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対談は人なり・谷川俊太郎『人生相談 谷川俊太郎対談集』(朝日文庫、2022年)

初めて谷川俊太郎さんの詩集を買ったのは、小学校高学年のときだったと思う。当時担任だった新海(にいのみ)先生が、谷川俊太郎さんの『ことばあそびうた』(福音館書店、1973年)の絵本のことをさかんに奨めてくれて、私は親にその絵本を買ってもらったのである。谷川俊太郎さんの軽快な詩はもちろん、瀬川康男さんの絵も素晴らしく、たちまち私の宝物となった。いまでもいくつかはそらんじている。そのときの絵本は、平成最後の年に生まれた娘にも引き継がれた。
次に買った詩集は、『新選現代詩文庫104 新選谷川俊太郎詩集』(思潮社、1977年)である。こちらもまだ大切に持っている。そのあとも不定期に谷川俊太郎さんの詩集を買っている。

若い友人に奨められて『人生相談 谷川俊太郎対談集』を読んでいる。谷川俊太郎さんの父である谷川徹三さんや、息子さんである谷川賢作さんとの対談はいずれも興味深いし、外山滋比古さんの対談の中では私が好きだった『ことばあそびうた』に言及していてこれも興味深かった。
しかしなんといっても興味深い、というか気になってしまったのは、鮎川信夫さんとの対談である。読んでいて、これほど噛み合っていないなと思う対談もめずらしい。私が谷川さんだったら不愉快に思うだろうなと思うほどの噛み合わなさである。というか実際も谷川さんは不愉快な思いをされたのではないだろうか。鮎川さんの谷川さんに対する印象は、ことごとくハズしている。上手く編集の手が入っている活字を読むだけでもそう思うのだから、実際の対談ではもっと噛み合っていなかったのだろう。何度か編集部が気を使って助け船を出しているのは、たまたまかもしれないがほかの対談には見られない。ときおり見せる鮎川さんの差別的な言動も、いまとなってはアウトなものばかりで読むに堪えなかった。
そこへいくと鶴見俊輔さんとの対談は、なんというか格の違いを見せつけられた思いがする。「あとがきに変えて」で谷川賢作さんが次のように述べていることに尽きる。

「…なによりも鶴見俊輔さんの言葉に驚きました。『日本人として、ゆっくり巧みに貧しくなっていって、この程度のことなら愉快に貧しくなっていけるなという、それを探し求めることだと思う』(205~206頁)って、五十年も前に見抜いているんだもの、これからの日本は徐々に身の丈に合っていかなきゃダメだということを」(293ページ)。

「もうほんとに先見の明がある人だよね。そもそも対談の文体自体に精神の躍動感がありますね。大の思想家の鶴見さんが、年下の詩人に対等に接している。だから読んでるこちらも自然にリズムが合ってくる」(294ページ)

やはり対談集はバカにできない。対談集の面白さはそれぞれの人間性が垣間見られることにあるのだと教えてくれる。
そしてその補助線を引くように書かれている内田也哉子さんの解説は、私なんかの感想よりはるかに大人で、この対談集の本質を言い当てていると感じた。

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