アルバムを利く 〜その10
led zeppelin 「led zeppelin Ⅳ」1971年
曲目紹介
①black dog
②rock and roll
③the battle of evermore
④stairway to heaven
⑤misty mountain hop
⑥four sticks
⑦going to California
⑧when the levee breaks
ロック食堂スタミナ定食
まずアルバム冒頭の①「black dog」②「rock and roll」の二連発にガツンとやられる。ハードでファンキーでソリッドなギターのリフ。ドカドカうるさい、だけどよく聴くと意外と細やかに強弱をつけているドラムス、そしてそんな爆烈ドラムに並走してブリブリもくもくエイトビートを刻むベース。おっとかなきり声で絶叫するシンガーも忘れちゃいけない。
チャックベリーとエルビスプレスリーを源流としてビートルズが広めジェフベックが抽出したロックのエッセンス。ツェッペリンの演奏にはそのロックのエッセンスが詰まっている。
ロック度が低くなってくらくらしてるときもこれを聴くとロック血中濃度は上昇してゆく。レッドツェッペリンはロック好き善男善女のための大衆定食屋で、このアルバムは定番のスタミナ定食。あー旨いな、満たされるなあ、と思うのだ。
アコースティックとエレクトリック
③は一転してアコースティック曲。ロバートプラントがフェアポートコンヴェンションのサンディ・デニーとのデュエット(ゲストヴォーカリストが入るツェッペリンの曲はこれだけ)するこの曲はトールキンの「指輪物語」をふまえた詩の世界。マンドリンとアコースティックギターのみを伴奏とするこの曲は中世の騎士物語のような雰囲気を醸し出す。そしてこの曲を前奏曲としてバンドはロック史上名高い④の演奏をはじめる。
リコーダーとアコースティックギターで始まる演奏はまるでブリティッシュ・トラッドのよう。自然の風景を感じさせる演奏だがその自然はジャングルや熱帯雨林ではない。荒涼としたイングランド(あるいはスコットランド)の丘陵地帯だ。やがてドラムが加わり12弦ギターが加わり厚みをましたバンドの演奏は(たぶん)ロック史上最も有名なギターソロで頂点に達して終わる。
アナログレコードのA面にあたる①〜④の流れは何度聞いてもみごとだと思う。激しくもタイトなロックナンバー二連発で圧倒してから③でクールダウン。そのムードを引き継いだまま始まる④でロック衝動は再び最高潮に達して終わる。
アコースティックナンバーを増やした前作「led zeppelin Ⅲ」は批判を浴びた。おそらく「エレクトリックなロックとフォーキーなアコースティックナンバーの融合」が制作を始めるにあたってのアルバムのテーマだったのだと思う。ここではそれがとてもうまくいっている。
ロック幕の内弁当
レコードB面の⑤はキーボードとエレキギターがユニゾンするポップなナンバー。
⑥はエスニックな雰囲気のただよう前衛的な曲。スティック4本でドラムを叩いたのはヘヴィさを狙ったのではなく非西洋音楽的なリズムを出すためだろう。
⑦は④とおなじくアコースティックギターとマンドリンで演奏されるアンプラグドなナンバー。④のブリティッシュ・トラッド調に対してこちらはCSN&Y的なフォークソング。
そして最終曲⑧はブルースであると同時にヘヴィなロックナンバー。
冒頭にこのアルバムを「スタミナ定食」と例えたけど、これはただのスタミナ定食じゃない。豪華なおかずが一箱にまとめられたロック・スタミナ・幕の内弁当だ。
そしてさまざまな要素が散漫にならずにアルバムとしてひとつの焦点を結んでいるのは、作詞家としてのロバートプラントの成長によるものが大きいと思う。レコードの内ジャケットに初めて歌詞が掲載されたのもロバートの自信の現れなのだと思う。
薪を背負った老人
アルバムのコンセプトはジャケットがよく表現している。額縁の中には薪を背負った老人の姿。これは自然、田園生活、アコースティック、伝承、フォークソングを象徴するものだろう。ジャケットを裏返すと額縁のかかっている部屋はなかば壊されていることがわかる。破壊された壁から空がのぞき高層ビルが見える。文明、都会、エレクトリック、現代、ハードロック。
アルバムは相対するふたつの概念を示して、その統合を試みる。両者を止揚するものは音楽であり全てを黄金に変える天国への階段は物質ではなく④のギターソロなのだ。
そして⑧で示されるのはやがて来る破滅の予感。われわれは電気化された現代文明を推し進めて自然を破壊し尽くしこのまま滅びていくのか。それとも伝承に耳をかたむけ人と大地の失われた調和を取り戻すのか。
ジミーペイジとロバートプラントの黒魔術とヒッピーとトールキンへの傾倒はたぶんに中二病的だ。彼らにそれほど深い思想はなかったように思う。だけどそれを入り口にしてアルバムは広くて深い世界を獲得した。楽曲としてはこのあとも進化を続けていったツェッペリンだが、アルバム表現としてはこれ以上の集中力と統一感に達したことはなかったように思う。
疫病の蔓延、戦争。アルバムの最後に示される滅びの予感は2023年の今であってもリアルに響く。もちろんロバートとジミーが1971年当時に現在の災厄を予見していたわけではない。まるでタロットカードの暗示のように、制作者の意図と理解すら越えてアルバムは声を響かせ続ける。名作のゆえんだろう。
おわり
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