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自動改札が通れない定期券だった

ずっと以前東京で仕事をしていた頃、ご実家が東急の大株主様という上司がいて、「生涯どこでもフリーパス」的な、ドラえもんの道具のようなものを使って通勤していたことを憶えている。
東横線沿線にお住まいで、わたしもすぐ隣の駅に住んでいたので、出勤時はよく一緒の電車になった。わたしはごくごく普通の定期券で、自動改札をするりと抜ける。でもその方は、自動改札を通ることが出来ない。
彼が使っているのは、「東急職員が最敬礼するパス」と社内で噂されていた通り、職員が立っている出口で、職員に見せないと通過出来ない定期券だったからだ。
定期券と呼んでしまっていいのかどうかもよくわからない。
ご実家の広い広い敷地に東急線が通ってしまったらしいとか、代々続くかなりのお家柄らしいとか、様々な噂も耳にしていたので、駅で後ろ姿を見るたびわたしは、一度使ってみたいものだとその万能定期券に憧れた。
残念ながら既婚者だったので、よこしまな考えを持ってお近づきになることは出来なかったけれど、気さくでとてもおっとりした方で、たまにお昼ごはんをごちそうしていただいた。
その際定期券の話題になると、「自動改札を通れないのはめんどくさい」と、たいへん穏やかに苦笑していらしたのだ。

定期券の違いは日常の違いかと回想しつつ、今どきの場合、この「大株主様専用パス」はどんな形なのだろうかと、ふと考えた。
やっぱりスマホに形を変えて、「大株主様専用アプリ」とかになっているのだろうか。それとも、いまだに定期券型をしていて、職員の目視が必要なままなのだろうか。
実際に使われている様子を見ることはもう二度とないだろうけれど、何となく思い出して、昨日から気になっている。

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