てんかん病理におけるアストロサイトの役割 1

エネルギー供給と代謝
生理学的条件における脳のエネルギー源はグルコースであり、ニューロンとアストロサイトにグルコース代謝機構が見られる。グルコースは大きく二つの経路によって代謝される。解糖系とペントースリン酸化経路である。ここでは解糖系について注目する。

解糖系では、はじめにグルコースがヘキソキナーゼによってリン酸化され、グルコース6-リン酸(G6P)が生じる。その後、ピルビン酸が産生され、続いてピルビン酸はクエン酸回路(TCAサイクル)に入り、最終的に34モルのATPが産生される。TCAサイクルはミトコンドリアで行われる。

アストロサイトは血管内を流れる物質を直接やり取りすることができ、脳内のエネルギー供給に非常に重要な役割を果たしている。とりわけ、低血糖症(hypoglycemia)やニューロンが著しく活動している際には、アストロサイトが局所的なエネルギー需要をまかなっている。アストロサイトはGLUT1を介してグルコースを取り込み、グルコースからG6Pを、そしてピルビン酸を生成する。アストロサイトは、このピルビン酸を乳酸脱水素酵素(LDH)によって乳酸に変換し、モノカルボン酸トランスポーター(MCTs)を介してニューロンに供給している。ニューロンは取り込んだ乳酸をピルビン酸に変換し、ATP産生に用いる。ニューロンとアストロサイトを結ぶこの経路を乳酸シャトル(Lactate shuttle)という。

また、一方でニューロンにもGLUT3というグルコーストランスポーターが発現しているため、自力で細胞外のグルコースを取り込むことができる。

グルコースは以下の経路によりグリコーゲンという形で貯蔵されることもある。必要になった場合は、グリコーゲンがグリコーゲンホスファターゼによって再度グルコースに変換され、エネルギー源として使われることになる。

   グルコース → G6P→ G1P → UDP-グルコース → グリコーゲン

グルコースはシナプス活動を持続させる
けいれんの間は過剰なシナプス活動が生じているため、急激なグルコースの減少が起こるとともに、それに応じて乳酸の量が増加する。

上述のように、アストロサイトはニューロンにグルコースを供給しており、ニューロンが過剰に発火するような状況においては、グルコースの局所的な需要の高まりに応答するために、ニューロンから遠く離れたところからグルコースを運んでこなければならない。そこでアストロサイトはコネキシンという膜貫通タンパク質が形成するギャップ結合によってグルコース輸送を強化する。さらにグルコースをグリコーゲンにして貯蔵しようとするはたらきも強まる。

以上のことから、グルコースの供給は過剰なシナプス活動を持続させるため、結果としてけいれんを悪化させることになる。逆に言えば、グルコースレベルを低下させればけいれんを抑制することができる可能性がある。

これを利用したてんかん療法が「ケトン食」である。ケトン食とは、糖質さげ、脂肪分とタンパク質の割合を高くした食事である。この食事をとることによってケトン体*が蓄積され、脳はグルコースを保存しようとする代謝から、ケトン体を代謝しようとし始める。つまり脳のエネルギー源がグルコースからケトン体になるということである。

しかしながら、この療法は以下のような悪影響を引き起こす可能性を有する。
・低血糖
・吐気・嘔吐
・便秘
・下痢
・体重減少 など…

したがって、ケトン食に代わって解糖系や乳酸産生を抑制する療法の研究が進められている。その一部を以下に列挙する。

・2-デオキシ-D-グルコース:ヘキソキナーゼを非競合的に阻害する解答系インヒビター。
・AEDスチリペントール:LDH阻害剤。ピロカルピンやカイニン酸モデルにおいてけいれんを抑制する作用がある。
・ギャップ結合ブロッキング:ギャップ結合はグルコース輸送を担うので、それをブロッキングすることによってけいれんを抑制する。

てんかん療法については以下の文献も参考にされたい。

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