【三社対談・後編】人口減少の波に対応する車販売業界の生き残り戦略。顧客ニーズを捉えた提案営業の必要性
前編では、車の販売事業を取り巻く現状と未来について話しました。特に、人口減少による市場縮小や生存競争の激化が予想される中、パーソナライズされた提案営業や顧客との関係性の重要性について意見が交わされました。後半では、このような課題にどう対策を講じるべきか、さらに深掘りしていきます。
「定型業務」を「非定型業務」に変えていくことの重要性
山本:
改めてお二人に伺いたいのが、私が「定型業務」と「非定型業務」と呼んでいる業務についてです。ある程度決まったプロセスでこなしていくのが定型業務。決まったプロセスをこなしていくわけではなく、例えるとお客様の課題を聞き出し解決策を個別に提案するような業務が非定型業務です。この2つのうち、いわゆるソリューション提案、非定型業務をやっていきたいという声をカーディーラーからよく聞きます。しかし決まったプロセスがない分ノウハウを従業員が理解できず、上手くいかないケースが少なくないようです。この原因がシステムの課題と混在して考えられてしまうことが多いと感じています。お二人がおっしゃったことは、経営レベルで見て新規顧客が減ってきているなら、顧客獲得で競合と競い合っても先はない。だからそこに注力するよりも既存顧客にアプローチして、ご満足いただけるよう積極的に提案しようという話ですよね?これは定型業務から非定型業務へのシフトだと思うんです。そのための抜本的な取り組みや、解決策として何があると思いますか?
登川さん:新規顧客が減ってきている危機感を持つことと、非定型業務を行える仕組みがあるかどうかが重要だと個人的には思います。新規顧客は基本的に車を買いたくて販売店に来て、その場で契約が決まります。その後、非定型業務、すなわち新規顧客だった人を既存顧客として考え中長期でアプローチするために顧客管理をしていく仕組みがない販売店がほとんどなんですよね。
山本:そうですよね。ロイヤルオートサービス様では定型業務を非定型業務化していく取り組みとして、何かやっているのでしょうか?
奥野さん:ご支援をいただきながら、TMMS(テスト・マーケッター・モニタリング・ストラテジー)という、例えば「半年後、お客様にこういう状態になっていてほしい」という状態設定を一番最初に決め、その状態になるためにどんなサービスを提供すれば良いのか、目標の状態にたどり着いたお客様にはその後どのようなサービスを必要とするのかを、個別に細かく考えていく取り組みをしています。
もう一つ、車を買ったときのメンテナンスパックの提供についてのあり方を改めて考えております。メンテナンスパックとは、車検までの整備や点検などのアフターメンテナンスのことです。車の購入から最初の車検まで3年間ありますが、その間でお客様と会うのは少ない方だと1年間に1回程度しかありません。しかし3年間もあれば、お客様の生活状況は変わっている可能性が高いでしょう。ライフスタイルの変化に沿った提案をするためには、もっと頻繁に顔を合わせる必要があると思います。メンテナンスパックとして提供しているサービスは車を軸に考えて作られており「車は半年に1回点検すれば壊れることはほとんどないから、お客様と会うのも半年に1回で良い」という前提なのです。半年という期間の中でもお客様のライフスタイルは変化し、車の使い方も変わっているでしょう。移動に関する新しいニーズが生まれているかも知れません。だから、メンテナンスパックとして決まったサービスを決まった期間で提供するという考え方だけではなく、お客様との接触頻度を増やしてライフスタイルにあわせたフォローをしていくこと、その仕組み作りが必要だと考えているのです。
山本:従業員の皆様が個別対応の為に必要な思考の順序やお客様に伝わりやすくする為の可視化作業などをプロセス化できるようにSalesforceやその他のシステムを活用したいというイメージですかね。これまでよりもお客様と接触する回数を増やして柔軟な対応をしてもらいたいが、各従業員任せにしたら方法がわからず困ってしまう人もいる。そこでそれぞれをフェーズ化し、各フェーズで何をどう考えるかのプロセスを決めて、どの従業員でも従来より細かく柔軟なサービスをお客様に提供できるようにしていく。そのために顧客情報を詳細に管理するツールとしてSalesforceなどを使っていると。
奥野さん:まさに、おっしゃるとおりです。
山本:例えば、お客様から別のお客様を紹介していただくことも非定型業務の一つだと思います。この業務を定型化していくということは奥野さんの中で考えていますか。
奥野さん:そもそも紹介獲得を継続し続けることが難しいと思うんですよね。紹介してくださったお客様に何かしらのお礼となるギフトを渡し続けることになると思いますが、そうするとコストがかかり続けてしまいます。もちろんシステム化できれば理想的ではあるのですが、現実的に行えるのか、どのフェーズのお客様から紹介してもらうのかなど明確な答えはまだつかめていない状況です。
登川さん:リブ・コンサルティングでは、ロイヤルオートサービス様以外にも中古車系の企業様の紹介業務の仕組み化に対応することがあります。しかしその前段階として、中長期の見込み顧客を管理する仕組みで紹介のプロセスを管理するシステムなどが構築できないと、紹介業務自体を仕組み化できても結局うまく機能せず形骸化してしまいます。
デジタル化により生み出した時間を顧客管理に当てていく
山本:ここまでの話をまとめると、人口減少により車を保有する人の数が将来的に減ってくる。そうなると、既存顧客を活用してマネタイズする必要が生まれ、そのためには顧客情報を詳細に管理するデジタルツールが必要になる。これが中長期的な見込みですよね。しかし現状、デジタルツールに顧客情報を移して管理することは新規の契約獲得にはつながらず、従業員としてはメリットが感じられないため、重要性はわかっていても後回しにしてしまうことが、中古車販売業界全体で見られる。
その中でロイヤルオートサービス様は一歩踏み出してデジタル化を進めていて、それが数年後他社との業績の差として如実に表れるでしょう。実際にデジタル化を進める中古車販売企業の役員として、デジタル化に踏み切れない企業へのメッセージがあれば、奥野さんから伺いたいです。
奥野さん:デジタル化は今すぐやるべきだと思います。少し視点が変わりますが、正直現状の営業マンや技術者に、詳細に顧客管理をしてお客様との接点を増やせと言っても、忙しくて時間を割けないでしょう。デジタル化には、業務を効率化して時間の余裕を作れる側面もあります。そのため、いきなり顧客管理のデジタル化に踏み切れなくても、他の非効率な業務をデジタル化して、従業員が顧客管理に時間を割けるようにしてあげることも必要だというのが私の考えです。
登川さん:奥野さんのご意見は重要だと思います。例えば、特定の地域に中古車販売の大手競合他社が進出し、お客様を持っていかれてしまうケースはよくあります。その理由はさまざまですが、一番大きいのはブランディングと集客力でしょう。その企業に対して地場の中古車販売店が対抗しようとしたら、お客様に新しい価値を提供し、満足度向上を追求していくことが求められると思います。しかし現状そこまで手を回すリソースが社内にないことが多い。だからデジタル化によって非効率な業務を効率化し、お客様に提供する価値の創造や満足度アップにつながる施策に取り組む時間を作っていく。それができると理想的なのではないかと思います。
デジタル化により生み出した時間で得られる「価値」を貴重なものと捉え活用する
山本:まずは売上に直接関係しない非生産的な業務からデジタル化し、顧客との接点を増やしていく時間をつくる、その考え方を社内に広めていくことが重要ですよね。そもそもこのような考え方ができるのは、奥野さんだからこそではないかとも思うんです。かつて奥野さんが営業をしていた時代、例えばお客様が車を受け取りに来る時間をきっちり設定して無駄な時間を減らしたり、ご自身で配車したりしていたと聞いています。このような経験のある奥野さんが役員をしているからこそロイヤルオートサービス様ではデジタル化に踏み切れたのではないかと。そのあたり、登川さんはどのようにお考えでしょうか?
登川さん:正直ベースで話すと、奥野さんがいるからロイヤルオートサービス様でデジタル化が進んでいるという側面はあると思います。
例えば一族経営の企業では役員に現場経験がない状態で、現場の忙しさや効率化の重要性がわからないまま経営しているケースが見られます。このような企業では、超優秀な営業部長が経営者の右腕としているかどうかで、その先の戦略は大きく変わってくるでしょう。その観点で見ると、ロイヤルオートサービス様には奥野さんという人がいたからこそデジタル化に踏み切れているのだと、私も感じている部分です。
奥野さん:仮に現場の経験がなくても、捉え方次第で効率化することの重要性は誰でも理解できると思っています。例えば私は明日、長野の本社で役員会があるのですが、今こうして都内で取材を受けられるのは、Web会議ツールによる役員会のデジタル化により移動の時間が効率化・削減できているからこそですよね。そうして生まれた時間を、対面での取材という普段の仕事ではなかなかできない体験に使えています。ここで話したことが記事になり、読んだ人が自分の行動を変えるきっかけになったとしたら、私は非常に有意義な時間の使い方ができたと感じられます。
今回は取材に時間を使いましたが、人によっては直接自分の収入につながる時間とすることもできるかもしれません。もちろんここまでに話してきた顧客管理の時間として費やし、顧客満足度アップにつなげることもできるでしょう。
業務や無駄な時間を効率化することで、その時間を使って新しい体験や価値が得られる、あるいは誰かの行動変容を促す機会にもつながると知ることで、デジタル化の重要性、緊急性に気付く人の数が増えるのではないでしょうか。
(以上)