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【創作BL】明日に向かって❶

 『はぁ、今日もノルマ未達かぁ』これで何回目なんだろうか。つい最近、外資系の半導体のメーカーの営業に転職が決まったユウキはここ最近毎日暗中模索している。そもそも自分は、メンタルが強い人間だと自負していた。しかし、仕事の案件の引き運が悪いのと、自分自身の不器用さも相まって、そろそろ限界が来ていた。「もうだめかもしれないなぁ。」喫煙所で、ふっとため息をつきながら独り言を言った。今日はこのあと、昼休憩が終わったあとに、上司の青柳さんとの1on1を控えている。詰められることは自分自身でも痛いくらい分かっている。銀色のZIPPOをポケットにしまい、アサインされたミーティングルームに向かった。
「今日は、君のパフォーマンスについてよく話し合っていきたい。」
開口一番、青柳さんは仕事の話を切り出す。青柳さんはいわゆる点取り虫の性格だ。仕事だけではなく世の中のすべてを、損得勘定でくぐりぬけてきたのではないかと思うくらいだ。
「はい。よろしくお願いします」
ユウキは、自信がなさげに答えた。しかし、もう社会人も賞味4年目で、自分が培ってきた威厳を保つ気概はあった。
「今月の営業成績だけど、未達ばっかりだね。なんでそうなるんだと思う?」
「がんばってはいるんですけど…」
「頑張っているとか聞きたくないんだよ。がんばってるのは当たり前だ。これからどうして行くかが重要なんだよ。」
「はい」
ここから不毛な沈黙がずっと続く。こうやって聞くタイプの怒り方をする人が、1番苦手だ。どうしてそういう言い方しか出来ないんだとも思う。
「この前、外まわりで一緒に行ってくれた田端先輩の営業の仕方を見習いたく思ってて…」絞り出したユウキの言葉に青柳さんは、容赦なく切り込む。
「田端くんのどういうところが良かったか言ってみて」ユウキはまた絞り出す。
「例えば、取引先の新商品と旧商品の違いを、出向く前に把握しておくとか、、、」
青柳さんがまた聞いてきた。
「それを今までやってなかったってこと?」
その後も、同じようなやり取りが続き1時間くらい経ってやっと1on1が終わった。
書店のビジネス書に、よく1on1のノウハウとやらが書かれている本が並んでいるが、実際そんなものはまやかしで、大概は生産性のないものである。それでも、仕事と割り切り明日からユウキは何かしらを改善しながら営業に出向くことに決めたのであった。






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