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FLAMENCO Dinner Show 2023.3.17 七里屋茶房     Jun Yuria TAKAGIフラメンコ舞踏団

会場、七里屋茶房の手に馴染んだ大きなガラスドアを開いて一歩踏み込んだ私は、思いのほか緊張していることに気づいた。ライターとして招かれていながら、今日は音楽ライブではない。音響は既成のものを使ったフラメンコダンスの一夜である。物書きとしてどんなアプローチができるだろうか。落ち着かないままに顔なじみのPA、A君に近づいた。いつも通りでいればいい、緊張なんかすることはないよ、と、なだめてくれるA君だったが、本番前には「作品」を仕上げてしまっている彼ら「裏方さん」とは違い、「本番」のsomethingをすべて文字にとどめなければいけない私にとって、特に今日のように本番前(そして本番後もなのだが)取材を許されない私の開演前の時間の灼熱は身を焼いた。やがて太鼓奏者のK君が現れて、和太鼓を主とする、彼の西欧音楽一般にもある鋭いリズム感を話題にするうち、私の緊張はいくらか解けた。彼は和太鼓奏者と呼ばれることを好まない、自分は太鼓奏者、ドラムスなのだという。それを聞いた時私はすうっと楽になったのだ。ジャズ、クラシックに特化していることは自慢にならない...

1stセットはコケティッシュなタンニジョデカティスから始まる。舞踏団から3人登場、トリオでスペイン風カスタネット、パリージョが高らかに響く。足音も鋭く鳴り、オレ、グアバの掛け声とともにダンスは高鳴り、クアルテットへ。パリージョとパーカッションとしての足音はさらに高揚していく。手拍子が加わり、足のアクセント、掛け声とともに最後はテュッティのダンスで終わった。続いてユリアソロ、得意のタンゴ。私は惹きこまれ、メモを取るのも写真を撮ることも忘れた。ラテンの女のほの暗い情熱・情念としか私は形容する言葉を持たない。そしてアングリアス、喜び。トリオのダンスはアンダルシアの風のようだった。次の曲は曲名をメモしきれなかった。古い城に閉じ込められた乙女の哀しい気持ちを表す。広い世界に見とれた激しいステップ。1st最後はジプシーキングス、ボラレ。全員による舞踏。飛ぶことに切なくあこがれるラテンの血— ここまでの短いながら集約した切ないステージング、演出の妙に私は思わず涙ぐんだ。

2ndはビゼー、カルメンからハバネラで始まった。パシマンドというスペインの民族衣装に身を包んでトリオ。悲しみの舞か?オレとグァバという掛け声の意味の情報がいきわたり、どっと会場全体が熱狂し始める。ユリアのソロ。会場の掛け声とユリアが一体化する。ユリアセンターでトリオ、デュオの登場でひける。ダンサーと会場すべてが熱く一体化し、このうえない高揚を見せる。

フラメンコ特有の激しくリズミックでありながら切ない哀しいギターが流れ、流れるようなステップ。ユリアソロタンゴ。鋭いステップ。からだの線は細いが肉体的構成力は逞しい。

ラテンと言い切ってしまうにはあまりにsomethi'elseに満ちたダンス!

七里屋茶房との運命的出会いと、これほどの舞踏は15年来したことがない、とを告げたユリア。この夜の記憶は私たちの記憶にも長く残ることだろう。グラシァス・ムーチョ、ユリア!

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