あとで読む・第2回・高野秀行『イラク水滸伝』(文藝春秋、2023年)

分厚い本である。いつ読み始めようか、タイミングをはかっている段階である。
高野秀行さんは辺境作家として知られていて、もちろん僕も探検ノンフィクションの面白さに魅了されてファンになったのだが、一方で探検しない『ワセダ三畳青春記』『異国トーキョー漂流記』『アジア新聞屋台村』(いずれも集英社文庫)も大好きである。高野さんがある書店のトークイベントで言っていた気がするが、いわゆる「東京もの三部作」は、編集者とのディスカッションで作り上げたもので、「探検もの」よりも作り込んでいると聞いた記憶がある(間違っていたらごめんなさい)。舞台が東京でありながら、探検ものに劣らないドラマチックな本になっているのはそういうことなのかと妙に納得したものである。
2013年の年末に読んだ『謎の独立国家 ソマリランド』(本の雑誌社)がむちゃくちゃ面白くて、その年に読んだ本のベストワンに選んだくらいである。もちろん、私が勝手に選んだわけだが。
昨年(2022年)、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が発刊されたことを記念して、近所の書店で高野さんのトークイベントが開かれた。ファンとしては行かねばなるまい。トークイベントが終わり、本にサインをもらうタイミングで、高野さんと少しばかりお話しすることができた。どうしても伝えたいことがあった。
「高野さん、コロナに感染したとき、ホテル療養されましたよね。アパホテル新宿御苑」
「ええ、どうしてそれを?」
「noteを拝見しました。あと、チキさんのラジオも聴きました」
高野秀行 『コロナ感染の歩き方』その2 宿泊療養から退所まで◎必須持ち物リスト付き|高野秀行辺境メルマガ (note.com)
「それはありがとうございます」
「実は私も、先日コロナに感染して、アパホテル新宿御苑でホテル療養したんですよ。そのときに高野さんのアドバイスが役に立ちまして」
「へえ、そうでしたか。なかなかよかったでしょ?」
「ええ」
どうでもいい会話なのだが、ファンにとっては追体験したことを伝えたい気持ちになるから不思議である。
その後、もう1度、高野さんのトークイベントに参加した。正確にいえば、中村哲さんの活動を追ったドキュメンタリー映画『荒野に希望の灯をともす』(監督:谷津賢二)の上映後のアフタートークである。
このときも、アフタートーク終了後、映画の公式パンフレットに谷津監督と高野さんのサインをもらいに行き、お二人とひと言ふた言お話しすることができた。高野さんとは、
「実は以前も一度、高野さんのトークイベントに参加したことがあります。そのとき、コロナに感染して同じホテルに療養した、という話をしました」
「ああ、そういえばどこかで前にお見かけしたお顔だな、と思ってました。アパホテル新宿御苑ですね」
「そうです」
せっかく2度もお話するチャンスがあったのに、またアパホテル新宿御苑の話かよ!大好きな作家を前にして、ほんとうにどうでもいい会話ばかりしている。

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