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あとで読む・第53回・鴻上尚史『ロンドン・デイズ』(小学館文庫、2018年、初出2000年)

TBSラジオ「武田砂鉄のプレ金ナイト」で鴻上尚史さんがゲストの回だった時、番組の後半でレギュラーの澤田大樹記者が、
「鴻上さんの『ロンドン・デイズ』という本がすごい好きで、1年間ロンドンに留学した体験記が1冊の本になっていて、それがすごくおもしろいんですよ。英語ができないなかでどうやってコミュニケーションをとったのか、とか、作・演出の人なのに「役者クラス」に入れと言われて一から役者の勉強をするとかが読んでいて楽しいんですよ」
と言っていて、その話を聴いて以来この本のことが気になって仕方がない。
というのも、私も韓国語がまったくわからない状態で、韓国に1年3カ月ほど留学した経験があるからである。ひょっとしてこれは、私と同じような思いが書いてあるのではなかろうか、と思ったのである。
文庫本を手に取り、裏表紙の紹介文を読んで驚いた。

「イギリスでの俳優教育の基本、技術を学ぶためロンドンの演劇学校に留学した三十九歳の鴻上氏。準備は万全、のはずだったがそこは想像を超える”英語の戦場”だった…。
日本では名の知れた演出家で作家の著者が、英語の聞き取りに苦戦しながら、ぴちぴち黒タイツを身につけ鬼ごっこをしたり動物の真似をしたり。時折演出家の視点が覗くも生徒に徹し、イギリス流ワークショップに取り組む姿がユーモラスな文体で綴られる。
俳優志望者だけでなくすべての人の人生に有益な、泣き笑い奮闘記」

何に驚いたかというと、鴻上さんが「三十九歳」の時にロンドンに1年間留学したということ。私も39歳のときに1年3カ月、韓国に留学したのだった。
最初の方を少し読んでみたが、自分が留学した当初の体験がよみがえってくる。入国とともにいきなり語学学校に放り込まれ、まったく何を言っているかわからないままコミュニケーションに戸惑う様子や、演劇学校では生徒たちの平均年齢が20歳くらいだということなど、まさに私が韓国で最初に体験したことと重なる。
そしてこの本は日記の形式をとっている。実際に日記をつけておられたのだろう。私も留学中には日記をつけていた。毎日起こることがあまりにも可笑しかったからである。いや、当人(私)はいたって真剣なのだが、それを「引き」で見るとやたらと可笑しい。私もまた、自分自身を演出家目線で見ていたのである。

可笑しくて、やがてほろ苦き留学体験記|三上喜孝 (note.com)

そんな演出家目線で自分の体験を書いているうち、自分でいうのも可笑しいが抱腹絶倒な日記となった。いつかこの体験記を本にまとめたいというのが私の夢だったが、すでに鴻上尚史さんによって実現されていた。それに私自身の体験はもう15年も前(2009年)のことであり、賞味期限はとっくに切れている。『韓国デイズ』は幻となって消えた。


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