短編小説「無題」vol.5
5年ぶりに入った祖父の古本屋は、思った以上に本があった。そのほとんどが日に焼けていたり、背表紙の上部がやや綻んだりしていたが、そのおかげで祖父がこの店で過ごした年月が無言のうちに眼前に迫ってきた。父が離婚しこの店に入ったのは15年前だけど、この店はそれよりもずっと前から、祖父とともにこの鎌倉に住み着いている。
以前来たときは、成人式の前撮りの写真を褒められ気恥ずかしく思っていたため、店の本などには目もくれていなかった。今回は、祖父の病気や死が胸の中に大きくあるため、自然と