これは何の飲み物なのかしら


 ちょっと前に、とあるファストフード店に行った。飲み物は何があるのか、列に並んでいる間に選びたいけれどメニューが見えず、注文カウンターに行ってから素早く決めないといけない。ファストフード店のこういうシステムに未だに慣れない。カウンターの前に立つとものすごく焦ってしまう。その時も飲み物を早く決めなくてはと慌ててしまったけれど、メニューの目立つところにレモネードがあるのが見えて、それを指さしながら注文した。私は酸っぱいものが苦手なのだけど、レモネードはとても好き。ホット用のグラスに入っていておいしそうだったし、列に並んでいる間は炭酸ドリンクにしようと思っていたけれど、レモネードのほうが高そうで得した気分になった。ファストフードによく行っていた時期が学生の時だったからか、数十円のことでものすごく得した気分になる。
 店の受け取りカウンターは混んでいた。自分の番号が呼び出されるのはもう少し先だろうと思いながら待っていた。そのうちに、受け取りカウンターの上方にモニターがあることに気づいた。そこに、商品が出来上がった人の番号が書かれている。306、307、211等が表示されている。飲み物だけの人が200番台だろうか、持ち帰りの人がそうだろうか、と思いながら私のレシートの二枚目を見ると、数字が三桁ではなく十一桁だった。長すぎる。下三桁を見るのだろうかと思ったが、300番台でも200番台でもない。近所のお弁当屋さんではレシートの二枚目が受け取り用の番号札なのだけどここでは違うのかもしれない、と思い、一枚目のレシートを財布から出して見たら下の方に309番と書かれていた。呼び出し番号はこっちだったのか、と思った。お弁当屋さんのシステムが脳に刷り込まれすぎ。そして手に持っている二枚目をあらためてよく見ても何に使うものなのかわからなかった。
 何人かが商品を受け取り、カウンターにまたトレーが並べられた。そして、お店の人が、あ、そうだった、メープルシロップを、という感じでトレーに何かを置いたので、あれが私のトレーだなと当たりをつけた。私はスコーンを注文していたから。それと、レタスとツナのサラダとフライドチキンとポテトと飲み物。そのトレーにほかにもいろいろ置かれていき、「309番のかた」と呼ばれたので受け取りに行った。レモンリキッドのパウチが見え、お店の人が指さしながら「これを入れてください」みたいなことを言ってくれたのだけど、マスクをしていてよく聞こえない。最近、マスクはあるわ透明のシートはあるわでよく聞き取れなくてもういいやと思ってしまう癖がついてしまっている。とにかくリキッドのパウチを自分で開けて入れたらいいんだろうなと思ってトレーを受け取り、二階へ行った。
 熱々でとてもおいしい。私が座った席は皆が外を見ながらひとりで食べるような形に二列に並んでいて、誰とも向かい合わせになっていないので安心して気楽に食べられた。ひとりで来てよかったと思った。チキンやポテトを食べると手がべたべたになるし、サンドイッチをほおばって顔にソースが付いているかもしれないから。
 そして、飲み物を飲もうとして紙カップの上に付いているプラスチックの蓋を開けた。中身が透明だ。動揺した。写真で見たレモネードはガラスの容器に入っていたけどそれが紙カップになったのはちょっとがっかりするくらいで済んだ。てっきり紙カップの中にレモネードが入っていて、レモンリキッドはレモンの味を濃くしたい人のためのものだと思ったのに、違うとは。レモンリキッドとシロップをお湯に入れて自分で作るの? ファストフード店のレモネードはこんなに簡易的だったのか、としょんぼりした。すると紙カップの向こう側にアッサムティーのティーバッグが見えた。隠し味ってことかしら、斬新だな、と思いながら、封を開けて、ティーバッグをカップのその透明なお湯の中に入れた。それから無意識に素早くレモンリキッドを入れてしまい、浸透圧はどうなんだろう、これでティーバッグの味が一切出ないとなると、この店のレモネードのオリジナル性が台なしになるのでは、とちょっと心配した。でもチキンにかぶりつくとそのおいしさのあまりどんどん食べてしまい、それから思い出したように飲み物を一口飲んだ。紅茶の強い味がした。前面に出過ぎだ。隠し味ではなくなっている、と思いながらポテトを食べ、しばらくしてまた飲み物を一口飲んだ。そしてスコーンを口に運び、あまりにおいしくて二個目に突入し、さんざん食べて、それからカップを手にし、三口目を飲んで気がついた。これ、レモンティーじゃない?と。レシートをまた財布から出して見てみると、「レモンティー」と書いてあった。
 これ、皆さんなら、どの段階でレモンティーだということに気づきますか。
 私、せめて紅茶の味を感じた時に気づきたかったわ。それに、できればアッサムティーのティーバッグを見た時に。


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