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オープンに伝えるオンラインメディアの活用 | NPO法人スウィング

新型コロナウィルス感染症(以下、コロナ)の影響がある中でも立ち止まらず、障害のある人とともに仕事を生みだしている取り組みがあります。そのような取り組みが今後の活動のヒントになると考え、「コロナ禍における障害のある人の仕事づくり」と題して情報交換会をオンラインで開催しました。本noteはオンラインで話された内容に加筆してお届けします。
京都のNPO法人「スウィング」は、コロナ禍においてもイベントの配信、感染対策を十分に行いながら展覧会の開催、外部のクリエイターやアーティストとコラボレーションした映像作品の制作などを実施。継続している活動や新しい活動の価値を自ら自覚し、ブログやラジオなどオンラインメディアで魅力を伝える意義と工夫について話しあいます。

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[話者]NPO法人スウィング 木ノ戸 昌幸さん/京都府

― スウィングの紹介とコロナ禍の活動について教えてください。

京都・上賀茂の地で2006年に誕生したNPO法人です。団体の紹介文に記載しているように、NPOというあり方にこだわりを持って15年ほど活動しています。

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「仕事とはこうあるべき」であったり「 芸術とはこうあらねばならない」という固定観念や枠組みを広げていくために、疑問を投げかけ、そして枠が広がれば、生きづらい社会が少しは楽になるんじゃないかなと思って活動しています。 

スウィングは年に3回ほど展覧会を主催しており、2020年5月に今年度の最初の展覧会を予定していました。しかしながら、緊急事態宣言が出ている最中でしたので、展覧会をすることが雰囲気的にも非常に難しいものがありました。 また、会場となるギャラリーは閉じていませんでしたが、展覧会を開催したとしても積極的にお客さんを呼ぶことは難しい状況にあり動きにくい状態でした。

スウィングの "映像" の可能性

それでも何とか方法はないかと考え、映像の可能性がまだまだあると思っていましたので、2020年5月に予定していた展覧会も映像を通して発信していくことにしました。

コロナがひろがる前後から、映像という媒体を通して発信していくことが世の中で散見されていました。たとえば展覧会であれば、展示風景を配信してリアルな会場に行かなくても展示が楽しめることが増えていました。

映像化して配信することを決めたのですが、ただ展覧会の風景を撮影して「さあ見てください」では面白くないなぁとは感じていました。

何を、どう伝えるか」ということは法人の設立当初からずっと考え続けていて、映像という媒体を使って展覧会を伝えるときにも、そのまま配信するだけでは面白くないと思っていました。

そこで『昨日は日曜美術館』という存在しない番組、つまり偽の番組を作って展覧会を紹介するという設え(しつらえ)ができないかと考えました。それが『四宮大登(しのみやたいと)個展/アメリカの事務員』です。

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皆さんもよくご存知かもしれない、例のあの局のあの番組なります。緊急事態宣言が解除されるか・されないかという時期ではありましたが、映像化することを前提に展示空間もデザインしました。

会場は、京都市左京区にある「恵文社一乗寺店」という本屋さんで、店舗の中にあるギャラリースペースで展示してなおかつ撮影も行いました。

撮影には京都在住の俳優さんを雇って、映像にはデザイナーやクリエイターと組んで撮影をしてもらいました。 

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コロナ禍において、多くのアーティストが仕事を失ってしまったり、舞台公演ができないという状況もありましたし、本屋さんも休業しないといけなかったり、ギャラリーも開けてはいるけれどもお客さんが減っていたり動きにくい状況にありました。

そうした中で、幸いにもコロナ禍にあって財政的なダメージを受けていないスウィングが、これまでお世話になってきた身近な人や身近なお店に対して何かしらお返しと言うと偉そうですけど、お金を回していかなければならないという意識もかなり強かったです。

実際にどういう番組になったかというと、

書店の全面協力も得て30分番組となっています。動画の5分45秒あたりから個展を振り返る時間になっていて、ここからゲスト解説者の方が個展を解説します。今回の動画の場合は「吉村智樹さん」バージョンです。

ほかにも、山下里加さん、木ノ戸昌幸&西尾詩さん、星野概念さん&鈴木徹士さん、井崎敦子さん&ふじわらのじこさん、解説ナシ、全部で6バージョンを作りました。

解説した人の中で、四宮大登さんを知っている人は誰一人おらず、初めて見てもらう映像に対してぶっつけ本番で即興解説してもらいました。30分番組を6バージョンなので全部を見ると相当長いですが、ぜひ見ていただきたいなと思います。

この個展は映像だけでなく、フリーペーパーにもまとめています。私たちは年2回『Swinging』というフリーペーパーを発行しています。発行部数9000部で沖縄から北海道まで約350箇所ぐらいに配布しています。

実際の展示もつくる、展示を紹介する偽番組もつくる、フリーペーパーもつくる、3つのことを同時にやらなあかんということになり、かなり難しくもありましたが、今回の試みを通して映像の持つ可能性に気づかされた経験となりました。

展覧会:Enjoy! Open!! Swing!!! Vol.7 FLOWERS

もう1つは2020年10月30日(金)~11月3日に開催した別の展覧会について紹介します。この展覧会に関しては、お客さまにも実際に会場に来ていただき感染対策しながら実施しました。 

「花」をテーマにした展覧会で、その名も『FLOWERS』という展覧会です。このコロナ禍において不穏な世の中がいまも続いていますが、コロナであろうがなかろうが、花は私たちの暮らしに彩りと幸せを与えてくれている、そんな思いもあって、会場を花でいっぱいにして幸せな空間をつくりたいと考えました。

この展覧会も映像化して配信することも最初から考えていました。映像で配信することでリアルな会場に来れなくても全国から見てもらえます。さらにこの展覧会は「自分の作品を展示する」という形で参加してもらえたらいいんじゃないかと考えました。

つまり公募展のような形で展覧会をしつらえました。 自分の作品が飾られていて、会場に来れなくても、映像で見ることができる。そういう循環があるのでなおさら映像がいいんじゃないかとも考えました。

スウィングの内外、有名・無名、老若男女、上手・下手など問わず、約200点の作品が集まって、会場が花(作品)で埋め尽くされました。 

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この展示を映像化するときには、やはり風景をただ映像化するのではなくて、1つの映像作品として成立させて見ていただこうと考えました。

これはその予告編です。 

動画に映っている彼はスウィングの利用者メンバーである日下部尚史さん。洋風な顔立ちをしていまして、年齢不詳で国籍不詳な感じがとても好きなんですけど、花の妖精を演じてもらいました。 

花の妖精が、花のない世界をさまよって、最終的にFLOWERS展の会場にたどり着いて息を吹き返す、そういうストーリーです。 

もう一本予告編があります。 

本編(ショートフィルム)は約10分の映像で2020年12月に YouTube に公開をしました。全編を京都各地で収録して、許可なし撮影を強行しましたが、意外とみんな許してくれるんだなと感じながら撮影を進めました。ぜひ本編も見ていただきたいなと思います。 

スウィングの "ラジオ" の可能性

ここまでは映像の可能性を感じてやってみたという話です。もう1つ始めたことがラジオの配信です。『Swing鼻クソRADIO』という番組で、毎週木曜日に律儀に配信を続けています。 

ラジオはもともとしたいと考えていて、2年前から始めたいなと思いながらなかなかスタートをきれていませんでした。でもコロナ禍で家で過ごす時間が増えて、その時間をどう過ごそうかと考えた時に私自身がラジオを聴くようにもなりまして「やりたいな」という風に始めたわけです。 

内容は本当に無いんですね。聴かなくてもいいようなことをダラダラと喋っています。私自身も最新の放送で何をしゃべったか覚えていないぐらいの感じです。

何か意味のあることが大事にされる世の中にあって、意味のないことや無駄なこと、喋らなくてもいいようなことを積極的に喋って配信することによって、やはり楽になるものがあるんじゃないかなという風に考えています。 

― かなり多くの発信をされていますが、モチベーションはどこからきていますか?

スウィングはホームページ、フリーペーパー、ブログ、Twitter、Facebook YouTube、書籍、ラジオ、と多岐にわたる媒体で発信をされています。「実際にどれくらいブログを投稿しているんだろう」ということで分析をしてみました。 

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2007年9月から2021年2月の間で、平均して年間100件以上あるので、3日に1度ぐらいのペースでブログを投稿していることになります。細かく言えば、週1~2回のペースで発信されています。ブログ以外にもフリーペーパーやSNSなども同時に発信しています。「何を、どう伝えるか」を考えながらも、「何かを伝えなければならない」という意気込みはどこから生まれるのでしょうか?

基本的な考え方としては「実践と発信をワンセットに考える」ということを昔から考えています。たとえばスウィングは「ゴミコロリ」という清掃活動を地元の上賀茂で12~13年ほど月一回のペースでやり続けていて、まもなく150回目を迎えようとしています。

※筆者追記:2021年4月21日にゴミコロリ150回を達成されました

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ただ実践するだけだと「上賀茂の清掃活動」で終わってしまいますが、それをいろんな媒体を通じて発信をすることによって、それが上賀茂だけの活動に止まらず拡散するわけです。

「伝える」という意識が基本的に薄すぎると感じていて、もちろん伝える前には実践があるんですけども、何かとても素晴らしい試みがあったとしてもそれを伝えないと伝わらないわけです。全ての実践を発信とセットにはできないかもしれませんが、基本的には1セットという考えを持っています。 

スウィングの中では、発信は私の役割とは考えていて、もっとみんなも発信すればいいなと思いながらも、ブログのほとんどの執筆者だったり、発信装置みたいになっています。 

モチベーションに関しては「伝えなアカン」という気持ちがすごく強いです。でも最近は何が伝えたいのか分からなくなってきました。最初はもっとわかりやすいもの ― たとえば、障害のある人への誤解や偏見を変えていきたいとか ― がありました。

けれども、最近はラジオに象徴されるようにどんな些細なことにも伝える意味があると言うか、特別じゃないことを実はみんな知りたいし感じたいんじゃないかなという気もしています。

伝えたいという気持ちは衰えていませんが、最近はモチベーションとしてそんな感じが強いです。スウィングの朝礼と終礼の時間にも「どうでもいいことを話す」時間があります(いまはコロナのため朝礼はなし)。

どうでもいいことを話せる空間をつくりだすことが大切で、何か有益で有用な情報を共有する場ではなく、聞かなくてもいいこと・言わなくてもいいことを言いあうという場所にしています。

それがスウィングの日々の活動の根幹になっていて、自分を表現するとか、自分の言葉を発するということのハードルを下げるようにしています。そういうハードルを下げることが大事かなと捉えています。

― ゴミコロリ、なんでブルーばかりなんですか?

通常であれば「ゴミレッド」「ゴミイエロー」みたいなキャラクターがあってもいいと思いますが、単純に「全員ゴミブルーです」て言いたかったのが1番かもしれません。あとは「規定値を揺るがす」「裏切る」ことがしたかったからかもしれません。

いま現在もゴミブルーは増えていて、最初3人から始まって今は7~8人います。みんなが青いと、新たにゴミブルーとして参加しやすくなります。色がバラバラだと、レッドなら赤色らしいレンジャー、イエローなら黄色らしいレンジャーなど個性を際立たせて演じなければならないと感じてしまいます。

それが全員ブルーになると、途端にハードルが下がるんですね。外の人から見ると全員同じなので無個性で、演じる必要はない。あんな目立つ格好をしているのに、同調性を利用することでレンジャーになるハードルが下がります。 目立つけど目立たないヒーロー、そういう面白さもあります。 

― 動画の撮影・編集については専門スタッフがいますか?また、映像技術を持っていない素人が使える便利なソフトウェアやアプリなどがあれば教えてください。

スウィングの動画に関しては、外部の映像作家、デザイナー、クリエイターと組んでやることがほとんどです。自分たちだけでやるよりも、外の人たちとやるほうが、たくさんのアイデアも出て楽しいのが一番大きいです。

撮影期間も相当タイトなスケジュールで実施していて、長くても2日か3日で一気に収録するので、プロの人たちと一緒につくりこむことを優先しています。

仮に撮影だけ自分たちでできたとしても、編集はかなり時間がかかるので、時間的な問題もあると思います。あとはクオリティです。もちろん費用はかかりますが、一定のクオリティを担保したものを発信したいという気持ちがあります。

自分たちで撮影・編集するということは決して不可能ではないと思っていて、便利なソフトはあるんじゃないかなと思います。私は使ったことがないので知らないんですけども。

どういうものを作りたくて、どんな風に伝えたいかによって自分たちでやるのかそうでないのかということが決まってくる気がします。 

― 動画撮影・編集の費用はどのように工面されていますか?

お金に関しては、助成金を使うことはこれまで1回もありませんでした。私たちは福祉事業をすることによって公のお金(公金)をいただいているわけで、その公金を社会に還元していかなければならないという考えが常あります。

自主財源を使って実践するということにこだわりを持って活動していますが、自主財源と言いつつ、結局は公のお金を使っているので、それを公に返していくことを意識しています。

― スウィングの一体感はどこから生まれるのでしょうか?

一体感があるように見ていただけてることもありがたいですし、自分自身も良い組織だと日々感じています。でも目的意識や熱量は当然みんな違うし、熱量の違いにイライラすることも日常的なんですけども、とにかく自由なんだと思います。

一体感よりもまず自由であることが大事で、自由であるということは「私も自由だし、他の A さん B さんも自由だ」ということなので、私が何をしようとあまり誰も気にしない雰囲気があります。

関心はあるけど気にしない、そういう公平な関係が大事なんじゃないかと思います。私は企画することが主な仕事になっているので、1つの企画に対して、 より多くの人を巻き込んでいくような仕掛けを考えたりしますが、それ以上にそれぞれの自由が尊重されている環境が一番ものを言ってるんだろうなというふうに感じます。

メンバー(スウィング利用者)は楽しそうだと思います。「やりたいことをやる」「好きなことから仕事をつくる」は確かに難しいです。楽しいことをしようとすると、同じぐらいしんどいこともあります。私もフリーペーパーを誰にも頼まれずにも作ってますけども、楽しくもあり、苦しくもあります。 

楽しいばかりではないんですけど、ゴミブルーをしている人たちも楽しそうだし、楽しくないと続かないと思います。楽しいからコロナ禍でも今でもなお続いてるんだろうなと思います。

(記録:一般財団法人たんぽぽの家 小林)

「NPO法人スウィング」もっと知りたい方へ

■ホームページ
http://www.swing-npo.com/

■フリーペーパー「Swinging」
https://swinging.actibookone.com/

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■書籍
まともがゆれる: 常識をやめるスウィングの実験
https://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255010977/

■Swing鼻クソRADIO(ラジオ)
https://anchor.fm/swing-npo/

参考・引用

■恵文社一乗寺店
https://www.keibunsha-store.com/

■情報交換会 2月19日~2月20日
http://goodjobcenter.com/news/2419/



本事業は休眠預金を活用した事業です

「コロナ禍を契機とした障害のある人との新しい仕事づくり」は休眠預金等活用法に基づき、公益社団法人日本サードセクター経営者協会 [JACEVO]から助成を受けて実施しています。

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