あとで読む・第1回・武田砂鉄『なんかいやな感じ』(講談社、2023年)

武田砂鉄さんの名前を初めて聞いたのはいつだろう。小田嶋隆さんと平川克美さんの対談ラジオで、小田嶋さんが、「武田砂鉄が…」と言及していたのを聞いたのがおそらく初めてである。小田嶋さんが一目置いている存在なのだなとそのとき思った。
それからしばらくその名前にふれる機会はなかったが、文化放送「大竹まこと ゴールデンラジオ」で、10分程度のラジオコラム「大竹紳士交遊録」で武田砂鉄さんが話しているのを初めて聞いて、地味だがよどみない語り口、なによりも独特なひねくれた視点にすっかり魅了された。いまではすっかり武田砂鉄さんのラジオの追っかけリスナーである。
もちろん武田砂鉄さんの本職はライターなので、出した本はすべて集めている。しかも、できるだけ「サイン本」を、である。直接お目にかかったことはないし、サイン会などに出たこともないのだが、○○書店に行って自分の本に何十冊かサインをした、という情報をつかめば、その書店に行ってサイン本を手に入れたり、トークイベントの配信チケットとセットになっているサイン本を手に入れたりと、チマチマと集めてきた。この本も、そんなふうにしてサイン本を手に入れた。
どういうところが好きなのか、と問われると難しい。とにかくその思考と文体が好きなのだ。しかし、一気に読むと、胃にもたれる。正確には胃ではなく、思考にもたれるのだ。だから一気には読み進められない。連載時には小気味よく読めた文章が、こうして1冊にまとまると、その思考にもたれる文体の連続に圧倒されてしまう。しかし圧倒されることもまたやみつきになる。
1冊の本も好きだが、雑誌や他人の本の解説で不意に現れてくる砂鉄さんの文章も大好きである。僕が好きなのは、映画『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』の公式パンフレット(左右社)に寄せた文章と、植本一子・滝口悠生『往復書簡 ひとりになること 花をおくるよ』の巻末に寄せた文章である。この2つの文章には、読みながら泣いてしまった。
『なんかいやな感じ』は、文芸誌『群像』に連載されていたもので、たまに『群像』を買ったときに読んでいたものだが、こうして書籍にまとまると、まったく印象が異なる。タイトルをまったく違うものに変えたせいもあるかも知れないが、やはり書籍にまとまると、濃密な1冊になる。次の1冊が出るまでに読み終えたい。


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