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深い思いやりの行為としてのデザイン〜2021年度グッドデザイン賞 審査ユニット2(パーソナルケア用品)審査の視点レポート

グッドデザイン賞では、毎年その年の審査について各審査ユニットごとに担当審査委員からお話する「審査の視点レポート」を公開しています。グッドデザイン賞では今年、カテゴリーごとに18の審査ユニットに分かれて審査を行いました。審査の視点レポートでは、そのカテゴリーにおける受賞デザインの背景やストーリーを読み解きながら、各ユニットの「評価のポイント」や「今年の潮流」について担当審査委員にお話しいただきます。
本記事では、審査ユニット2(パーソナルケア用品)の審査の視点のダイジェスト版をレポートします。
ダイジェストではない全部入りは、YouTubeで映像を公開していますので、よろしければこちらもどうぞご覧ください。

2021年度グッドデザイン賞審査の視点[Unit02 - パーソナルケア用品]
担当審査委員(敬称略):
石川 俊祐(ユニット2リーダー|デザインイノベーション)
秋山 かおり(プロダクトデザイナー)
石川 善樹(予防医学研究者)
中坊 壮介(プロダクトデザイナー)

審査を通じて感じたこと

石川 俊祐 グッドデザイン賞には全体の審査方針という大きなものがあるのですが、ユニットとしての方針もいろいろ議論を重ねました。
グッドデザイン賞全体では、今年は「希求と交動」、「交動と希求」というテーマがありました。ここはわれわれが実際に審査を行う上でとても影響を受けたところです。特に「希求」は、そもそもどういったことを思い、願い、実行したのか、それに対してどういう動きやうねりをつくれているのかというのが、われわれが審査を進める上での基準の一つになっていたかと思います。
ただ、審査というのは、まず対象を一つ一つ見て、そのあとで全体を俯瞰して見て、そこで初めて「今年は一体どういうことが大事なんだろう」とか「何が次の時代においての新しい兆しなんだろうか」ということが見えてきます。
たぶん、各自で審査対象を見ていく中で、いろいろな思いが芽生えたり、こういうことが大事だったんじゃないかみたいな話があると思うので、その辺をお話していただきたいと思います。

中坊 「デザインを評価する」とき、美しさとか機能性といったような普遍的な評価軸があって、大きな時代の流れの中で価値観も徐々に変わっていくのですが、そういう普遍的なものもあると思っています。それは明文化するのも非常に難しいし、審査委員も様々な専門性を持つ方々が集まっているので、その中で最大公約数を探りながら審査しているな、というのが実感としてあります。
「希求と交動」のような年ごとのテーマは、普遍的な価値観みたいな評価の考え方がある上にあって、審査で迷ったときに、このテーマに立ち戻るということが、非常に重要だと思っています。
探りながら価値を見いだしていくというプロセスの中で、テーマを意識しながら、僕自身も評価していたと思います。

石川 俊祐 立ち返る場所があるということが、非常に重要だったと思います。審査委員がそれぞれ多様なバックグラウンドと経験がある中で、機能性や美しさみたいなものですら、もしかしたら見立てが違うかもしれない。
そういう中でグッドデザイン賞という場所は、とてもレアなコミュニティだと思っています。

石川 善樹 グッドデザイン賞に応募されているものは、基本的には質が高いものが多いんです。最終的な成果物だけで見ると、大きく評価に差がつくということは年々少なくなっていると思います。
議論の中でもよく話題に出ていたのが、どういうプロセスで作られたのかとか、あるいはどういう思いで作っているのか、ということでした。そういう全体的なところを見ながら、最終的な商品やサービスを審査していました。年々その傾向は高まっていると感じます。

秋山 私は審査に携わるのは今年初めてだったのですが、このユニットに応募されているものは、どの製品にも思いやりが見られるものが多かったと思いました。受賞に至ったものは、そこが特に秀でていたんだと思います。
本当にきれいに作られているけれども、「これは誰に向けて作られたものなんだろう?」というのが共感しにくかったものは受賞は難しかったのかなという印象です。

石川 俊祐 「希求と交動」という言葉を起点として、もしくは立ち返る場所としてありつつも、一つ一つの受賞対象を見ていると、共感度だったり思いやりの深さみたいなものが、一つの軸にあったのかなと感じます。
どんどん評価の仕方は難しくなっていて、物だけではやっぱり評価はできないというのは石川善樹さんも言っていたとおりだと思います。
私個人として思うのは、物だけについて語るだけでは、なかなか受賞が難しい時代に入ってきているのではないかという気がしています。
作っている人たちが本当に幸せなのかとか、そういったところまで気になるんですよね。もしくは、自然との関係性やサステナビリティの観点だったり、そういった視点がおのずから紐付いてくる時代になってきています。
広い視野と深い思いやりを持ってデザインできているのか、という点が、審査する上で大事な指針になっていたのかなという気はしています。

ベビーカー [アクビィ]

ベビーカー [アクビィ](コンビ株式会社)21G020073

秋山 育児ケア、特に乳児をケアするものに総じて言えることなのですが、当たり前ですけれども、ケアされる側のユーザーは、子供だったり乳児だったりするので、実際のユーザーの満足度の確認が取れないという非常に難しい製品開発です。
ベビーカーも例に漏れず、乗車するユーザーは赤ちゃんですが、座り心地などを本人に確認できない。ですので、走行性や安全性など基準を満たした上で、製品の差別化という視点で言うと、ケアする側である保護者への配慮がなされたかという点が重視されています。
今年、国内外から応募のあったベビーカーは幾つかありますが、コロナ禍において、より近所へのお出掛けの気分を上げる視点みたいなところも含めて、丁寧にアップグレードされているものが多かったように感じました。
例えば、コンビの丸洗いできるベビーカー「アクビィ」は軽量化と安全性を高い基準でクリアしながらも、衛生面で新たな定番を作り上げていました。

ベビーカー [POCKIT GO]

ベビーカー [POCKIT GO](Goodbaby Child Products Co., Ltd)21G020072

秋山 今回グッドデザイン・ベスト100に選出された「POCKIT GO」は、POCKITシリーズの一つで、世界中のベビーカー市場の中でよく浸透しています。日本国内でも5~6年ぐらい前から街中で見掛ける機会が増えた製品のアップグレード版です。
この製品の特長は、やっぱり何といっても直感的な折り畳み方法です。非常にコンパクトな収納方法を可能とすることで、例えば飛行機で機内持ち込みまでできるという点のみならず、旅行中の移動でとても便利です。自転車に載せて、駅前で乗り換えるみたいなことも可能にしています。子育てにおける多様なシーンにフィットしていることが、審査委員の中で高く評価されました。
パッと見では、従来のベビーカーとどこが違うのかというのは説明がすごく必要だと思うのですが、これに関しては、見て触った人誰もがすごいと思えるインパクトのある製品というところが強く、ベスト100に選ばれた理由だと感じています。

石川 俊祐 とにかく物としてのクオリティが非常に高いものでしたね。動きのデモを一瞬して見せるだけで、後は触れれば非常に良さが分かるという、分かりやすい質の高さと、デザインの実現性と、使い勝手の良さが凝縮されている。
プレゼンテーション動画も非常に良くできていて、その動画によって使い勝手がよく伝わります。ブランドの世界観のつくり方も含めて非常にうまいなという感じがしました。伝え方とかなどは、すごく参考になると思います。

シートベルト補助具[スマートキッズベルト]

シートベルト補助具 [スマートキッズベルト](メテオAPAC株式会社)21G020076

中坊 「スマートキッズベルト」ですが、実は審査の後に、個人的に購入しました。実際に試す必要があると思ったのと、うちに8歳の子どもがいまして、ちょうどいい機会だと思って購入しました。
使ってみると、すごく軽くて、とてもコンパクトでした。人の命を守るという安全性を重視していくと、どんどんゴツくなりがちなところを、できる限り必要最小限で、必要十二分にするのにはどうしたらいいかということを追求して、非常に軽く安心感のあるものになっていると思いました。
本当にごく単純に、一番簡単に、かつ十二分に安全性を保つというようなプロダクトを作ったという点が非常に面白いと思います。
子ども本人も「いい」と言っていました。タクシーに乗ることが分かっている出先とか、あとは人の車に乗せてもらうときとか、そういうときに小さいポケットに入るようなサイズなので持ち運んで、どこでもそれができるのもありがたいなと思いました。

石川 俊祐 長いこと気付かずに放置されてきた子どもの安全性を守る製品、これもすごく先ほど思いやりという話が出ていたと思うんですけれども、それに通じますよね。
自家用車ならチャイルドシートはあるんだけれども、他人の車やタクシーに乗った瞬間にもうそこはケアされなかった、という点にきちんと気付いてあげたというのはすごくいい視点だなと思います。まさに「希求と交動」ですよね。
なんとなく見過ごされてきた「あったらいいな」というものを形に落としていったという意味で、すごく評価されるべきものだなと思って見ていました。

シャンプー [AROMASE - 5α Juniper Scalp Purifying Liquid Shampoo]

シャンプー [AROMASE - 5α Juniper Scalp Purifying Liquid Shampoo](MacroHI Co., Ltd.)21G020083

石川 俊祐 このAROMASEもそうなんですが、ここ数年、台湾の企業が非常に進んでいます。それは何かと言うと、サステナビリティとか環境に対して、きちんと循環型で、自然も自分たちと同じように重要な存在であるということを認識した上での、ものづくりだけではなくて会社そのものをどうデザインしていくかという視点で、物と自分たちの会社のカルチャーを両輪でデザインするという動きが非常に評価されました。
これ自体はヘアケアブランドのシャンプーボトルなんですけれども、この企業はヘアケア業界でアジアで初めて、これは「Cradle to Cradle」という循環型でものづくりをしているそうです。
「Cradle to Cradle」とはなにかと言うと、工場そのものの在り方だったり、環境に対して害のないものづくりをしていったりということです。そういったことをきちんとこだわった上で、パッケージの素材もゼロから開発したり。リサイクル、アップサイクルできるようなものを使うということをきちんとできているよという国際認証のようなものだそうです。
もう1つ「Benefit Corp」=「B Corp」というものがあります。これは何かと言うと、環境にとってよりベネフィットのある会社である、より良い会社であるという認証制度に近いものです。そこは、今後の日本企業がたぶんチャレンジせねばならないエリアなんだと思います。これが徐々に国際基準になりつつあるというところがあって、その先手を打って、時間をかけて取り組んでいる企業ということでAROMASEを高く評価させていただきました。
パッと見でパッケージだけを見て、このブランドを高く評価できるかというと非常に難しいですよね。これが「イケてる」パッケージなのかとか、新しいパッケージなのかとか。デザイン、グラフィック含めてどうなんだと、そういう話になると思うんですが、そこは一定のクオリティでクリアしながらも、その背景にある会社そのものの在り方というところまでがデザインされているところで評価されています。
これも「希求と交動」みたいなテーマで言うと、皆やらなきゃいけないと分かっているんだけれども、実際にそれを行動に移すということは非常に難しいわけですよね。そういったことにチャレンジしたという意味でも、今後の未来の新しい兆しだというところでAROMASEを評価したというのがありました。

石川 善樹 まさに企業はどういう姿勢で物を作っているのか、デザインしているのかというところでいうと、これまではバリューチェーンといって左から右に一方的に流れていて、その先にはごみがたくさんたまっていくというものだったと思うのですが、これはプロダクトとしても循環するようなものになっていて、チェーンからサイクルへというところ、物のデザインをする上で、サステナビリティーの文脈で発想が変わっていますよね。
審査をするときに、どういうふうに作られていって、作られた後、それがどんなふうになっていくのかという、一連のサイクルで審査するということが、これからは標準になっていくんだろうなということは感じました。

櫛 [あいくし]

櫛 [あいくし]( 株式会社サンブライト)21G020087

石川 善樹 この「あいくし」は、応募された会社の単独のものではなくて、いろいろな職人さんや企業とのコラボとして、この製品が生まれています。
物としてのクオリティーも極めて高くて、世界初の要素というものがたくさん詰まっています。
元々、漆というのは熱に弱いんですけれども、くしはドライヤーと一緒に使われることが多いので、熱に強い漆という特許技術を使われています。
サンブライトさんは金属加工の会社なんですが、地元の皆さんに何か一緒にできませんかとお声かけしてできた製品です。
今回のテーマの「希求と交動」ということで言うと、その「交」ということを大きく希求しながら、たくさんの方々と交動して、象徴的な商品として出てきたというところで、審査委員一同高く評価したというところです。
この商品自体は高価で一生物ということなんですけれども、廉価版ということで環境に優しいプラスチックなどを使った同様のくしというものも出ています。

中坊 お値段の話になると、例えば日常的に使うくしが、どれぐらいなら安いか、どれぐらいなら高いかみたいな感覚が難しいですよね。今、あらゆるものが、安くなり過ぎているというところがやっぱりあるのではないかと思います。
それは社会の仕組みにも大きく関わっています。生産している労働者が大変な思いをしているという話を聞いたりすると、どこかで価格の感覚が僕たちもおかしくなっているということがあると思うんです。
これはそういう意味では、象徴的な商品で、くしが幾らかというのは正直、僕も本当のところはよく分かりません。しっかり手が入って、こういった文脈で作られたものがこの値段だと言われると、何となくしっくりくるというところもあります。そういう意味では、そういう今の時代にこういうものを出してくるということが象徴的かなという気がします。

石川 俊祐 職人さんの価値みたいなことについて話すときに、どのぐらいの給与を得て仕事をしているかというのが、世の中的に見るとやっぱり低いわけです。こういう実際に人の役に立つようなもので、一生大切にされるようなものを作っていたとしても、そこにきちんとした対価が払われていない構造になってしまっています。何が価値なのかみたいなことを問い直されていく時代だと思います。分配のされ方だったり、誰がどういう価値を本当に生み出しているかみたいなところも、この職人さんというところにひも付けて議論されていくといいなと、この「あいくし」を見ながら思っていたところでした。

紙カミソリ™

紙カミソリ™(貝印株式会社)21G020092

中坊 この紙カミソリは例えばホテルにいて使い切りのような使い方をするということを想定されているのかなと思います。
1回使ったら捨てられるということが前提なので、エコな素材を使うといったような、紙でカミソリを作るという発想自体は、そのアイデアがとてつもなく新しかったり、とてつもなく価値があるということとは違うと思うんです。
このカミソリの良い所は、紙はエコな素材だという前提で、それをじゃあどうやって生かしてカミソリにするかというところです。
フラットパックされているものを、ユーザーが組み立てて使うというような、その発想がまずありました。ただそこからがやっぱりとても難しいところで、デザインは、やっぱりアイデアも重要だけれども、それをいかに実現させるかというところに価値があるといわれています。
ですから、紙を使ったらエコロジーだねというところからもう一つ先の、たとえアイデアがあっても、実現するというのはそこからとんでもないハードルが待ち構えているわけです。
たぶん想像なんですが、デザイナーが紙を折ったり切ったりしながら、これを作り上げていったんだと思います。
デザインとして非常に教科書的というか、生まれたアイデアを正しいプロセスの中で実際のものにしていったというような製品なのかなと思います。
ただ紙でできています、というだけではなくて、物が生まれて、それをユーザーがどう使って、捨てられて、再生されるかみたいなところまで、全体を非常にうまくデザインされているなというふうに思います。
紙という大きな素材の転換があるにもかかわらず、昔からの使い心地みたいな機能性はしっかりしているというところがいいのかなと思います。

石川 俊祐 単純に物としていいだけではなくて、プラットフォーム的に機能し得るみたいなところが、紙を使っている良いところなんですよね。印刷ができることによって、多様な人たちにとって、これが自分たちのプロダクトになり得るところが、ホテルだったり個人だったり、いろいろな人にとってエコに参加するきっかけになり得るのではないかなという意味でも、すごく評価できるなと思って見ていました。
あとは物として、組み立てるところもすごく心地よくて。楽しくさせてくれるというところがなかなか良いなと思いました。面倒なのかなと思ったらそうではなくて、パッと畳んで、歯の部分に付いているテープを剥がして、それを首に巻くと完成するという作りで、無駄のない感じも含めて、すごく心地よいステップだなと思って使っていました。

まとめ

石川 俊祐 「ソートフル・ライフスタイルという時代の幕開け」みたいなことを昨年はすごく強く感じたんです。それは大きく分かりやすいうねりで言うと2つあって。
1つは言葉で言うとサステナブルみたいなことで、何かと言うと、自然も人間も一つの地球の構成要素であって、どちらも平等な存在であるみたいなところに思いを本気で寄せていく。その中で何か物を作ったり価値を生み出す。本質的な価値をどう生み出すかみたいな話があったなということがあります。
もう1つの大きなうねりが、大企業だけではなくて、一個人が世の中を変えるような動きが去年、すごく多く見られたんです。それは去年、グッドデザイン大賞を取った「WOTA」とか、あるいは「VUILD」という、個人が始めたプロジェクトなどがありました。そういったことにやっぱり意識が変わっていくのを個人レベルでも動き始めて実現できるみたいなことになってきた。
今年、そのテーマがさらに多様さを持って広まっていったのかなと感じます。いろいろな方向性が、大まかに分けて3つぐらいあったなと思ったのが、きょうの講評でも皆さんからも出ていましたけれども、深い思いやりの行為としてのデザインということが一つありそうだと思います。
デザインは何を作るかの前に、これを誰のために何を作るのか。
そもそもそれって当然だったんだけれども、何か大量生産とかいろいろなKPIとか目標数値みたいなものがある中で、人、一人一人について本当に共感ができるぐらい深く思いやるとか考えるということを通してのものづくりだったり、サービスづくりだったり、ブランドをつくるということがやっぱりされ始めているなというふうにすごく感じたのが1つあります。
2つ目は目的のデザインみたいなところで、「パーパスデザイン」みたいな言い方もしますけれども、何か自分たちの会社だけではなくて、社会的な意義とか地域のためにみたいなところで一丸となるみたいなことが起きていると感じます。そこに皆が集まって動きだすということがすごく増えてきているなと思います。
3つ目は、最終的にできたものはもちろん美しくあるべきなんだけれども、それを作っている過程というのが実は全てなのかな、ということです。できた時は瞬間なんだけれども、それを作るのに1年かけたり、10年かけたり、20年かけたり。それは物だけではなくて会社も含めなんですが、そのプロセス自体が美しいプロセスであるのかと。それに対する評価というものが出てきていて、「Cradle to Cradle」とか「B Corp」みたいなものも出てきています。プロセス自体が結構問われていて、広くソートフルなライフスタイルというものが重要になってきているのかなというふうに思ってきています。
ぜひグッドデザイン賞に今後応募される方も、物だけではなくて、その背景にある人々だったり、その周りにある環境であったり、誰にとっての美しさなのか、これは何の目的なのかとか、本当に深く思いやれているのかみたいなところを意識して、ものづくりや開発に時間を使っていただけるといいのかなというふうに思っています。

秋山 このユニットでは、すごく先進的で革新的で大胆な開発みたいなものはあまり見られなくて、とにかく市場に対して細やかで丁寧なアップグレードさせたようなものが多くありました。パーソナルケアのために求められるものへの優しさが感じられるものが多かったかなと思いました。
アップグレードの仕方もただ機能を追加していくというだけではなく、改めて当たり前だと思われていた機能を見直して、パーツを減らすことで組み立てが簡素化できるよということなど、素材も含めこれは本当に環境にいいのかというのを見直すということがあったと思います。加工過程の見直しを通してコストの削減につなげたり、使いやすさの向上をどんどん求めて、軽やかにアップグレードさせたものというのが印象に残りました。

石川 善樹 パーソナルケア用品は、消費者のウェルビーイングやウェルネスにしっかり向き合っている分野だと思います。
加えて、ダイバーシティであったり、サステナビリティに配慮していかないと、デザインとはなかなか呼びにくいというような傾向が見えたのではないかなと思います。
ということで、キーワードで整理すると「ウェルビーイング」「ダイバーシティ」そして「サステナビリティ」、この3つをどう調和させていくのかという、それが来年度以降、引き続きポイントになるかなと感じました。

中坊 パーソナルケアということで、個人での使用を想定されたものが多く集まっていたカテゴリーでした。
ユーザー中心というのを世間がどういうふうに捉えているかというと、本当にユーザー視点で使いやすいぞとか、安くて機能的でという、ユーザーが求めるものを中心に据えてデザインしていくということだと思うんです。
でも実際は、そんなふうに単純に社会は回らないですし、例えばエコロジーという考え方は人間のためだけでは当然ないはずです。ですので、こういったパーソナルケア用品だけに、そういう本当の意味でもうちょっと大きな、俯瞰の視点というのが大事だという感じがしているんです。
問題解決みたいな考え方も古くからデザインにはありますけれども、そうじゃなくてもっと根本的にデザインっていろいろなことができるんだという中で、自分たちからの発信で、新たなものを作っていくということに、社会の価値観が付いてくるような、そういうものが見受けられました。

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2021年度グッドデザイン賞 ユニット2 - パーソナルケア用品 審査講評