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【俺の名言コースター 名言#22】

40代女性 (未婚) ラジオネーム キキさんの名言


またまたキキさん。イイですよ、昂る40代。そして(未婚)表明。イイですよ。

というわけで村上春樹風に。

 
===
完璧な別れ。
そんなものが僕の世界にあるなんて、生まれてから一度だって考えたことがなかった。
大方僕が真剣に考えてきた事といえば、80年式のスバル・フォレスターの事か、春先の可愛い女の子の事くらいだろう。

結婚式前日の早朝、突然電話がかかってきた。僕は目覚まし時計のかわりに受話器を取る事になった。やれやれ。また今日が始まる。

「ねえ、あなた、瓜崎くんで間違いないわよね」聞き覚えのない女性の声だった。歳は30代ぐらいかもしれない。婚約者のすみれの声ではなかった。

「はい。そうだと思いますが。どちら様でしょうか」
砂漠のように平坦で乾いた声が出た事に、僕自身驚いた。

「そんな事どうだっていいわ。あなた、明日の事覚えてるわね?17時に銀座のホエールホテルのロビーよ。アレも忘れないでね。それじゃあね」

彼女はそう言うと、音もなく受話器をおろした。僕の知らない所で真綿の受話器が流通しているのかもしれない。
ツー、ツー、ツー。その音が無ければあるいは会話が終わった事にすら気が付かなかっただろう。

アレとは何の事を言うのだろう。僕は起き上がり、朝食のスパゲティを茹でながら考えてみたが、何も思い浮かばなかった。いくらなんでも手掛かりがなさすぎる。
僕は手掛かりを一から探すには若すぎたし、手掛かりを自ら創り出すには歳をとりすぎていた。
考え続けるうちに無慈悲に時間だけが過ぎていった。もうパスタは胃の中で心地よく眠っている。
試しに声に出してみた。

「アレ」

声に出すべきではなかったのかもしれないし、出すべきだったのかもしれない。そんな議論は、この数秒の間にどうでもいい事になっていた。僕の人生からどうでもいい事を取り去ったら、一体何が残るのだろう。

彼女は一体誰だったのだろう。
僕は明日の結婚式に招いたリストを見てみた。思い当たる女性は見あたらなかった。

ふと、すみれと春にこんな事を話していたのを思い出した。

「今、何て言ったの?あの人を何に呼ぶですって?」
「もちろん僕らの結婚式にだよ。秋ならまだクマとリスも呼べる」

ベランダから空を見上げると、転がる子犬のような雲がゆっくり過ぎ去っていった。

翌日、僕にはこの上なく華麗とも言うべき、
完璧な別れが待っていた。

 
 

ポストありがとうございました☕️

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