「ずっと独身でいるつもり?」(2022年3月3日鑑賞)

田中みな実さん演じる本田まみがいわゆる「丁寧な暮らし」な整えられた部屋で、MacBookでなくポメラを使って執筆している姿にとてもぐっときた。あの仕事道具一つでライターとしての彼女の揺るぎない尊厳を言葉なく表現できるのはすごい。錦鯉渡辺さんも愛用のポメラ。

『東京を生きる』(2015年、大和書房)好きにとっては、2021年の東京を駆ける雨宮まみを空想するような楽しみ方ができる作品。ちょっと思い出しただけならぬ「ただ、魔が差しただけ」。いつだってそうやって長く続いたりそうでなかったりしながらゆるやかに帰着するすべての連れ添い。

ラスト20分の良さ。本作であらわされているようなピキッとする瞬間や言動はきっと男女に限らずどの関係性でも互いにあるんだろうけれど、当事者性を忘れた観者として観たものはどこまで伝わり合えるんだろう。

いまだ実現されない選択的夫婦別姓や男女間賃金格差の是正にはじまるような社会制度の不全を補完することは大前提として、人が結婚や出産を巡って晒されてきた刃のような価値観がこうして映画に表象されることももう終わりになるような2020年代にしたいなー。

『花束みたいな恋をした』でもそうだったように、小道具としての自己啓発本がすっかり相手の価値観をあらわす一つのアクターになったこと。ジルスチュアートの瞬くリップスティックをあれだけ空虚に撮ることのできるふくだももこ監督のすごさ。

一体どこで何をしているのか分からないけど飄々と楽しそうに生きている親戚のおじさんもよかった。あんなおじさんが親戚にいるまみが羨ましい。みんな、いつかはあのおじさんになりたい。

いいタクシー運転手が出てくる映画を観ると、少しだけ車を運転してみたくなることに気付いた。

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