見出し画像

回想・文体の原点(前編)

高校時代の唯一の親友といってよい小林からは、たまに思い出したようにメールが来る。8年ほど前(2016年)にもらったメールには、次のようなことが書かれていた。原文のまま引用する。

「ところで、どうでも良い話ではありますが、会社の今の上司が、活字中毒者&漫画マニアなのですが、最近、川上未映子と何とか(名前失念)という歌人の対談集を貸して貰ったところ、意外に面白く、そう言えば最近買った文芸誌に川上未映子と村上春樹の対談があったので、読みました?と聞いたところ、読んでないので貸してということで会社に持って行ったら、その雑誌に詩人の工藤直子(上司曰わく巨匠らしい)と松本大洋のコラボによる連載が有り、むしろ、そちらに過剰に反応していました。この2人は実は親子だそうで、2人が一緒に仕事をするのは始めてではないかと、しきりに感激していました。前置きが長くなりましたが、上司が、松本大洋は絵も上手いし天才なんだと力説するので、高校時代の友人が子供向けの本を書いた際に松本大洋が表紙を書いてくれたと自慢していた、と言ったら、それは自慢しても良い話だ凄いことだ、と言われました。今更ながら、ふ~んと思った次第。それではということで、その上司に何か松本大洋の漫画を貸して下さい、と頼んだら竹光侍というのを貸してくれて、今読んでますが、独特の画風と相まってかなり良いですね。貴殿が自慢していたのも、成る程と思っているところです。」

このメールの中に、私の知らない情報がたくさん詰まっていた。
川上未映子と、「何とか」という歌人の対談集。
川上未映子と村上春樹の対談が載っている文芸誌。
その文芸誌には、工藤直子と漫画家・松本大洋のコラボの連載が載っていて、しかもその二人は親子であるとのこと。
松本大洋の漫画『竹光侍』。
小林のメールにあるように、漫画家の松本大洋は、私が以前書いた本の表紙の絵を描いていただいた漫画家なので、よく知っている。お会いしたことはないが。
そしてまわりまわって、コバヤシは、松本大洋の「竹光侍」を読んだ、というのである。
もはやこれは、一つの読書エッセイである。「めくるめく読書エッセイ」といってもよい。小林からのメールはいつも一文が長いが、味わい深い文章だと思って読んだ。
それからしばらくたって、私はあることに気づいて、小林にメールをした。
「先日貴殿が送ってくれた「読書感想メール」は、川上未映子の小説「乳と卵」の文体のパロディだったのね」
川上未映子が芥川賞を受賞した小説「乳と卵」もまた、一文が長いことに私は気づいたのである。
すると小林からの返事。
「そうなんですか?残念ながら、私は川上未映子の作品自体は全く読んだことが無いので判りません。あまり深読みされても答えようがないところです」
なるほど、私の考え過ぎか。私は返事を書いた。
「やっぱり深読みというか、買い被り過ぎでしたか。単に一文をわざと長くするという文体が似ていただけだったのでしょう」
するとまたもやコバヤシからの返事。
「そりゃそうです。私はただのサラリーマンです。勝手に買い被られて、がっかりされても迷惑というものです。ただ、貴君が読んだことがあるかどうかは判りませんが、吉田健一(吉田茂の息子)は好きで、この人も一文が異様に長いので、それを読んで長いセンテンスも有りか!と考えたことは有ります。興味があれば、金沢とか東京の昔といった名作があるので読んでみてください。ただ、読みにくくて(かつ、少々くどい)ウンザリするかもしれませんので、悪しからず」
なるほど、吉田健一か。さっそく吉田健一(1912~1977)の文章を読んでみることにした。(続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?