか。AI がユーザーの好みや状況を学習し、よりパーソナライズされたサービスを提供する未来に大きな期待をしています。また、出前館さんのような老舗企業が積極的に最新の技術に挑戦する姿勢も素晴らしいと感じています。

―出前館さんのような事例は今後も増えていくと思いますが、生成 AI の登場によって UX や UI はどのように変わっていくのでしょうか?

深津: 自分が考える生成 AI 時代の UX のひとつは 、「問題が発生する前に解決する」世界です。これは、ユーザーが問題を認知する前に AI が先回りして解決してくれることで、ユーザーは本当に重要な課題に集中できるようになります。まるで子供の頃、なにも言わなくても親が好物や栄養バランスを考え、毎日美味しい手料理を用意してくれたように、AI がユーザーのニーズを先読みし、最適なサービスを提供する時代が来るでしょう。

従来のアプリ等のデザインはユーザーの行動を促す UI 設計が中心でした。しかし生成 AI の活用により、ユーザーが意識的に操作しなくても、AI が状況を判断して最適な提案や実行をしてくれるようになっていくと考えています。例えば、EC サイトで商品を探しているユーザーに対して、AI が過去の購入履歴や閲覧履歴、さらには健康データなども考慮した上で、おすすめの商品を提案することが可能になります。こういったリコメンドの仕組みが、AI によってさらに進化をしていくのだと思います。

データ連携が広げるパーソナライズの未来とプライバシー保護

―生成 AI によって、個人向けのサービス提供はどのように変わっていくのでしょうか?

深津: 生成 AI は、パーソナライズをさらに進化させます。例えば、健康データと連携することで、ユーザーの体調や栄養状態に最適な食事を提案できるようになります。

―パーソナライズが進化すると、プライバシーの問題もより重要になってくると思いますが、どのようにお考えですか?

深津: プライバシーについては、ユーザーが自身でデータ提供の範囲や目的を理解し、コントロールできる仕組みが必要です。サービス事業者には、データ提供のメリットを分かりやすく説明し、ユーザーとの信頼関係を築く努力が求められます。

また、スマートフォンなどローカル端末での大規模言語モデル(LLM)の実行が重要なポイントになるのではないでしょうか。生成 AI をローカルで動作させることで、プライバシーを守りながら、より低コストで高速なレスポンスを実現することができます。サーバー側はローカル環境で処理できない複雑な処理や大規模なデータ分析など、高度な作業に特化していくことになるでしょう。

サービス事業者が描くべき生成 AI 時代の UX デザイン

―生成 AI が UX をどんどん変えていく中で、サービス事業者はどんなことに取り組むべきでしょうか?

深津: 「AI に聞けば解決する」時代では、各サービスならではの価値が重要になります。

例えば、単機能を提供する生成 AI サービスは、多くの企業が開発に取り組むことが出来るため差別化が難しいでしょう。さらに、大手 IT 企業が取り進める生成 AI の高度化の流れの中で、サブ機能として解決してしまうリスクがあります。

そうではなく、サービスならではのコアバリューを作り、生成 AI を活用して、顧客とのエンゲージメントを深め、サービスへの愛着を育む工夫が求められます。

―この記事や出前館さんの事例を読んだ経営者や担当者が「自社のサービスに生成 AI を活用するぞ」と考えた時、特に気をつけるべきことはなんですか?

深津: 大手 IT 企業による生成 AI 開発競争は、日々激しさを増しています。

生き残る方法の 1 つは、大手が参入しにくい専門分野へ特化することです。ニッチな分野で独自のデータやノウハウを蓄積することで、競争優位性を築くことができます。大手が手に入らないデータを集める、あるいは大手がペイしない陣地を作るとよいのではと思います。

生成 AI は、戦国時代における「鉄砲」のようなものです。先んじて活用できればしばらくは先行者優位で進められますが、鉄砲が普及すれば、最終的には「刀 vs 鉄砲」ではなく「鉄砲 vs 鉄砲」の戦いとなります。双方が生成 AI を活用しているので、競争力ではなくなります。相手が導入するまでに、いかに先行者メリットを得て、有利な盤面を整えるか…つまり、「山の上の陣地」を確保するような動きが重要になるといえます。

深津さんが期待する生成 AI と人間の未来

―生成 AI がビジネスに溶け込むことで、どんな未来が待っていると思いますか?

深津: 生成 AI は、単なるツールではなく、私たち自身の成長を促す存在になりえると考えています。たとえば日報を 1 つ書くにしても生成 AI に単に自動生成させるのではなく、人間が生成 AI と一緒に「今日の業務課題はどこだったか?」「次のネクストアクションのために何ができるか?」「解像度を上げないといけない情報はどこか?」といったことを壁打ちしながら進めることで、「日報を作れば作るほど成長する」といった AI 体験を作ることができると思います。

また、これまで多くの時間を費やしていた単純作業を AI に任せることで、空いた時間で新しいスキルを学んだり、より複雑な課題に取り組んだりすることもできます。生成 AI は、私たちにとって「メンター」のような存在になりえるでしょう。

―AI と人間が協力し、共に成長していく未来、とても楽しみですね。深津さんは Google の Gemini をどのように評価されていますか?

深津: Google は、Google Workspace、Google Maps、Google Meet など、すでに多くの人が使っているサービスとスムーズに連携できる点が強みです。Gemini は、これらのサービスと連携することで、私たちの生活や仕事を理解し、成長を促してくれたり、便利にしてくれる可能性を秘めていると感じています。

生成 AI は人間の創造性を拡張して新たな成長につなげるツール

―最後に、まさに“激動の時代”となる現代に、生成 AI を活用する人へメッセージをお願いします。

深津: 生成 AI は私たちの仕事を奪うものではありません。むしろ、人間を成長させ、ビジネスに新しい価値を生み出すための道具です。AI と人間が互いに高め合い、共に進化していく―そんな未来を目指していきましょう。変化を恐れず、積極的に生成 AI を活用して未来を切り拓いていくことが大切です。

―深津さん、ありがとうございました。

生成 AI の活用は業務の効率化だけでなく、新しい価値を生み出すチャンスになります。生成 AI をパートナーとして、私たち自身の可能性を広げていく、その第一歩として、ぜひ Google Gemini を無料で体験してみてください。