変換___abd2c55483e898652f638c2d2994711d_s

永遠のテンポエムチャイルド その12

十詞子は

すこし高めに見える

指輪を左手薬指につけました。


イミテーションリングですが

見かけは

立派で落ち着いていて

十詞子によく似合っていました。


それをつけていると

部下にも安心して

接することが出来ました。


一方

悟は

例の受けた試験の結果がやってきました。


悟は私立大学ですので

国立一期校の

面々が受験する

採用試験に

合格するのは

「すこし困難があるかな」

と思っていたのですが、

試験だけには

強運の

悟は

二つとも合格していました。


大阪市の採用試験は

試験に通れば

採用になるのですが

国家公務員試験は

採用者名簿に載ったと言うだけで

採用されるかどうか

あるいはまた

東京の国の機関に

採用されるかは

まだ分かりません。


それで

十詞子には

言えませんでした。


夏に

十詞子が帰ってきた時も

就職が

話題に出たけど

9月解禁で

まだ分からないと言うようなことを

話していたのです。


夏が過ぎて

だんだんと寒くなってきて

11月になりました。


その頃

悟の母親は

悟の結婚を

強く勧め始めました。


「社会人になるし

26歳だし

早く結婚しないと

いい人が無くなる」と

いつも言って

見合いを勧めたのです。


もちろん悟は

十詞子が好きで

結婚するなら

十詞子と

決めていたので

母親にも

断っていました。


11月の終わりごろ

待ちに待った

東京の大学から

建築職の

採用のために

面接に出向くように

通知がありました。


悟は

「やったー

これで

十詞子と

東京で

結婚できるぞー」

と叫んでしまいました。


12月のはじめ

寒い日でしたが

面接に行きました。


面接は

簡単なもので

形式的なもので

特に問題はありませんでした。


面接が終わったのが

2時ごろでしたので

十詞子に

会いに行こうと

思いました。


それも黙って

行って

びっくりさせようと思いました。


前から聞いていた

十詞子の東京本社に

行ったのです。


着いたのは

4時前で

入り口を入って

受付で

聞いてみようとした時

エレベーターホールに

「ピンポン」と音が鳴って

エレベーターが着き

中から

数人の男女が

降りてきたのです。


悟は

何気なくその方を

見ると

その中に十詞子が居たのです。


悟は

十詞子の手を見て

雷に打たれたような

大きな衝撃を受けました。


大きな衝撃のために

何も言えなくなって

動けなくなりました。


目が点になってしまったのです。

悟るが見たのは

左手の薬指に指輪をつけた

十詞子が

若い男の

方に手をやっている場面だったのです。


悟は

直感的に

その若い男性と

十詞子が

深い仲だと

思いました。


その男性から

指輪を贈られ

左手の薬指に付けていると

思ったのです。


これは大きな誤解ですが

十詞子が

会社では偉くなって

悟には遠い存在になっていたので

そう思ってしまったのです。


悟は

十詞子が自動ドアの外に出て行くのを

見送ってしまいました。


このときの十詞子は

ある企画の重役プレゼンテーションが

無事終わって

打ち上げに行くところで

十詞子が肩を

抱いていたように見えたのは

担当の若い部下の

労をねぎらって

肩を叩いていただけで

いつものねぎらいたったのです。


こうして

大きな誤解は

あんなに永い

悟の恋を

終わらせてしまったのです。


こうして

その終わりは

十詞子とはまったく違うところで

誤解ですが来てしまったのです。


しかしこの誤解は

普通に考えると

すぐに解けるものですが

もう一つの大きな誤解が

ふたりの仲を

永く

裂いてしまいます。


悟は

「十詞子とはもうだめだ。

やっぱり

3年間は永過ぎた

もっと早く

十詞子を迎えに来ていたら、、

でもだめかな

十詞子はあんなにえらくなっていて

私とは釣り合いがつかないもの」

と思いました。


前々から

十詞子が

遠い存在のようになってきていて

こんな日がいつか来るとは

思っていたのですが

こんな形で来るとは

どうしていいかわからなくなりました。


ここは

十詞子の幸せのために

身を引くのが

最善の方法と

考えてしまいました。


そして

悟の母が薦める

見合いをすることになりました。


そのころ十詞子は

冬になったら

悟に会える

悟の卒業だから

卒業したら

必ず

悟はプロポーズをしてくれると

確信して

仕事をがんばっていたのです。


悟に

薬指の

指輪を

見られたことは

まったく気がついていなかったのです。


そうして

十詞子に待ちに待った

冬休みが来ました。


仕事の関係で

20日ごろには

年内の仕事を

すべて終わったので

早く冬休みを取って

クリスマスに

大阪に行くことにしました。


それも悟に

知らせずに

行くのです。


知らせずに

行こうとする

そんな行為が

大きな誤解を生んでしまうのですが

悟を信じていた

十詞子には

当然の行為だったかもしれません。


一方悟は

夢破れて

傷心で

尼崎に帰ってきます。


悟の心の中は

散り乱れて

信じる信じないが

混在していました。


でも十詞子の幸せを考えると

やっぱり

悟は身を引いたほうが

いいと考えに行き着いてのです。


東京の大学からの採用通知に

辞退の旨の返事をして

悟の母の見合いの話を

聞き入れたのです。


仲人は

ロマンティックな

クリスマスイブに

見合いの日を決め

十詞子と悟の

第二の誤解の日がやってきました。


その日

悟は

見合い会場へ

母親と一緒に行きました。


一方十詞子は

東京駅からのぞみの自由席に乗り込みました。


十詞子は

もちろん指輪を

東京の独身寮に

はずしておいて新幹線に乗ったのです。


ウキウキしながら

新大阪に着きました。


いつもなら

電車の中で

何やかやと

仕事の資料を読み漁るのに

そんなこともなしに

悟のことだけを考えていました。


方や悟は

あまり乗り気はしませんでしたが、

これも十詞子のためだと

自分に言い聞かせ

あるいは

見合いの相手に悪いと思い

笑顔で

大阪のホテルに出かけました。


お相手の方は

三田の資産家の

お嬢様で

高学歴の聡明人でした。


父親が

同伴していましたが

温和な方のように

悟には思われました。


仲人様がとっても場を持ち上げる

力があって

妙に

話が弾んで

和やかな雰囲気になりました。


ふたりだけで

映画でもということの

お決まりのコースとなります。


ふたりは

大阪の映画館に向かうために

国鉄の大阪駅と阪急梅田駅の間の

横断歩道に差し掛かりました。


初めって会ったので

手をつないでというわけではありませんが、

お互いに付かず離れずで

笑顔で

少し話しながら赤の信号で止まりました。


その時

十詞子は新大阪から大阪駅に着いて

阪急百貨店に寄って

クリスマスプレゼントを買おうと

同じ交差点に来ていました。十詞子は

交差点の信号が赤なので

立ち止まりました。


前を見るともなしに見ていると

悟によく似た男性が見えました。


十詞子は

もしかして

悟かと思い

じっと見ました。


十詞子は

少し近視で

少し前に進んで

よく見てみました。


その時

その男性は

横を見たので

十詞子には

はっきりと

悟と分かりました。


「あっ

悟さんだ。

大阪に来ているんだ」

と思って

駆け寄って行こうとした時

思わぬ光景が目に入ってきました。


悟が

横の女性と

仲良く何か話しているのです。


十詞子は

全身の血の気が引くのが分かりました。

正常な考えが出来ない

十詞子は

その足を止めました。


声も出ませんでした。


十詞子は

何も出来ずに

そこに立ち止まりました。


悟と見合いの相手は

信号が青になったので

渡り始めます。


十詞子も自然と

後を付いていきました。


悟と女性のふたりは

信号を渡って

阪急百貨店の前を通り過ぎて

左に曲がり

動く歩道に乗って

阪急三番街の前に出て

エスカレーターを降りて

川の流れる街を

通り過ぎて

映画館の前まで行きました。


ふたりは

映画の看板を見て

なにやら話した後に

チケットを買って

中に入っていきました。


十詞子は

夢遊病者のように

後をつけて

呆然と映画館の前で

見送りました。


何時間ぐらい

そこに立ち止まっていたのか

分かりませんが、

十詞子は

我にかえって

気がつきました。


十詞子は

初恋が

終わったと

思いました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?