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手焼きお麩の味を守り抜く「澤田製麩所」~近江の名産『丁字麩』を使ったからし味噌和えは祖母の味~

みなさんにとって思い出の味はありますか?
 
近頃の食事は、簡単に調理して食べられる料理が食卓に並びます。外食はチェーン店や、コンビニでついつい済ましてしまうのですが、子どもの頃は、親戚が集まったときには、よく作ってくれていたなーと。大人になるにつれてふと思い出し、懐かしくなって、食べたくなるものが増えました。祖父母が、よく食べていたものが健康万能食品だったなとしみじみ気づかされます。

特に丁字麩のからし味噌和えは、湖東の郷土料理でもあり、大好きな味です。そのお麩が南彦根で作られているとのことで、お話を聞きに行ってきました。

南彦根駅近くの製麩所で作られる、ここだけの味

JR南彦根駅西口(通称琵琶湖側)を降りてから、徒歩5分の場所でお麩は作られています。早朝の天候によって澤田製麩所付近から、お麩を焼いている良い香りがします。

こちらでは小売はされていません。製麩所となっています。

ここで製造されているお麩は丁字麩だけではなく、滋養麩、手作り焼麩などがあります。

県内の小売店のお麩コーナーには、様々なお麩が陳列されています。パッケージデザインが何十年も変わっていないため、見覚えのある袋を見つけるだけで懐かしいです。曲尺(かねじゃく)の屋号のカネサのロゴマークも素敵です。

お麩は、低カロリー・低糖質でありながら、植物性のタンパク質が豊富に含まれており、お鍋にはもちろん、お味噌汁やお吸い物に入れても、和えものにしても美味しい健康万能商品です。

三代目がつくるお麩は、手焼きの美味しさをみなさんのもとへ

祖父の代から続く澤田製麩所を営むのは、三代目の澤田 敏雄(さわだ としお)さん。製造から梱包・取引先への発送・ネット販売の全てを行います。

祖父である初代がお麩作りを鍛錬した後、1932年に台湾に渡り、そこでお麩のお店をしていたそうです。第二次世界大戦終戦後、彦根の地に帰ってきて、金物屋をしたのち、お麩作りを現在の場所で再開されました。

引用 講談社 全国ふるさとの味

1979年に発行された料理研究家の土井勝さん監修の『全国ふるさとの味』にて、澤田敏雄さんの御父様である二代目の姿と、近江の名産 丁字麩を使った「丁字麩のからしあえ」が紹介されています。

このレシピは、丁字麩の良さである、もちもちとした食感になめらかな舌触りが生かされています。自宅にある白みそ・砂糖・お酢・白ごまを混ぜ、輪切りにしたきゅうりをいれることで、しゃきしゃきとした食感も加わり、栄養満点の丁字麩のからし味噌和えの出来上がりです。滋賀の郷土料理として多くの人に愛されています。

清潔な作業場

お麩の製造は、午前2時から始まります。

こちらの機械で材料を練り、1kgのタネを作ります。 

タネを14筋に包丁で切るところは熟練の職人技です。タネを作り、左手の水槽の水につけるまでの一連の作業です。

こちらの丁字麩の型に入れて焼きます。四角い焼き麩で、6面全体が焼かれます。

お麩作りには無駄がない

手焼きだからこそでてしまう売り物に出来ないお麩は、パートさんの手作業で省きます。こちらは、従業員の方々や、楽しみに待っていただいている方々に、配っていらっしゃるそうです。
 
機械焼きではなく、手焼きだからこその味があり、売り物には出来ない部分が生まれますが、お喜びいただける方々に渡すので廃棄がないそうです。事業系食品ロスがとても少ないということです。
 
澤田製麩所のお麩は大切に消費されていると思いました。

お麩作りに欠かせない機械を、修理する人がいない?

今直面している問題は、お麩を作る機械を扱う機械屋さん・修理屋さんがほぼいないことです。現在はお付き合いのある職人さんにお願いして修理点検してもらっていますが、その方もご高齢で、10年先の未来のことを考えると心配だそうです。

職人さんもですが、機械の型がないそうです。同じ焼きの機械でも、たこ焼き・鯛焼き・大判焼きとは違うので、その道の機械職人さんではないと修理が出来ません。
 
滋賀県内でも6件しかない製麩所。澤田さんが大事にしていることは、「良い品質を保つこと・お得意様(お取引先様)への納期を守ること」。当たり前のことですが、とても難しくて、大事なことだと思いました。
 
今の手焼きで生産できる量が決まっています。待って下さる人たちのために、迷惑をかけないよう、平日週5日生産して、需要に応えられています。

平成20年2月2日に認定されたお麩の日。ふふふっと笑いたくなりますね。

こちらのお麩を焼いた時に出来る端のパリパリの部分は、彦根城のお堀にいる白鳥にエサになっています。
 
以前は彦根近郊にあった養豚場で豚のエサになっていましたが、二代目の時に養豚場がなくなり、捨てるにはもったいないこの部分をどうしたものかと悩まれていたところ、ご縁があり彦根城の白鳥たちのもとに届けることになったそうです。

澤田さんは、この端の部分を、「もらっていただいている」とおっしゃっていました。お麩の端の部分でも、もしかすると、売り物になるかもしれないのに、40年以上にわたり「お受け取りください」と無料で提供されているのは凄いと思いました。今年は5月に7羽の雛が生まれたので、より沢山お届けされたそうです。

麩や米のもみ殻を混ぜたエサ

令和5年5月に生まれたコブハクチョウの雛は大きく成長し、親鳥と変わらない姿です。白鳥は、毎日3食食べて大きくなりました。

彦根のお麩の未来

澤田さんは、お麩という食品が、これからも、みなさんの食卓に並んでいてほしいという想いを語ってくださいました。言葉数は少ないですが、お麩作りに対する強い信念を感じました。
 
そして、澤田さんの息子さんが、四代目として彦根の地で近江の名産 手焼きの丁字麩を引き継いでくださるとうかがい、安心と、希望と誇り、楽しみな気持ちでいっぱいです。
 
私は、これからも沢山お麩を美味しく、楽しく食べて健康に過ごし、祖母との思い出の味『丁字麩のからし味噌和え』を次の世代に繋いでいきたいと思います。
 
お麩という食品は、栄養素に優れ、長期保管が可能です。日常の使い慣れた食品が、非常時の備えにもなるので、ローリングストックにも適応していると思います。

彦根城近くのお土産やさんでは、贈答用にラッピングされている丁字麩が販売されています。
 
こちらには、丁字麩の料理レシピがついています。からし味噌和えはもちろんのこと、奥様が考案された「和風麻婆麩~ゆずこしょう風味~」「丁字麩の揚げ煮」など、丁字麩料理を楽しむための、作り方が載っています。
 
こちらの包装は絵・紐の色合い・包装方法がシンプルで素敵です。奥様がラッピングをデザインされたそうです。彦根の丁字麩を、遠くにいる親戚や、お土産に渡すのにぴったりです。

お麩の面白いところは、材料は一緒なのに、地域によって焼き方・形が違うこと。北陸のくるま麩はバームクーヘンのような円形にして直火で焼き上げ、山形県の板麩は生地を棒に巻きつけて火で炙り、仙台の油麩はフランスパンのように棒状にした麩を油で揚げてつくります。

などなど、材料は同じなのに、うどんの太さに地域の特徴があるように、お麩にも地域の違いがあるのが面白いです。旅行に行った際には、要チェックして食べ比べしたいと思います。

最後に

毎朝南彦根駅前を通る時に、たまに香ってくる匂いに魅かれていました。祖父母の声や姿を再現することはもう出来ないですが、料理では、祖母が作ってくれた丁字麩のからし味噌和えの味に近づけていると思います。この思い出の味を、これからも大切にしたいです。澤田製麩所 澤田敏雄さま、初めての不慣れな取材に丁寧にお答えいただき、本当に有難うございました。
 
滋賀県の郷土料理として、丁字麩のからし味噌和えはこれからも愛され続けて欲しいです。みなさんにとっての、思い出の味があれば教えてくだい。


澤田製麩所
住所:滋賀県彦根市小泉町300-31
電話番号:0749-22-1279
土日祝日は休業
澤田製麩所での小売はありません。
ホームページ:


(写真・文: 北川 真帆)