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公園の画家

数年前、知り合いのコスタリカ人の女性が日本のサラリーマンをテーマにしたドキュメンタリーを撮影していた。その撮影の一環として、代々木公園に住んでいるホームレスの方たちをインタビューしたいということで、私は通訳・インタビュアーとして、手伝うように頼まれたのだった。

インタビューしたのは二人の男性。意外なことにインタビューの交渉で苦労することはなかった。

一人は、製薬会社の営業マンだったが、法を犯してしまい、刑期を終えた後、「社会」に戻ることをやめた。彼は公園で生きることを選んだが、元妻と娘とは未だに連絡を取っていた。娘の結婚式にも行ったらしい。

でも、より強い印象を残したのは、二人目の画家だった。名家の長男だった彼は、某デパートで定年まで勤め上げた後、後は好きなことをして生きようと決意した。そして、家の遺産を弟に全て譲ってから、公園に移り住み、絵を描く毎日を始めたのだった。彼の家でインタビューさせてもらったのだが、小さなスペースに絵の道具や、たまに路上で売っている古道具等が、きれいに整頓されていた。その仕草や言動から、自由に生きていることの誇りが感じられた。


彼は最後に私に「君にはゴーギャンの描く花のような力強さを感じる」という嬉しい言葉をくれた。まだ代々木公園に住んでいるのだろうか。今度、お酒でも持って訪ねてみようと思う。

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