修了考査6年分の過去問分析をした

(おことわり)
 本記事はH28〜R3の過去6年分の修了考査を問題別に分析・集計したデータにより構成されておりますが、記事中のデータは全て個人が作成したものであり、予想配点など一部筆者の推測が含まれております(公式には問題用紙以外公表されておりません)。


はじめに

 公認会計士になるための最後の難関、修了考査。あまりに膨大な試験範囲と、その掴み所のなさは多くの準会員を苦しめてきた。どこまで勉強すれば良いか分からず、途方に暮れている人もいるだろう。しかし、以下の表を見てほしい。

配点は公表されていないので、平均配点はあくまで筆者の予想である。

 なんと、税務実務において法人税-租税公課を始めとした複数論点が毎年必ず出題されているのだ。配点にして86点程度(予想)であり、これだけで合格するわけではないが、必ず出る分野を対策しない手はない。

 続いて以下の表を見てほしい。「作文ゲー」と言われる監査実務は、実は監基報等を暗記すれば完答できる問題が70%を占める。

監基報等の基準が解答根拠となる問題を暗記問題、それ以外の問題(問題文の状況から監査手続を考えさせる問題など)を事例問題に分類した。

 もちろん基準の文言そのまま書かないとバツとは限らず、何らか筋の通った文章を書けば正答になる可能性も十分にある。書けば受かる!と豪語する先輩を見るに、この可能性は結構高いように思える。しかし、基準通りに書ければ文句なしに満点が来るはずなので、不確かな作文ゲーに委ねるよりは、基準の暗記をしていた方が安定するだろう。

 このように修了考査には傾向がある。傾向があるからと言って必要な勉強量が減るわけではないが、少なくとも範囲無限大という試験ではないと思った。短答や論文試験のように、修了考査も出題傾向と言えるものがあるのだろうか。俄然興味が湧いてきたので、科目別に調査することにした。

 調査方法は次の通り。
 まずは過去問の小問一つ一つにIDを割り振り、各問題の出題分野・予想配点・理論と計算の別・予想難易度・備考をデータベース化した。エクセルで作っており、1,000行以上あるのでnoteには掲載できないが、下の表のように記録している。

 次にこのデータベースをピボット集計し、出題分野別や難易度別の切り口で分析を加える。こうして出来上がったものが本記事である。予想配点は概ね均等に割り振った。H29までの合格率の安定ぶりを見るに、何らかの得点調整が行われているような気がするのだが、それを再現するのはさすがに難しい。また、難易度は筆者の主観性が特に入りやすいので、主観性の程度を緩和するため科目別に基準を設けている。

問題の質として明らかに難しい・簡単な場合はランクを1段階上下することもあった。


会計実務の出題分野分析

 ここからは科目別に、出題分野にどのような傾向があるか見ていきたい。まずは会計実務である。初日の午前に実施され、配点は300点(全科目計1,200点)。
 計算が約6割を占めるため、計算理論のウェイトは短答と同じくらい。そしてIFRSは平均して30点くらい出る。特筆すべきが開示問題で、短答や論文ではあまり出ないが、修了考査では30点くらい出る。具体的な開示数値・文言を書かせたり、基準で必要な開示項目を答えさせたりする問題が出題される。

 ここからは出題分野別に見ていこう。出題頻度や平均配点の順に、Tier1からTier5に分けて紹介する。余談だが、未出題論点は以下の図表に登場しない点に留意いただきたい。時価算定基準、会計上の見積り開示などは未出題だが、そろそろ出てもおかしくない。


(Tier1)

 Tier1には論文試験でも重要だった論点が並んでいる。図表中、出題率はH28からR3の6年度で出題された割合を表し、平均配点は1年度あたりの配点を表す(出題のない年度は0点とする)。
・連結会計→追加取得や成果連結など基本的な計算問題が中心。在外子会社や為替換算調整勘定は近年では出ていない。
・税効果会計→あらゆる分野から出題される。回収可能性、注記文言など論文式試験では出ない問題も多い。
・組織再編→素直な計算問題が多いが、暫定的な会計処理からの出題など、連結会計に比べると細かめの論点が多い。


(Tier2)

Tier2には2回に1回以上出る頻出論点を集めた。
・IFRS→細かい知識を問う問題が意外と多く、各分野の代表論点を覚えて5割という感じ。それでも範囲は比較的狭いので、得意な人なら満点を狙える。
・会計方針の変更→開示数値や文言を問う問題や、基準の理解を直接問う問題が出る。
・減損会計→基本的な計算問題に加え、減損兆候など実務上で論点になりそうな理論問題が出題される。
・収益認識→R1からレギュラー入り。基準、適用指針、設例をきっちり学習しておけば得点できた。
・持分法会計→R2に難問あり。持分法実務指針の11項2段落目の最後から出題された。連結会計より難しめの問題が多い。
・退職給付会計→H29に難問あり。退職給付制度間の移行から出題された。


(Tier3〜Tier5)

6回中2回以上出る論点をTier3にした。テキストレベルの基本的な計算問題が多いが、理論問題は総じて細かめ。
お馴染みの論点ではあるが、出題頻度の低い分野をTier4とした。テキストレベルの基本的な計算問題が出題されることが多い。
埋没枠になりそうな分野をTier5とした。会計監査六法の設例がそのまま出ることもあるが、ここまで対策するのは難しい。後発事象は監査論で勉強すればよい。



監査実務の出題分野分析

 続いては監査実務。初日の午後に実施され、配点は300点(全科目計1,200点)。出題傾向の偏りが比較的小さいため、どこまで学習範囲を広げるか悩ましい。全体の3分の1を事例問題、3分の2を暗記問題が占める。暗記問題は監基報からの出題が中心だが、この場合は約6割が要求事項から出題される(残りは適用指針や付録からの出題)。

監基報等の基準が解答根拠となる問題を暗記問題、それ以外の問題(問題文の状況から監査手続を考えさせる問題など)を事例問題に分類した。


(Tier1)

 頻出の監基報+グループ監査+内部統制監査をTier1とした。他の科目に比べて出題の偏りが小さめであり、毎年必ず出る論点は存在しない。
・グループ監査、内部統制監査→出題頻度は低めだが出題された時の配点が大きい。実務的で難易度の高い問題が多い。
・後発事象→監基報の中では出題頻度No.1。
・不正→不正リスク要因を書かせるなど、付録からの出題も多い。
・監基報315、540→最近大きな改訂があったため、さらに重要度が上がるかもしれない。



(Tier2〜Tier4)

事例問題をまとめてTier2とした。補習所のテキストが頼りになり、例えばR1の退給はほぼ補習所テキスト(2021年度時点のもの)から出題された。
6回中2回出た論点をTier3とした。監基報580は難問揃いだったが、その他は要求事項からの出題や、実務を思い出して書きやすい問題など易しめの内容が多かった。
6回中1回出た論点をTier4とした。監基報の場合は要求事項を覚えていれば解ける基本的な問題が多かった。監基報720は最近改訂があったので要マークかもしれない。



税に関する実務の出題分野分析

 正念場の税務実務。2日目の午前に実施され、配点は300点(全科目計1,200点)。分野別の予想配点は次の通り。

・法人税→予想配点の約6割を占めるため最重要。以下でTier別に分析する。
・消費税→第五問で、毎年決まった形式の総合問題が30-40点分出題される。この他にも、理論問題や法人税と絡めた問題が第五問第六問で10-20点分ほど出題される。
・所得税→譲渡所得、給与所得など法人税と絡めやすいところから出やすい。毎年出題されるものの、学習範囲が広いためややコスパが悪いと言われる。
・相続税→易しい問題が多い。個人的にはコスパが高い分野と思っている。
・連結納税→R3で廃止。R4以降はグループ通算制度からの出題があるかもしれない。
・国際課税→R3は易しい問題が多く、テキストをさっと読んでおけば得点できる問題も多かった。
・事業税→出題頻度が低いが、H30のようにまとまって出題される場合もある。


(Tier1)

 必ず出題される論点と、2回に1回の出題だが配点の大きい組織再編税制をTier1とした。会計や監査と比べると、出題分野にかなりの偏りがあることが分かる。
・組織再編税制→2回に1回の出題だが、出題された場合の配点が大きい。
・租税公課→第五問で毎年出題され、パターンも多くないため得点源になる。
・完全支配関係法人間の取引→問題数の少ない第六問で出題されると配点が高くなるので注意。
・納付税額の計算→第五問の法人税パートの後半に出てくる。毎年形式が同じなので、過去問や答練の演習を通じて必ず取れるところ(中間納付額等)とそうでないところを覚えると良い。
・当期利益・税効果会計→純利益や法人税等調整額を別表4に転記するだけという、特に易しい問題が毎年出る。



(Tier2〜Tier4)

6回のうち4回以上出題された論点と、頻度と配点のやや大きいみなし配当をTier2とした。論文式試験でもお馴染みの論点が多い。別段の定めがないものは、損金経理した費目を債務確定基準に当てはめて税務上の取扱いを考えさせる問題や、別段の定めなく普通に益金算入される問題が出題された。
6回のうち2回以上出題された論点と、頻度は低いが配点の大きい論点をTier3とした。会計上の変更、別表5は配点の高い第六問で出やすい。
6回中1回出題され、配点も少なめな論点をTier4とした。控除対象外消費税や繰越欠損金は覚えることが少なめのため、論文式試験の復習をしてもいいかもしれない。



経営実務の出題分野分析

 経営実務は2日目の午後に実施され、配点は200点(全科目計1,200点)。比較的易しいので得点源にしたい。100点ずつ経営とITに分かれる。ここではTier1〜Tier4まで一気に紹介するが、ITはR2以降に出題分野が大きく変わった(※)ため、出題予想のしやすい経営のTierを高めにしている。
※R1まではIT6号とそのQAが配点のほとんどを占めていたが、R2からはデジタル技術やリモート環境など新しい論点が大半を占めるようになった。

毎年必ず出るので予備校のテキストや答練でガチガチに固めておきたい。
経営は全体的に難易度が低めだが、コーポレートガバナンスだけは細かい語句の穴埋め問題や制度の趣旨を問う問題など難問が多い。
R2より登場した、デジタル技術やリモート環境など新しい論点を新論点と位置付けた。その他の分野は新論点に押されがちだが、いつ復活してもおかしくはない。


職業倫理の出題分野分析

 2日目の夕方に実施され、配点は100点(全科目計1,200点)。配点が小さいため1つのミスが重く、足切りリスクが最も高いと言われている。これもTier1〜Tier3まで一気に紹介する。

公平性の原則、精神的独立性など、基本的な概念をそのまま書かせる問題が多い。暗記の精度がそのまま得点に結びつきやすい。
独立性に関する指針は倫理規則と比べて暗記量が多い。典型的には問題文中の事例に対して考えられる阻害要因とセーフガードを問う問題が出題されるので、覚えやすい阻害要因だけでも学習しておきたい。インサイダーは3回に1回の出題だが予想配点が大きいため対策必須。予備校と補習所のテキストで十分。
H29を除けば配点は小さめ。利益相反に関する指針、違法行為への対応に関する指針はさわりの部分の穴埋め問題が出た。


おわりに

 ここまで分析した通り、修了考査には出題分野の偏りがあることが判明した。修了考査と言えど決して範囲無限大の試験ではなく、重要な分野に絞って勉強するアプローチが可能な試験なのである。



(おまけ)年度別の期待値分析

 最後に期待値分析を貼っておしまいにしたい。一問一問について「はじめに」の判断基準に従って難易度を設定し、難易度別の期待値を乗じて科目別の期待値を算出した。難易度は出題分野や予想配点よりもさらに主観性が入るため、あくまで一個人の感覚と捉えていただきたい。

以上

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