チョコレートよりスルメ

”もしもし Yさんですか?”

初めて聴く彼の声は
柔らかくて
少し低くて甘かった

”はい、Yです。お待たせしてしまってすみません。”

”いえいえ、夜までお疲れ様です。”

そんなぎこちないスタートを切った電話だったが、話してみるとやっぱり楽しくて時間が経つのがあっという間だった。
自分の声を気にする暇もなかった。

自分のすきなもの、普段何気なく考えていること、最近会ったこと…
そんなことを話しているだけなのにとても楽しかった。

そんなどうでもいいことを話していた時に

”Yさんはこのアプリで恋人を探しにきていますか?”
と聞かれた。

もともとマッチングアプリとは恋人を探すため(もしくは夜の相手を探すため)のものだと思っていたので、何を聞かれているのかいまいち理解できなかった。

”はい…、そうですが…”

”あ、よかったです!もし友達探しでやっておられる方だったら困ったなぁと思っていたので!”

”あ!それに関しては大丈夫です!ちゃんと恋愛しにきてます。”

これは…どういう意図なんだろう…。

私とお付き合いしたいという遠回しな告白…??

内心ドキドキしながら会話を続けていたら

”もしよかったら近々会って話したい”

と彼からの提案があった。

自分は恋愛では頭で考えるよりも感覚で決める派で
私のことがしっくり来たから会って確かめたいと。

正直、恋愛でグイグイ来られることに慣れていなかった私はとても恥ずかしかったけれど
最初に感じた”この人となら上手くいくのではないか”という自分の勘を信じることにした。

”はい、今週の日曜日にそちらに行きます!”

そうやってとんとん拍子にデートまで決まってしまった。

幼稚な表現かもしれないが、とてもうれしくてずっと心地良いドキドキが続いていた。

でも一つだけ

一つだけ私の中で引っかかっていることがあった。

我ながら最悪だとは思っているが…

彼の顔があまりにも私のタイプではなかったのだ。

アプリの写真ではよく分からなかったが、彼はいわゆる醤油系の顔で
塩顔好みの私からすると真反対も良いところだった。

(でも私もきれいな方じゃないから、言う権利ないよなぁ…)

そんなことを言っている場合か!

お前は見た目より中身派ないいだろ!

最初の勘を思いだせ!

と自分を奮い立たせて、日曜日を迎えた。

”見た目も可愛いチョコレートよりも、見た目はなかなかに斬新だけど噛めば噛むほど味が出るスルメだ”

と、前に本で読んだ言葉を自分に言い聞かせながら。

そうだ、チョコレートよりもスルメだ。