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みかさに取りこぼしながら(4)

「わたし、汁茶碗でごはん茶碗を、あれ」

「汁茶碗で、ごはんを。食べるのをやめられ
   ないんです。」

「そうそれ」


「納豆のね」

「うん」

「たれ。単独でなめるのも」

「やめられないんです、か?」

「そう、やめられないんです。」

車谷みかさと会話できるようになってきた。

ぼくはハーベストじゃなくて、チーズおかきを差し出せるようになったし、車谷みかさは犬を拾ってからちょっとおとなしくなった。おとなしくなって何かっていうのは思いつかないんだけれど、なんかおとなしくなって、それはさびしいかもしれなかったんだけれど、悪くないと思ったんだ。


そうだ強いて言うとしたら。笑ってくれるようになったかな。

「けっこう前だけど」

「うん」

「平熱が高い話したよね」

「まことが」

「うん」

「放課後にね」

「そのあとに、みかさは」

「どういうつもりって」

「言ったよね」

「言った言った」

「あれってどういう意味だった」

「あれはね」

「ぼくって平熱 高いんだよね」

「うん」

「これ口説き文句」


「これ口説き文句なんだよ」

「なんで」

「だって、なんでそれを二人で居るタイミングで
わざわざ申告するのって」

「それは」

「誘っているってことでしょう」

車谷みかさはちゃんと言ってくれるようになった。


それはぼくにとって、とってもとってもうれしいことで、ぼくは車谷みかさの中でちゃんと触れるもので在れているんだーって、やらかい気持ちになる。
汁茶碗でご飯を食べたっていいと思うんだ。


「ぼく飼い犬の名前の由来を聞くと、へらへら
 しちゃうんだ、人間の名前のときよりもずっと」

「犬を飼うという行為が愚かだから?」

「そんな」

「人間はぼくもそうだから、笑ってられないよ
 そりゃ。でも、犬のときくらい笑ったって
 いいだろう。」

「ふん」


「妙に数字の揃ったナンバープレートも」

「うん」

「へらへらしちゃう」

「はあ」

「他人の、とある愛着を象徴しているものじゃん」


「照れるとか恥ずかしいとかじゃなく、へらへら。」

「でも、これみんなに言っちゃだめだよ。ぼくが
 ちょっと高いお金払ってナンバープレートこだ
 われなくなるから。」

「こだわりたいんだね」


「汁茶碗でご飯を食べたっていいと思うんだ。」

「そうね」

散歩しながらあふれそうな気持ちが、机に向かった
とたん、しぼんでいくみたいに、みかさに言いたいこと、半分も言えていない気がする。いつも

「ぼくずっと、不自然になっちゃいけないって
 思ってて、ほんとうは帰りたくないのに、考えつ
 くもっとも自然なタイミングで、じゃあ、って
 言って帰ってみるんだ。

 それから、筋が通ってないと『ぼく』の説明に
 手こずるでしょうって思って、ぼくはこれが好き
 なんだからっていう代表的なものを中心に置いて、
 自己紹介カードを埋めるみたいにしてさ。こうい
 うのはあんまり好かんはずだだいたいにこれが好
 きな人っていうのは、だとか、ぼくはこれが好き
 なんだから、そういう人はこういう意見には積極
 的に理解を示すものだ、だとか。矛盾があったら
 責められるっていうか、そんなこと言葉にして言
 い聞かせていたわけじゃあないんだけれど。漠然
 と、不安だった。その場にはその場の自然の形が
 あって。違和感を感じる存在があったり、発言が
 あったりするとそれにヒビが入るのが見える気が
 して」

言わんくていいことまで言っている気がして、なんでこんなに言ってしまっているんだろうって、思う頃にはもう次の言葉が出てきていて、いたくて、帰ったらすぐに自分の部屋に入って、ちゃんと鍵をしめてから泣こうって思った。いたい。

「まこと」

いたい。


「わたしたちずっと、不自然だったよ。」


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