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漣   SPRING DAY 2023 in IIDA 2023.3.18              太田裕士 鏡剛 岡只良 古谷悠

ライブのあと、感動した俺は三晩を泣いて過ごした。レビューをまとめるどころではなかったんだ。(思わず一人称がブレてしまう)

人間と社会・宇宙といったものの撞着への深い諦念が、無力感に沈んで行ったり、ときに絶叫となったりすることのある「障害者」と呼ばれる側面もある太田が、完璧な表現者としての確信をもって、超一級の表現をしてくれた。まず第一に私はひとりの障害者としてからだ震えるほどの感動をした。同時にこの夜の太田の表現に病だ障害だという留保はまったく関係なかったことにも…そう、太田裕士は間違いなく日本を代表するアーティストのひとりなのだ。そう記して私はもういちど涙ぐむ。

全員のハコ入り前、偶然楽器をもって遊びに来ていた森田修史と私はたわいもない冗談交じりの世間話をしていた。そこへ風の音がするかのように太田と「漣」のメンバーがまさしく怒涛のようになだれこんできた。太田がネックとマウスピースを装着するやいなや、おなじみのファストテーマのパーカーナンバーでジャムセッションが始まった。帰りかけていた森田が思わず楽器を組み立てる。音楽的カオスの充実に私の眼はくらんだ。永遠と見まがうばかりの音楽的充実!森田がバンドのメンバーでないことなど忘れさせられた。その後リハーサルが極めて音楽的に進んだことは言うまでもない。

1stスタンダードのステージ、最初は、私がエバンスと認識していたルグランの春にちなんだ曲をボッサで。ドラムスの音楽的で効果的なアクセントは、バスドラムやタムにとどまらない。太田のソロは美しく泣く。フレーズばかりでなく息も... 岡はしっかり発音し、美しく歌う。やがて太田、鏡アクセント、やがて静まって太田コーダへ。

2曲目でジャムセッションに使われたパーカーナンバー。太田から、鏡はやしたて、スウィング、グルーブ。岡。そして古谷、たっぷりと楽器全体を鳴らしながらスウィング、ドライブ感。8バース交換から太田リフ、鏡の巧みなアクセントでサンバビートのコーダへ。

続いて太田の好きなバラード。岡の極めつきのルバートに、太田の背筋に来る歌が始まる。歌うドラムスとアルトの美しさは本当にゾクゾクする。たっぷりとタメて岡につなぎ、クレッシェンドして太田でリフ。最後太田の美のはじけるようなブレイクソロ。1st最後は恥ずかしながら私の苦手なマイルスのナンバー。トリオがさながらモダンミュージックのセッションと化す。古谷ソロ、鏡ソロからリフ。古谷が極めて美しいアルコソロで入り、太田と対位法的に絡む。ピウ・モッソからアッチェレランドして終節。多彩なバップソロ、鏡のフリーソロ!トリッキーなエンディング。

2ndステージは太田裕士のオリジナルで染められた。最初は「水眼」。ジャズって何だろうって大田の自身への問いかけの答えのひとつとして… 私にはJapanese Modeに聴こえた美しい旋律線で太田のソロ。そして岡と太田のぴったりあった明るくも哀しい歌。太田らしく、懐かしくもあった。リズムパターンは独特。ふっと古代日本もかくやと思う。「遠くまで」。古谷の鋭いアタックを鏡と岡が刻んで支える。太田がメロディ、明るく開放的でありながら、太田特有の哀しみがある。そのまま太田ソロ。ふっと天使のこだわりという形容が私の中をよぎった。天使であるが故の、天に還らない、人々に収束していく愛... 岡のソロがリトナーみたいに懐かしい、節度ある古谷のバッキング。バンドひかえて鏡のソロはメリハリ抜群。そして「あのときの」。太田らしい切ない — 天使が地上にいなければならないが故の — 旋律...岡のソロもきわめて綺麗。次は「Sky Blue」。ファスト4ビート。太田のソロは次々とフレーズが途切れない。岡ソロのあと4小節交換、岡が途中でスタンドする。そうして今日最後は、私たちみんなが大切にしている「カノヤ桜」。岡がルバートでアルペジオ太田ファンがみな愛しなく、名曲が始まった。古谷も初めて十全なテクと歌心を出したような気がする。rit.してFin.

アンコールは誰でも知っているスタンダードだった。リフのあと何気なく太田がピアノに向かう。弾いてくれるんだ。私はドキドキした。太田は「サックスを吹くピアニスト」とも呼ばれている。美しく、素晴らしいピアノソロだった。そして伸びのびとベースソロ。太田がセンターに戻って夢のような一夜は終わった。

悪はもちろん、善をすら超えた理想としての音楽、音の「空間」。太田が意識上に持っているだろう理想を超えてか、反を含めた宇宙全体の調和、ただあるという俗にいうスタティックなものでない、目くるめく運動に満ちた悟りの三昧境!

人智を超えたものとして、仏智と呼ばれるものですら狭い、智というものの本質としての美の悦楽!

だからこそ当夜に起きたのは奇跡であるより、「美」の運動の本質だったのだ!限りなき「生」の瞬時の一回性!この「真」を前に、「ことば」のむなしいこと!

世界と宇宙、大自然の調和、そして平和を目指す「漣」の意気やよしである。はばたけ「漣」!

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