あとで読む・第30回・宮沢章夫『今日はそういう感じじゃない』(河出書房新社、2023年)

目下の問題は狭いマンションの部屋が本で溢れかえっているということである。本棚に入らないものは適当に平積みしていたら、収拾がつかなくなってきた。年末なので少しは蔵書の整理をしようとしたら、宮沢章夫さんの本が3冊出てきた。どれも今年買ったものばかりだ。
私は若い頃からシティボーイズのファンなのだが、三木聡さんが座付き作家だった頃からのシティボーイズしか知らず、それより前の、宮沢さんが3人と作り上げた草創期のシティボーイズを知らない。
文化放送のラジオ番組での大竹まことさんがシティボーイズの回顧をする時は、決まって宮沢さんの名前が出ていたので、もちろん名前は知っていたが、2022年9月に宮沢さんの訃報を聞いたことをきっかけに、宮沢さんがいかにすごい人だったかをいまさらながら知ったのである。そのときの大竹さんやきたろうさんの喪失感の大きさは、ラジオから痛いほど伝わってきた。シティボーイズだけではない、東京の演劇界ではそうとうな衝撃だったようである。
大竹さんがよく語るのは、宮沢さんが考えた「砂漠監視隊」というコントの話である。シティボーイズを核とする「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」というユニットによる公演で、何も起こらない砂漠の真ん中で、砂漠を監視するという男たちを描いた話だった。その設定だけでもバカバカしいのだが、さらにそのコントのために会場となるラフォーレ原宿にビックリするくらいの量の砂を持ち込んだというのだからますますバカバカしい。いや、バカバカしいコントにそれだけ真剣に取り組むということが、なおのことバカバカしいのである。
大竹さんのラジオ番組では、宮沢さんの本の話題もしばしば出た。『時間のかかる読書』(河出文庫、2014年、初出2009年)は、横光利一の短編小説『機械』を、11年もかけて読んだことを記録した本だと知り、どこからそういう発想が出てくるのかがわからない。思索的なのかたんにバカバカしいだけなのか、読んでみたくなる。
またあるとき、ふだん読書の話題などがまったく出ない知り合いと話していたら、どういうわけか本の話題になった。エッセイなんか読みますか?どういう本が好きですか?とたまたま聞いたところ、
「宮沢章夫の『牛への道』(新潮社、1997年、初出1994年)ですね」
と間髪入れずに答えが返ってきた。およそそんな本を読みそうにないまじめな感じの人だったから、これはことによるとそういう人の心にさえ突き刺さるほんとうに凄い本なのかもしれない、と思った。
というわけで、この2冊を入手しようとしたのだが、今年の夏頃に書店を徘徊していると、宮沢さんの遺作というのか、新作のエッセイ集が発売されているのを知った。それが標記の本である。これも買わないといけない、というわけで、宮沢章夫さんの本はいま現在3冊が手元にある。どうして買ってすぐに読もうとしなかったのか、たぶん「きょうはそんな感じじゃない」と思ったからだろう。やがて「そんな感じ」になったら、最新作から遡って読んでいこうと思っている。

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