あとで読む・第22回・ダースレイダー『イル・コミュニケーション 余命5年のラッパーが病気を哲学する』(ライフサイエンス出版、2023年)

告白すると、「ヒルマニア」である。ヒルマニアというのは、毎週金曜日のお昼から配信しているYouTube番組「ヒルカラナンデス」のファンのことで、時事芸人のプチ鹿島さんとラッパーのダースベイダーさんが約2時間、その週に起こった時事ネタを、「まじめに」「茶化しながら」トークをくり広げる。このグルーヴ感がたまらない。聴くほうは、政治を始めとする時事的な話題についての知識と、かつ彼らがくり出す掛け合いを面白いと思う感性が試される。そこにハマった人は、まんまと「ヒルマニア」になるわけである。もっとも私は、寝ても覚めてもヒルマニア、というほどではなく、この番組から派生するいくつかの配信トークイベントやドキュメンタリー映画を見たりする程度の、つまり「軽度の」ヒルマニアである。
ラッパーのダースレイダーさんは、数年前までその存在を知らなかったが、あるラジオ番組のゲストで、ご自身の病気のお話をしているのを聴いて、俄然注目するようになった。というのも、その番組を聴いた当時、僕も大病を患って、病気について深く考えるようになったからである。
ダースレイダーさんのYouTubeチャンネルのアーカイブを探っていたら、「ILL COMMUNICATION」と題する回を見つけた。グレイト義太夫さんとの対談なのだが、これが腹を抱えて笑った。
若い頃から義太夫さんは深刻な病気を抱えていて、この人、すぐに死んじゃうんじゃないだろうかと心配したものだが、今や還暦を過ぎて、病気漫談に磨きがかかっていた。しかも今も、いろいろな病気が現在進行中で、たいへんな生活だろうなあと推察するのだが、動画の中では笑顔が絶えず、常に笑い飛ばしている印象がある。
「一生付き合わなければいけませんからね。悪い友達みたいなもんですよ」「病院に行くことを『地元に帰る』って言ってますからね」
「ペースメーカーがリコールされたんで、昨年機種変したんですよ」(機種変って)
「痛風の痛みの原因の分子見たことある?ガラスの破片みたいなやつ。あれが血管を突き破って神経に刺さるんだよなあ。で、レントゲン撮ったらさあ、それがはっきり見えるの。医者の先生が、義太夫さん、レントゲンで分子が見えたの、初めてですよ。それだけでかいんですよって」
「病院食のメインディッシュが、おひたしと小松菜のごま和えだったことありますよ。小皿じゃねえか、と」
「病院食で出る魚は、塩抜きだけでなく、旨味も抜いてますよね、絶対」
みたいな会話が延々続くのである。私も思い当たるフシが多く、そのたびに腹がよじれるほど笑ったのである。当人とっては深刻だったり辛かったりすることが多いのだが、それをなんとか笑い飛ばしながら生きていくって、大事だ。でも最近のダースさんを見ていると、選挙の取材で各地を精力的に動き回ったりして、体調は辛くないかなあと、まるで我が事のように心配になる。
発病後、「余命5年」を宣告されたダースさんは、2022年に5年を生き延び、それを「満期5年」と表現した。そういえば私もちょうど2022年に「満期5年」となった。私は余命を宣告されたわけではないが、5年単位で余命を考えるようになった点はダースさんと変わらない。だからダースさんには、ずっと元気でいてほしいと一ファンとして願っている。


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