アルバムを利く
SANTANA 「supernatural」
1999年
例えるならカルロス・サンタナのギターはカレーが名物の喫茶店みたいなものである。メニューはカレー1択。カツカレーとかシーフードカレーとかいろいろバリエーションはない。ただ一種類のカレー。だから毎日行ったりはしないんだけど、たまに無性に食べたくなる。食べると特別なものは何もないんだけど「やっぱこれだな」と思う。
言うたらサンタナのギターは熱いラテンリズムに乗って官能的なブルースギターが鳴る、ただそれだけ。ジャズのスケール出てきたり変拍子出てきたりジェフベックみたいな前進し続ける革新的ギターとか全くない。ないんだけど聴くとやっぱり美味しい。いつでも同じ味なんだけど「やっぱこれだな」と思う。
サンタナがアリスタに移籍して出したこの大ヒットアルバム。時は1999年でぼくは大学生だった。
昔のロックが好きで学生街にある中古レコードばっかり聴いていたぼくはとうぜんサンタナの「天の守護神」のレコードも持ってたけど、これには感心しなかった。曲ごとに色んなゲストミュージシャン出てくるのとか大ヒットシングル「スムース」を野口五郎さんカバーしたりとか業界総出でセルアウトしてるの「そんなんロックじゃねえ!」と思っていた。
そして先日、図書館にこのアルバムがあったので聴いてみた。意外にも、とても良かった。ゴージャスでバブリーに思えた厚いバンドサウンドも二十数年が経過した今となっては気にならない。そして名物メニューのサンタナのギターはやっぱり美味しかった。
アルバムは期待を裏切らないラテンナンバー「ヤレオ」で軽快に始まる。コロコロ転がるピアノの音色が気持ちいい。ホーンのリフもコンガもゴキゲンだ。そしてなんといってもカルロスのギター!やっぱりこれだよ。
情熱的で官能的なムードは続きシングルヒットした5曲目「スムース」までが前半の山場。
次の6曲目でローリンヒル登場。「そんなやり方でいいの?」と問いかけて現代社会のあり方を批判する。ここからアルバムのムードは変化して社会的なメッセージも織り込まれてくる。
「ミグラ」は移民局の対応を非難するナンバー。サンタナ自身も国境を越えてアメリカに移民したひとりだからこれは説得力がある。
後半はスピリチュアルな雰囲気の曲が増えていき12曲目「プリマベーラ(春)」では
"春に新しい生命が芽吹くように今新しい人生が始まる"
と歌われる。
最後には名人エリッククラプトンまで登場しサンタナとふたりリードギターを弾きかわす。ここで「One love」というボブマーリーの歌の歌詞の引用があらわれる。第三世界からアメリカにやってきたサンタナがレゲエのボブマーリーを引用するのはつながりを感じるし、そういえばアルバムの中盤で登場したゲストのローリンヒルもボブマーリーに関わりがあるから、全体の流れみたいなものまで見えてくる。
これでお腹いっぱいなんだけどまだ終わらない。最後に隠しトラックまであるのだ。隠しトラックなんてだいたいがアーチストの自己満足としかぼくには思えないけど
官能的な愛から徐々にスピリチュアルな空気を濃くしていって、いったん終わったあとで魂の再生を祝うこのナンバー、アルバムの締めとしてうまく機能しているように思う。
やり手ビジネスマンのクライヴ・デイビス(アリスタレコード社長)が仕掛けた単なる企画物だと思っていたけど、聴きごたえのあるアルバムでした。サンタナはいっさい歌わずにゲストヴォーカリストまかせだし(これは昔から)作曲にサンタナ自身がどれくらい関わっているかよくわからないけど、それでもここには彼にしかできないものがある。
世界中で売れたアルバムというのはやはりそれだけの内容があるんだなと思う。
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