あとで読む・第11回・和田靜香『50代で一足遅れてフェミニズムを知った私がひとりで安心して暮らしていくために考えた身近な政治のこと』(左右社、2023年)

特定の出版社を宣伝するようで気が引けるが、左右社と勝手に縁を感じている。以前に西荻窪の書店で「左右社フェア」をやっていて、その本棚の一角を眺めていたら、おそらく当番でお店に来ていた左右社の編集者の方に声をかけられ、名刺交換をしたら、なんと私と同じ姓の三上さんだった。「どんな本がお好みですか?」と聞かれたので、「最近、ジェンダーを少しずつ勉強をしています」と答えたら、レベッカ・ソルニットの『私のいない部屋』(左右社、2021年、東辻賢治郎訳)を薦めてくれた。そこで初めて「マンスプレイニングという言葉を知った。
その三上さんが、私のちょっとした知り合いである藤岡みなみさんの『パンダのうんこはいい匂い』(左右社、2022年)の担当編集者であると知り、大変驚いた。本の刊行に合わせた藤岡みなみさんのトークイベントを聴きに行ったときに再会した。
『〆切本』(2016年)『仕事本』(2020年)あたりから左右社を認識し始めたのだが、青山真也編著『東京オリンピック2017都営霞ヶ丘アパート』(2021年)、安田菜津紀『あなたのルーツを教えてください』(2022年)、『OVER THE SUN 公式互助会本』(2022年)など、私の本棚には知らず知らずのうちに左右社の本が増えている。
さて、和田靜香さんである。お名前も、前の2冊(『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』『選挙活動、ビラ配りからやってみた。「香川1区」密着日記』ともに左右社、2021年)の存在も知っていたのだが、実はまだ買っていない。3冊目のこの本が和田靜香本デビューである。ポッドキャスト番組「ホントのコイズミさん」での小泉今日子さんと和田靜香さんの掛け合いは本当に面白く、前の2冊もいずれ読まなくてはと思わせる。
面白かったエピソードの一つは、立憲民主党の国会議員である小川淳也氏を取材したときのことである。小川淳也氏は選挙運動中のたすきに「小川淳也」と書いてあるのに、家族のたすきには「妻」とか「娘」といった続柄しか書かれていない。家父長制の残滓ではないかと和田さんは小川氏に意見を言うが、家族像を壊したくない小川氏は難色を示す。結局いろいろあって「妻」や「娘」の下に、「下の名前」をつけることで決着する。
「小さなこと」から変えていくって、めんどくさいけれども、それを厭わずに意見することはとても大事なことだと思う。もう10年以上前のことだが、以前に勤めていた大学で、教員の送別会の時に必ず女性の事務職員が花束を贈呈するという「悪弊」があった。仮に退職する教員が10人いたら10人ともすべて女性が花束を渡すのだ。この長年の思考停止状態に何人かの教員が声を上げた。そのおかげで以後は学部の責任者である学部長が花束を渡すことで決着した。たぶんいまでもそれは違和感なくおこなわれていると思う。政治家や政治だけに任せるだけでなく、そうではない人もできるところから少しずつ世の中を変えていこう。和田さんの明るい笑い声とともにそのメッセージが聞こえてくる。

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