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もしもデザートがティラミスなら。【青豆ノノ氏cover小説】


青豆氏を知った初期段階で読ませていただいた作品をcoverさせていただきます✨️もちろんリスペクトを込めて✨️



『はい?』
わたしの素っ頓狂な声と顔で、郵便局員はもう一度言う事にした様だ。
「336円です」
『ぬぅぁんで!着払いなのよぉぉぉぉぉぉ!!!!』
わたしの大声に郵便局員は端末操作を誤ったようで、電子音が忙しく訂正をしている。
送料込が基本の取引サイトでの、着払い設定だと……。
ふつふつと込み上げてくる怒りを他所に郵便局員は小声で『あの、336円』とtweetする。
あまりに小声で耳に入って来なかったわたしは、郵便局員に覗き込むように顔を見られて我に返る。

ーーア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!悔しいっ!
こんなに悔しいお支払いがあるだろうか?泣きそう。いや、泣く。あ、泣いてた。

今日、わたしはティラミスを我慢したんだぞ。その対価がこれ?
ふざけんな!この出費さえなければ次には堂々とティラミスを食せるのに!

『悔し……』
何だか馬鹿みたいに泣けてきた。
こんな33歳。だからモテないんだ。
あれ?ケチだからってこと?
ん?いやいや、ケチじゃないよね。
ささやかな理不尽を喰らってるだけで……あ、心が狭い?
いやいや、自分を追い詰めるな。
モテないと336円は別だ、別。

結局の発端はわたしの落ち度からスタートしている。
図書館で借りた本を見事に紛失して中古として譲り受けて返そうとした時点でケチ全開だった。
『いやいやいや!図書館って税金で成り立ってるとこよね?わたしのお金入ってるよね?既にボロボロで中古だったし!』
リビングで自己弁護に必死で、それを聞いてくれる友達が居ない悲しみ。
『うわぁ……急に悲しくなってきたじゃんよ!!』
何やってんだ、33歳。厄年?なんだか知らんけど。そんな辺りに居るらしい。

『あれ?』
よく見たら出品者の住所と名前が包み紙に明記されている。
悲しかったわたしはそれを見た瞬間に怒りのスイッチが入った。
『まてまてまてまて、この人!隣町じゃないよ!』
【安藤なつ】住所は隣町。
自転車でも10分少々だ。
『どんな女だ!?アンドーナツ!!美味しそうなsweetな名前しやがって!今から乗り込んでやるからな!』
勢いだ。こうなったら勢いだ。
迷ったら動けなくなってイジイジしてしまいそうだった。

お昼時の街並みを自転車が疾走する。
安藤家はスマートフォンのマップで捉えてある。迷うことも無いだろう。
隣町は駅を挟んで反対で、わたしはあまり行ったことがないので、あまり詳しくない。

行く道のりで。
【sweet tweet bakery】
『あ、このパン屋さん。美味しいんだよね』
お腹がすいている自分には気付いている。しかし、この怒りを溜めたまま食べるパンと、全てを吐き出してスッキリして食べるパンではきっと美味しさが違うハズ!
ーーまだ我慢だ、わたし。

パン屋を通り過ぎ、陽の光を浴びながら自転車を漕ぐ。
スピードで向かい来る風が気持ちいい。
ーーあれ?わたし、怒ってたよね?
心地良さに怒りがどこかへ行ってしまっていた。
『あー、こんなんじゃ乗り込めなくない?もぉ……』
わたしは何をやってるんだろう。
自分のやっていることに失望すること数多。これからもこんな人生が続くのだろうな。
怒りが何か、訳の分からない切なさに変換された。


『ここか……』


【安藤なつ】の住むアパートに着いた。
『ボロ……だっせぇ……』
勝ったぁ!勝ってる!おそらく、いや確実に収入面でわたしはドーナツに勝っている。
そう思ったら336円を余計に払ったことも気にならなくなってきた。
『ボロアパート見て、マウント取ってるわたし……もっと、だっせ』

切なさは虚しさに切り替わって、わたしの中に蠢き始めた。

帰ろう。

そういえば、駅の反対側で初めてみかけたが、小洒落たラーメン屋があった。
『ラーメン食べて帰るか、こっち側なんて滅多に来ないし』

あまり来ない駅の反対側でお昼をとることにした。
Cafeの様な店構え。
狙いは女性がひとりでも入れるラーメン屋って感じ。
『あーしまった』
急いで家を飛び出した自分の格好を恥ずかしく思えた。
『お洒落過ぎるのよ、ラーメン屋なのに。それでもラーメン屋でしょ!』
自分で自分の背中を押す。

メニューには見たことの無い名前。
【オマール海老の出汁によるーー】
【ローストしたTOKYO Xのーー】
『わからん……』
ラーメンに多過ぎる修飾語は要らない。シンプルなラーメンでいい。

待っている間にバッグにしまい込んだ本を読んでみる。
図書館で借りて既読だったけど。
『このシーン、すごく良かったな』
この人が書く、回りくどい描写がとても面白い。それから、なんだか切なく響いたりする表現が刺さるんだよな。
振り返り、物思いにふけっているとカウンターから遠慮がちにコチラを見る人が居た。
ーーなんだろ?本を広げてるからラーメン運びにくいとか?そんなことはないよね?
わたしもその人に目を向ける。
『あら』
随分とイケメンだ。絶対年下だろうけど。年下男子はわたしの担当では無い。

暫くして、その男性がラーメンを運んで来た。
「ラーメンです」
ーーはい、知ってます。
心の中でツッこんでみた。
わたしは透き通ったスープに遠慮がちに浮かぶ麺に一目惚れ。とてもいい感じだ。

「あ、あの」
『はい?』
男性に話し掛けられ、顔を上げる。
モジモジとしている男性。
わたしは秒でイラついた。
ヤバい、ヤバい。秒でイラつく女なんてモテないんだから。
「なにか?」
わたしは落ち着いて問うと、男性は人差し指で本を指さし
「その本の送り主です」

へ?
えええええええぇぇ!!!!
あんたが!?
あんたがあの憎きアンドーナツ!?

『え、あ、そ、そうなんだぁ!あーいやー偶然!わたし隣町に住んでて、住所見たら近くてーあのー何となく自転車で来てみたんだけどさー』
まくし立てるような早口が滑稽だぞ、わたしっ!
『別にあなたに用があったとか、そういうんじゃないからね、あはは……』

大嘘吐き。

アンドーナツも愛想笑い。
「僕も住所見たら近かったんで、郵送料着払いにしたのが申し訳なくて」
そ、そ、そ!!そこなのよ!
わたしがここに居る理由は!
そういう感覚をちゃんと備えてるヤツなのね。それが分かっただけでも来た甲斐があったかな……。

『まぁ、仕方ないよね。家の近さなんて偶然なんだから』
二度と着払い設定なんてやるなよ!?
と言う言葉は呑み込んだ。
「なんか、偶然とはいえここでお会い出来たので……これ」
アンドーナツが小さな紙をテーブルの上に置いた。
『ん、なに?』
デザート無料券と記された紙。
『え?これ。サービスしてくれるの?』
「はい。良かったら使ってください。チーズケーキか、ティラミスになりますけど」

ティーーーーラァーーーーミィーーーーースゥ!???
『うそ?ティラミス超嬉しいよ?超嬉しい!』
バカ丸出しの思考から子供のように喜んだ。
『ありがとーアンドーナツくん!』
「いえいえ、どういたしまして、にゃんにゃんパンチさん」
登録ネームやめろっ!!と突っ込むのはやめた。

安藤なつはスッキリした表情でカウンターへ。
わたしはラーメンをすすりながら、ティラミスのチケットを眺める。
【350円デザートチケット】と書かれている。
デザートの為に、スープは全部飲まない様にしよう。
こっそり、カウンターに目を向ける。

ーーまた、食べに来ようかな。

なんてね。

『あ、ティラミスお願いしまーす』
「あ、はい。ただいま」


帰り道。
行きより自転車のペダルが軽い気がする。きっと美味しいご飯とデザートを食べてパワーアップしたってことにしておこう。

『あ』
【sweet tweet bakery】が目に入る。
ーーそうだ。
『すいませーん、アンドーナツ下さい』
ここのアンドーナツが有名と云う訳では無いけれど、オヤツに食べたくなったのは……。

何でなんだろうな。


[完]




拙い文章でcoverさせて頂きました!
リスペクトです!!
(`・ω・´)キリッ

こちらの企画に参加させて頂いてます!
よろしくお願いします✨️

#カバー小説

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