永遠のテンポエムチャイルド その9
十詩子は
面倒見が良くて
部下思いだったので
慕われていました。
電算機の使用が
うまくいくようになるのが予想されたので
会社を挙げて
電算機で
経理処理を採用することが
決まりました。
多数の
キーパンチャーを養成しなくては
いけなくなりました。
また省力的な
新しい入力の仕方も
考え出すように言われたのです。
十詩子は
月末も
工場に行くことなしに
本社で
キーパンチャーを養成していました。
それとは別に
新しい入力の方法も
考え出しました。
今までの伝票を
少し体裁を変えるだけで
間違いなくできる方法でした。
一年は
あっという間に終わって
十詩子は3年に
悟は4年になりました。
悟は
入社3年目
若くして主任になった十詩子は
益々忙しくなりました。
就業時間は
夜学生として
優遇されていますが
実質的には
計画案・企画案を
時間外に考えないといけないので
大学までの電車の中や
授業中も
考え込んでいました。
乗り過ごしそうにもなってしまいましたが
悟との会う時間の僅かな時間は
大切にしていました。
夏休みになって
大学が休みになると
東京の研究所に
行きました。
1ヶ月にもおよび
電算機の基礎から
だいぶ高度なことまで
教わりました。
研修後
部下にまた教えないといけないので
大変です。
夏休み明けの
試験期間は
会社から特に休暇を与えられ
十詩子のロフトのお部屋で
勉強していました。
悟が来るかなと思って
付けた南向きの窓の
カーテンは
すっかり色あせていました。
大学の試験は
会社の課題より
十詩子には簡単でした。
試験は
80点以上とればいいのですが
会社の仕事は
100点満点でなくてはならないからです。
そんな風に大学・学生生活・会社を過ごして
十詩子は3年
悟は4年になりました。
悟は4年になると
普通の学生なら
卒業研究と就職活動と言うことになります。
当時の就職活動は
9月頃からですが
悟はそのどちらもしません。
悟は
薬学部を卒業すると
建築の大学に
進学したかったのです。
そのため悟は
4年になると
ぶ厚い受験用問題集を
やっていました。
十詩子は
問題集のやり方が
飛び飛びなので
悟に聞いてみました。
十詩子:
悟さん
問題集
飛び飛びにやるの
悟:
そうなんだ
これがぼくのやり方さ
と偉そうに言える方法でもないんだけど
十詩子:
何故飛び飛びに?
悟:
ぼくは飽き性なんだ
すぐに飽きてしまうから
問題集も常に新しくないと
飽きてしまうんだ
だから
ページをめくったところが
最初のページというわけ
十詩子:
それは良い考えね
いつも新鮮という訳ね
悟:
十詩子さん
本当にそう思ってる?
始めから
やっていく方が良いと思っているんでしょう。
良いように編集してあるのだから
十詩子:
そんなことないです
悟:
十詩子さんは
ぼくよりズーと賢いもの
それに忍耐強いし
今は係長でしょう?
十詩子:
そんなことないです。
本当にそんなことないです。
係長じゃありません。
課長代理ですから
悟:
えっ
課長代理になったの
まだ入社4年目でしょう。
十詩子:
えへっ
ちょっと
ごめんなさい
今度辞令をもらって
課長代理になったの
ちょっと前に書いた
早期原価計算に関する電子計算機処理システム
を作るプロジェクトなの
悟:
わからないよー
第一
電子計算機自体わからないもの
電子計算機って
どんなものなの
詳しく聞いたこと無いよね。
十詩子:
そうね
電子計算機は
大きな
わがままな機械ね
外から見ても
何にもわからないけど
早いのよね
(この話は続きます)
十詩子は
平素は
あまり会社のことや
自慢はしなかったのですが
自分でも
4年目で
課長代理になったことが
嬉しくて
話してしまったのです。
十詩子:
計算機は
本社の
地下室にあってね
計算機本体は
いつも
15℃に保たれたお部屋の
真ん中に
鎮座ましましているの。
今度入った新しい機械は
東芝製で
三台の機械が
背中合わせに
三角状に
建っているの
その周りには
オープンデッキの
テープレコーダーみたいな機械が
いっぱい並んでいて
電線で繋がっているの。
悟:
そんな機械のそばで働いているんだ、、
十詩子:
違うわ
その機械に入れるのは
特定のエンジニアだけ
私たちは
ガラスで仕切られた
その前にいるの
電算機に
入力するための
入力機や
ラインプリンターと呼ばれる
印刷機
それから
入力するための
パンチカードを作る
パンチャー
があるの
机ぐらいの大きさの台に
ボタンがいっぱい付いていて
それを押すと
厚紙に
穴が開くの
穴の開いたカードを
入力機に読み取りさせると
計算機が
動いて
ラインプリンターに
出力するという仕組み
なんです。
悟:
君の説明はよくわかったけど
あまりよくわからないよー
とにかく大変なんだ
十詩子:
大変みたいね
私は
機械のことは全くわからないわ
私の仕事は
どの様なデータを
どの様に計算するかを
プログラマーに
伝える係だから
わからないの。
悟は
十詩子は
知り合った頃の
十詩子とは
全く違うと言うことが
わかりました。
十詩子には
十詩子の大きな道があると思いました。
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