再び読む・第1回・塩見三省『歌うように伝えたい 人生を中断した私の再生と希望』(角川春樹事務所、2021年)

塩見三省、という役者の名前を初めて知ったのは、三谷幸喜脚本・中原俊監督の映画「12人の優しい日本人」(1991年)である。この中で塩見さんは、「陪審員1号」の役を演じていた。
それからいろいろなドラマや映画で見かけるようになったが、そのあとしばらく見かけなくなり、2019年の大河ドラマ「いだてん」で、犬養毅役で出演していたのを観たのがじつに久しぶりだった。
調べてみたら、2014年、66歳の時に脳出血を患い、左半身が麻痺して、闘病生活を続けてこられたという。
2021年の夏、塩見三省さんが、文化放送「大竹まこと ゴールデンラジオ」にゲスト出演されていた。そこで、これまでの7年間の闘病生活などが語られた。そのときに知ったのが、標記の本である。
懸命なリハビリをしていたが、まだ左半身の麻痺は残っており、完全に回復したわけではないという。
とつぜんの病に襲われた最初の頃は、「この壁は乗り越えられないのではないか」と思い、泣いて嘆いて恨んで、という日々だった。
そうした精神状況が1年ほど続いた。「そういう時って、最近はすぐに前を向けとか言いますよね。病にかかったときとか、事故に遭ったときとか、災害に遭ったときとか…。でも僕はそうではなくて、とことん泣いて、とことん苦しんで、そこからようやく自分の中のフラットな感じを取り戻せて、誰かの助けを借りれば何かができるんじゃないかな。というところまで来ました」
そもそもこの本を書くように勧めたのは、お互いを「年の離れたトモダチ」と認識する星野源さんだった。
「シオミさん、何か書けばいいのに。僕はエッセイであの病気のことを書いて、書くことによって病に対して一区切りつけられたのです。絶対に書くことで何かクリアできますよ」(4頁)
あらためて本文を読むと滋味深い文章である。病を抱える当事者としてだけではなく、友人たちの死を見送るまなざしもあたたかい。そう、私たちは当事者でもあり、見送る側でもあるのだ。
以前、病を患っている知り合いに、励ますつもりで、標記の本を含めた3冊の本を薦めた。他の2冊とは、以下の本である。
・小田嶋隆『上を向いてアルコール』ミシマ社、2018年
・頭木弘樹『食べることと出すこと』(シリーズケアをひらく)、医学書院、2020年
いずれも病気に向き合うことを表明した人の本である。しかし彼のキャラクターを考えると絶対に読みそうにない本ばかりだとあとで気づき、反省した。すでにこの世にいないので確かめようもないが、おそらく読むことはなかっただろう。そもそも彼自身が病気と正面から向き合っていたので、読む必要がなかったというべきかもしれない。
先日(2023年12月)、NHKの「ハートネットTV」に塩見さんが出演されていたのを見て、久しぶりにこの本を再読してみたくなったのである。

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