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Yujaのこと もうひとつ

以前私は、ユジャのその女性性をすこぶる強調するパフォーマンスに比して(いや、だからこそなのだろうが)、その音楽は音質の特有のほの暗さも手伝って、深く内向する音楽家ととらえていると指摘したことがある。だが、音楽家とは、いや芸術家とは変貌するものなのである。

これを立稿するにあたって新旧何本かの動画を見、演奏を聴いたのだが、この数年、明らかにユジャの音質が変わっている。ピアニストに対しても単音の美学・説得力にこだわるのは私たち管楽器上がりの悪い癖だが、音楽を構成するのが単音の(妙な言い方だが)微分的差異の和という側面がある以上、必ずしも無視していいことではないだろう。そうしてここで、ユジャの音質の、微妙な、しかし明らかな変化は、特筆に値する。

かつて私はユジャのシューマンのコンツエルトを絶賛した。今でもあれはユジャのシューマンの到達点だと思っているし、哀しく内向するシューマンの歴史的到達点だと思っている、オケ伴のロレンツォ・ヴィオッティがまた素晴らしかった。

そうしてもう一度、ヴィオッティ率いるミュンヘンフィルがオケについた、ラフマニノフの2番コンツエルトを見よう。

最初の重奏和音でまずハッとする。ユジャは音楽を鳴らすことがさきで、ピアノを響かせること(ジャズでいうサウンドさせること、に、近い)を優先する人ではなかった。この楽章、ユジャのフォルテは深々と、朗々と鳴り続ける。しかもずいぶんとハイレベルに音楽的に…

2楽章、最弱奏歌謡楽章。今まで通りのインテンシブな、一定の強度を保った緊張度の高い歌が、音色の多彩を勝ち得たユジャの微妙繊細極まりない歌心で歌われる。これで泣けなきゃ音楽を聴くって行為はかなりつまらないものになるだろう。

3楽章、ヴィオッティの白熱のリズムに乗って、これはもうユジャの独断場。しかも音色が七色だから眼がくらむ。そして熱い歌!

この動画だけで、ユジャの新しい時代が始まったと断じるのは尚早だとは思う。しかし、ラフマニノフにおけるユジャの一つの結実であるのではないか。

https://youtu.be/oD5pqlDPCHc


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