永遠のテンポエムチャイルド その4
敬子がいつものように出社すると
ゴミが片付けられており
周りが綺麗になっているので
「十詩子うまくいったんだ」
と思いました。
ゴミ置き場から
帰ってきた
十詩子は
敬子に
さんざん冷やかされました。
敬子:
うまくいったのね
何食べたのよ
手はつないだの?
十詩子:
そんなー
そんなことありません。
食べたのはパンよ
敬子:
パンなの
そんなんじゃ雰囲気良くないんじゃない
それだけなの
他にないの
十詩子:
喫茶店にも行ったよ
男の人と喫茶店に行ったの初めてよ
敬子:
それは良かったわね
十詩子:
悟さんたら
私のお部屋は
ロフトだというのよ
ロフトって知ってる?
敬子:
ロフトって何よ
十詩子:
ロフトというのは
屋根裏部屋と言うことなの
私の部屋ロフトなのよ
もし悟さんが来たらどうしよう
何もないお部屋なのよ
敬子どうすればいいの
敬子:
どうでもしたらわ
そう言いながら
十詩子はルンルンで
その週を過ごしました。
十詩子は
もうすぐ試験なのに
勉強もせずに
自分のお部屋を
どうすべきか見回しました。
外観はともかく
お部屋の中は
何もないお部屋です。
階段を上がると
廊下があって
奥のドアが
十詩子の部屋です。
扉は
古い木でできたもので
飴色の木の枠があって
その中に木がはめ込んであります。
八等分されてはめ込んでありました。
ドアを開けると
靴を脱ぐところが半畳ばかしあって
それから畳のお部屋で
6畳ばかしあって
右側に押入
左側に台所があります。
畳の向こうが
板の間になっていて
その部分は
斜めの天井です。
その斜め部分に
窓があります。
十詩子は知りませんが
この窓を腰窓:ドーマーウインドーと言います。
十詩子の家財道具は
家から持ってきた文机と食器を入れる小さな戸棚だけです。
他は布団と服が少しあるだけで
それらは押入に仕舞ってあります。
壁は漆喰塗りで
少し古ぼけていました。
十詩子は
まず掃除しかないと考えました。
ぞうきんを掛けて
できるだけ美しました。
所々にある落書きも
ぞうきんで強く拭くと
消えて目立たなくなりました。
会社を定時に終わって
寝るまで掃除して
二日間で
小さなお部屋の掃除してしまいました。
天井まで拭き取ったんですが
十詩子の目には
あまり綺麗にはならなかったんです。
十詩子は考え込みました。
お部屋をもっと
美しくできないか悩んでしまいました。
明日が試験というのに
そんなことばかり
考えていました。
あまり試験勉強していませんでしたが
日曜日が来て
試験場に行くことになりました。
試験場は
十三の近くの女子高校でした。
十詩子は
自転車で
阪急塚口駅まで
行きました。
駅前の映画館近くに
自転車を置いて
駅に行きました。
駅の改札口で
悟と待ち合わせしていたのです。
試験は
10時からです。
それで
ちょっと早いのですが
8時半に約束をしていたのです。
十詩子は
8時前には
待ち合わせの改札口にいました。
しばらくすると
悟も来ました。
悟:
遅かったかな
十詩子:
そんなことないよ
早すぎるんじゃないかしら
悟:
そうだよね。
早すぎるよね。
十詩子:
今日の調子はどう?
私はまあまあかな
悟:
僕もそうだ
試験の前はいつもそうだけど
と言いながら
早いのですが
十三に電車で向かいました。
3つ次の駅の十三でふたりは下りると
電車沿いの近くの女子校に行きました。
まだ早くて
誰もいませんでした。
受験票の番号を見て
教室に向かいました。
悟と十詩子は
教室が違うので
帰りに会う場所を約束して
そこで別れました。
十詩子は
久しぶりの
高校で
少し懐かしく
黒板を見ました。
十詩子は
試験場に着くと
まず席を探しました。
小さいパイプ机と椅子
懐かしく座りました。
十詩子はとっておきの物を
鞄から出しました。
それは
座布団です。
豊岡は寒い所ですから
十詩子の母親が
作ってくれた物で
何年間も愛用していましたが
高校を出たとき
母親が少し作り直して
持ってきたのです。
座布団を
椅子に付けて
準備完了です。
ゆっくりと始まるのを待ちましたが
早かったので
眠たくなってきました。
「そうだ
勉強しなくっちゃ
どこが出るかなー」
と考え直して
勉強をはじめました。
勉強に熱中すると
すぐに時間が経って
試験官がやってきて
試験が始まりました。
十詩子にとっては
少し簡単すぎて
がっかりしながら
全部解きました。
だいぶ早く出たので
途中で退席もできましたが
悟と約束した時間まで
あったので
試験場内で待つことにしました。
十詩子は暇だったので
辺りを見回して
人間観察をすることにしました。
若い人が多くて
男女の割合は
半々くらいでした。
中には
40歳くらいの人もいました。
何となく
まじめな人が多いように思いました。
そんなことを考えていると
試験官が
時間を告げました。
十詩子は
座布団を鞄の中に
仕舞って
試験場を出ました。
待ち合わせの
校門の所に
急ぎました。
悟が
たくさんの人の中で
待っていました。
悟:
十詩子さんどうだった
十詩子:
どうかな
悟さんはどうなの
悟:
僕は
まあまあだな
ところで
まだ受けるの
十詩子:
そうね
課長が
日商1級を取るように言っているの
だからがんばらなくっちゃ
悟:
すごいね
じゃ まだまだ続くんだ
ふたりは
ゆったりと
喫茶店で
コーヒーを飲んでいました。
十詩子:
悟さんは大学生なんでしょう
悟:
そうなんだけど
十詩子:
どこの大学?
悟:
ちょっと大きな声では言えないな
△□?#大学なんだ。
十詩子:
よく聞こえないんだけど
悟:
だから
△□?#大学なんだ
十詩子:
そうなの
どこにあるの
悟:
大阪の東の方
十詩子:
家から何時間ぐらいかかるの
悟:
1時間40分くらいかな
早く出ているけど
ちょうどにいくと
電車が混むんだ
十詩子:
いいね
大学って
私行ったことないけど
一度行きたいな
悟:
じゃ僕の大学に来たら
十詩子:
そんなことしたら
怒られるんじゃないの
悟:
大丈夫だよ
わからないよ
だって
たくさんの学生がいるから
十詩子さんのような若い方なら
絶対にわからないよ
十詩子:
そうなの
体験で行っても良い?
悟:
僕が許可することでないけど
学長に代わって許可するよ。
十詩子:
エー許可してくれるの
何時がいいの
悟:
何時でもいいんじゃない
火曜と木曜は
実験だから
ちょっとダメかな
それ以外なら
いいよ
十詩子:
じゃ明日行こうかな
ダメだな
休暇願を出していないし
じゃ水曜日
でどうかな
悟:
もちろん許可するよ
確か水曜日は
公衆衛生学と
生物だったかな
午後は
えー
たぶん薬物学概論だと思うよ
十詩子:
わからないよ
そんな学問
悟:
君ならわかると思うよ
僕は
まあまあだけど
十詩子さん
水曜日は
どこで待てばいいの
悟:
今日と同じ場所で
7時10分かな
こんな話は
まだまだ続きます。
コーヒーも終わって
水を飲みながら
ふたりは
話し合います。
十詩子:
どんな服でいいのかな
目立ったらいけないし。
悟:
別に何でもいいんじゃないの
今の服装でいいよ。
十詩子:
これでいいの
こんなワンピースでいいの
悟:
あまり関心を持って
みんなを見ていないけど
そんな服を着ていると思うよ
十詩子:
そうなの
じゃこんな服で行こう
少し話さなくなって
悟:
ケーキも頼まない?
十詩子:
それはいいですね
頭を使うと
何かおなかが減るよね
悟:
そうだね
砂糖は
頭の栄養だからね
甘いものがいいんだよ。
ふたりは
ウエイトレスを呼びました。
ウエイトレスは
水を持ってきて
注文を聞いて
帰りました。
美味しそうな
イチゴのショートケーキを
金の縁のある緑の皿に入れて
持ってきました。
ふたりは
スプーンを持って
少しずつ
食べ始めました。
悟:
美味しいよね
十詩子:
そうね。
私の母は
いつも売っているものに
『美味しくないものはない』
と言うのが
口癖だったけど
私が
高校の入学祝いに
国道沿いの大きなケーキ屋さんで
ケーキを買ったんだけど
その味が
もうひとつなんですよ。
母は今までの
常識を覆す
そんなケーキがあって
がっかりしたみたい。
でもこのケーキは
美味しいよね。
悟:
そうなの
美味しくないケーキもあるんだ
一度食べに行きたいものだね
十詩子:
まだありますよ
今度豊岡に来たときに
行ってみたらいいわ
悟:
楽しみしているよ
いや
楽しみではないね
美味しくないのだから
ふたりは
ちょっと笑って
顔を見合いました。
それからもっと色々なことを話して
喫茶店を出て
楽しそうに
電車に乗って
塚口に帰りました。
水曜日にまた会うことを
約束して別れました。
月曜日十詩子は
また早く出社しました。
いつものように出社した敬子は
十詩子が
今日は早いと予測していました。
日曜日に
十詩子と悟が
喫茶店に入るのを
見ていたからです。
敬子:
十詩子さん
今日も早いのね。
昨日あれからどこへ行ったの
十詩子:
あれからって?
敬子:
何をとぼけているの
喫茶店に行ってからよ
十詩子:
見ていたんですか
言ってくれればいいのに
喫茶店に行ってから
帰りましたよ。
敬子:
そうなの
他に行ってないの
直ぐ帰ったの
十詩子:
他には行っていませんが
すぐには帰っていませんよ
夕方近くまでいましたよ。
敬子:
そんなに話すことあるの
何を話していたの
十詩子:
そうなの
聞いて聞いて
敬子さん
あのね
私悟さんの
大学に
水曜日行くの
ねえ
どんな服で行くと良いかな
こんな服で良いかな。
新しい服買った方が良いかな
敬子:
えー
大学に行くの
何しに行くのよ
ずーっと行くの
十詩子:
悟さんが
来ても良いというものだから
敬子:
そんなこと話していたの
信じられない
もっと他のこと話さないの
好きだとか
愛しているとか
話さないの
十詩子:
そんなこと
話しませんよ
そうなの
そんなことを話すの
普通は話すの
敬子:
普通はそうよね
恋人同士なら
そんな話をするんじゃないの
十詩子:
そうなのか
でも
悟さん楽しそうに
話していたのよ
私たちは
付き合っているんじゃないの
敬子:
私に聞かれても
そんな話をしていると
いつものように
課長が来て
話は中断されます。
課長が来て
話が中断してしまった
十詩子と敬子の話ですが
その続きは
お昼の時間に続きます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?