伊東純也事案の民事訴訟に対する考察 その1(2024.06.11)

 伊東純也事案の民事訴訟はこれから本格的に始まるが,民事訴訟の場合,今後の展開を予想することは極めて難しい
 そこで,民事訴訟の今後の展開において考察のポイントとなる点を順次上げて解説する

その1 東京地裁への移送

 情報によると,女性側の申し立てにより,5月7日付で,大阪地裁は5月24日までに審理を東京地裁に移送する決定をしたという
 5月7日付けで東京地裁に移送することが決定されているというなら,女性側は4月には訴状を受け取っていることになるだろう

 民事訴訟は基本的に被告の住居地を管轄する裁判所で開かれるが,正確な住所を確認できない等の理由がある場合は,違法行為(虚偽告訴)の発生地を管轄する裁判所に訴訟提起することもできる
 そのため加藤弁護士は大阪地裁に訴訟を提起したと思われるが,女性側の思惑や都合により訴状の受け取りが遅延していたものと予想する
 訴状の受け取りを拒否しているのではないかという意見もあったが、民事訴訟上は各種送達方法が規定されており、やはり逃げ得はありえない

 ネットの情報の中には,刑事事件と民事事件を混同しているケースも多々見受けられ,「女性側が大阪地裁から東京地裁に逮捕・移送された」というような滅茶苦茶なものまで出回っている
 あくまでも今回東京地裁に移送されたのは民事訴訟であり,刑事事件はこれから検察庁に事件送致されるようだ
 現時点において女性側が逮捕・起訴されて刑事訴訟へ進展したという事実は確認されていない

その2 民事訴訟の今後の展開

 東京地裁に移送後、東京地裁にて新たな担当裁判官が選任され、東京地裁における第一回目の公判期日が設定される 東京地裁での第一回目の公判期日は、移送後概ね1か月程度の時期を指定されると予想する
 そして最初は立証措置を行うために収集すべき証拠資料の申請がなされるであろう(文書の送付嘱託)
 本件の場合は,
①B子のPTSD診断を行った医療機関の各種医療関係資料(問診表・検査資料・カルテ等)
②関係者のLINEやX等のSNSの通信記録
が上げられる
 現時点では,伊東純也側が原告,A子・B子を被告として訴訟が進行している
 女性側からの被害請求がなされていない状態にある
 女性側が伊東純也側に被害請求を行うためには,「反訴」という形をとる必要がある

 女性側が反訴すると,女性側が「反訴原告」,伊東純也側が「反訴被告」という名称で呼ばれることになる 女性側に反訴して戦う意思があるか否か確認することができる 敗訴する可能性があると考えている場合でも、刑事事件がおおまか片付くまでは争う姿勢を意図的に見せるかもしれない まず、反訴が行われるか否か着目したい
 その後,双方の主張が行われ,場合によっては証人尋問・医学鑑定等の手続きへと進行することになる

その3 民事訴訟における当初のポイント

①A子とB子の担当弁護士は誰か
 
5月9日付note「伊東純也事案の経過分析」の「その4 私の考察」「②A子とB子が性被害を受けた時の説明状況」に記載したとおり、A子の性被害申告は,A子が意識を喪失していたため「B子の目撃証言をもとにして被害を知った」という構図になっていることを思い出してほしい 
 A子は,意識喪失状態であったというのだから,特別な主張を行うことはできない 「意識を喪失していたため分からなかった」のであれば,分からなかったものについて,事実関係を主張することはできない
 ただ,「B子から聞いた」という被害申告を主張できるにとどまる

 このことは,ともすれば女性側が敗訴となった場合は,全ての責任をB子が負う可能性があることを意味している
 その意味で,A子を担当する弁護士と,B子を担当する弁護士は利益相反(りえきそうはん)とならないように別々の弁護士が付されるべきであると思う
 高橋弁護士は刑事事件でA子とB子両名から委任を受け、伊東純也側の告訴状を警察に提出した建前上,民事事件の委任を受けることは回避するものと予想する

 そして、この時点に至って,B子は自分だけが著しく不利な条件下で争っていることに気付くことだろう
 こうした事例で時折みられるが,訴訟の進展が不利な状況になってくると、A子とB子の間に不信感が生じ,関係者間で「責任のなすりつけあい」が発生することがある
 そういう意味で,最初の着眼点は,A子とB子の担当弁護士の選任状況である
 その状態を確認することで、女性側にB子を保護する意識があるか否かを推し量ることができるだろう

②伊東純也のスポンサー契約の確認
 
原告である伊東純也が提訴した損害賠償は,虚偽告訴を受けたことに起因してスポンサー契約を解除された実損だとされている
 しかし、情報によると、スポンサーであるセゾン社は、事件後、伊東純也がかかわるキャンペーンを一旦中止したものの、2月中頃にはキャンペーンを再開しているとされ、D-sports社は損害を請求しないであろうとも言われている
 加えて、真意は不明だが,伊東純也はスポンサー企業だったシューズメーカーのサッカーシューズを引き続き使用しているとの情報もある
 つまり、2月初旬にスポンサー契約が、一旦、解消されたとしても、その後、わりと早い段階でスポンサー契約が回復している可能性も否定できない  このため損害の確認は必須事項と思われる

 そして大多数の知識人が、これらの損害賠償請求に対して、「裁判所が全額認定することはないだろう」と解説している
 私は、この点について、裁判所がどういう認定をするか大いに興味がある こうした週刊誌報道に対して一般に提訴される内容は「名誉棄損」である
 しかし、この名誉棄損の場合は、既存状態を具体的な数値として評価することは困難であるために低額認定となりかねないと言える
 しかし、今回は、虚偽告訴を週刊誌が報道した直後にスポンサー契約が解除されているのだから、週刊誌報道(虚偽告訴)と損害の間には相当因果関係が存在していると考えている

③B子の主張内容(予測)と解説
 
A子が主張できる内容は,上記のとおり,「意識喪失していたため,B子の目撃証言をもとにして被害を知った」というだけである それ以外は何の根拠もない証明不可能な主張ということになる そういう意味で,伊東純也側は,B子に対して集中的に攻撃を仕掛けることになるだろう
 女性側が示していた証拠資料で有用な資料はほとんどない 仮にB子が民事訴訟で対抗してきた場合に主張される内容は,

「原告から提出された証拠資料は,いかようにも解釈が可能なものであり、到底、客観性が保たれているとは言い難い ただし,〇〇医師作成に係る診断書はそうではない B子の病態を観察した〇〇医師は、長年にわたって蓄積された自らの医学的知見に従ってPTSDと診断したものである PTSDとは戦争・災害・殺人・強盗・レイプ等の強い恐怖体験によって引き起こされる病態であることが知られている B子には伊東純也らによる不法行為によってもたらされた強度の恐怖体験に起因する病態が発現しているのである そして,そのことは善意の第三者である経験豊かな専門医の診断によって証明されていると言わなければならない このように〇〇医師の診断書は本件訴訟に提出された唯一無二の科学的・客観的な証拠資料と言える」

というものだと予想する
 B子側は,こういう抗弁以外に対処できない状態にあると言っても過言ではない
 これだけを聞くと,いかにももっともらしい主張に見えるが,実はそうではない
 医師の本業は患者の治療であり,診断名の証明ではない
 医師は自分の患者を治療する上で,診断名を付けたり治療方針を選択したりする裁量権を持っている
 治療目的であれば,ある程度の裁量権は認められなければならない
 しかし,医学的知見から診断名を法的に証明するということになると,そうとばかりは言えない
 特に精神科は,他の診療科(内科・外科・整形外科・脳神経外科等々)と比較すると、検査数値や画像診断などの客観的資料が存在せず,むしろ問診・カウンセリング等によって評価されるため,そこには医師の抽象的な主観・感想が入りやすいという特徴がある
 一人の患者を3人の精神科医が診断して、3人の医師がそれぞれ違う診断名を付けたという事例も存在する
 つまり「唯一無二の科学的・客観的な証拠資料」となるには,その診断根拠の妥当性が厳格に吟味されなければならないのだ
 医師に対して患者が受傷状況をどのように説明しているか,それが客観的な事実と符合しているか否か,受傷時の病態から診療・カウンセリングによってどのように変化したか等々を、B子の生活実態を詳細に確認しながら評価することが必要なのである

 結論から言うと、最終的には医学論争の世界に入り込む可能性がある
 そうなると,この主治医に対する証人尋問は必須となるだろう
 裁判所は,病態の診断・評価(詐病を含む)等の医学的評価については、社会的権威を重視する傾向がある
 つまり裁判所は町医者程度の医師の評価よりも,大医学病院レベルの専門医の評価を重んじる傾向がある
 従って,ある程度権威のある精神科の医師であれば,裁判所に提出される可能性がある事例に対して,こうしたPTSDという診断名を安易に付けることは極めて稀と言ってよい
 これらの医学的証拠以外に通信記録等の証拠資料を併せて最終判断がなされることになる
 訴訟が開始された初期段階で、立証措置を行うために収集すべき証拠資料として、
①B子のPTSD診断を行った医療機関の各種医療関係資料(問診表・検査資料・カルテ等)
②関係者のLINEやX等のSNSの通信記録
の申請(文書の送付嘱託)が行われる可能性があると説明したのは、これらの資料が医学的評価に必要な書類になるからだ
 このように民事訴訟でPTSDのような診断名が付けられると医学的な難事案となって訴訟が長期化する傾向がある
 しかし、私は、A子・B子側が勝訴する可能性は低いだろうと予想している

その3 その他の要素

 今後、民事訴訟と並行して、刑事事件についても大阪地検にて関係者の事情聴取が行われるであろう
 検察庁におけるB子に対する事情聴取は,相当厳しく行われると予想している 検察官の事情聴取は、警察官の事情聴取とは比べ物にならないくらい厳しい
 このように,B子は、刑事・民事の両面で集中砲火を受け、今後、大きなストレスに苛まれることになると予想している
 気の毒なことだと思うが、果たしてB子がどこまで耐えうるか
 B子を担当する弁護士が、民事訴訟に勝訴できると考えているか否か、その考え方によっても、今後の展開は変化すると思われる
 現時点で評価のポイントとなる点を説明したが,今後、変化・発生する可能性のあるポイントは、刑事・民事の事案の進展に沿って追加で説明を行うことにする

以 上

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