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名探偵よだちゃんの事件簿。#1

PM7:34 都内、撮影スタジオ。

「はーい、あやめちゃん!こっちに目線!」

ビッ、、、カシャカシャッ

1人だけを撮影するにしては多すぎるカメラと照明が所狭しと並んでいる。

まるで私の生態を観察するための実験施設にいるみたい、、、なんて思うのは失礼だよね。

私、筒井あやめはそんなことを思いながらカメラに向かってとびっきりの決めポーズをとってみた。


「おっ!良いの持ってるじゃ〜ん!」


ピピッ、、、カシャカシャッ‼︎

今日は乃木坂46のスマホアプリに使われる写真の撮影だ。

ついさっきにレイちゃん、かっきー、まゆたんの撮影が終わってラストは私に。

それもあと少しで終わりそうだな〜。


カシャカシャッ、、、カシャカシャッ‼︎


「、、、、、、よしっ!今日はこれで終わり!」



カメラマンさんがモニターを見て数秒、全体に向けて大声を上げた。

ちょっと声量が大きすぎてびっくりしちゃった、、、



筒井「皆さん、ありがとうございました!」


「いやお礼なんてこっちがだよ!ていうか今日はいつもより表情がイキイキしてたね?」


筒井「そんなこと、、、ないですよ?」


「あははっ!まあいいや!それじゃお疲れ様!」


筒井「お疲れ様でした!」



カメラマンさん、照明さん、アシスタントさん、、、

撮影に関わってくれた人たちに軽く頭を下げながら撮影スタジオから小走りで去った。


PM7:45 乃木坂46の楽屋。


筒井「ふぅ、、、疲れたぁ、、、」


今日は4期全員での撮影だったから楽屋も大部屋だ。

椅子に疲労で重くなった腰を降ろした目の前には撮影前に食べていたお菓子のゴミと半分まで飲んだカフェオレのペットボトル。

あとで片付けなくちゃ。


清宮「ねぇねぇ!あやめんっ!」

筒井「レイちゃんお疲れ様!どうかした?」


清宮「今からレイとご飯行こうよ!
   美味しそうなお店見つけたんだ〜♪」


ショートカットの髪が元気に跳ね、私のすぐ隣へ嬉しそうに座る。

そして私の返答を子犬のような目で待つ、、、でも今日は、、、、、


筒井「ごめんねレイちゃん、、、
   今日はちょっと用事があるの。」


清宮「えぇ、、、じゃあしょうがないか、、、
   また今度のお休みに誘っても良い?」


筒井「ありがと!じゃあまたね!」


清宮「ばいばーい!」


私は近くのゴミ箱にお菓子のゴミを捨て、ペットボトルを片手に楽屋を出た。

さて、頑張れば25分くらいで"あの場所"に着くかな。


PM7:57 都内某所。


筒井「はぁ、、、はぁ、、、、、」


溢れかえる人波を紙一重で避けながら目的の場所に急ぐ。

車のヘッドライト、色彩で溢れている電子広告、パチンコ店の騒々しい音、、、

都会らしい喧騒を潜り抜けながら腕時計の文字盤を確認する。


筒井「このままじゃ約束の時間に遅れちゃう、、、」


あっ、ちょうど良いタイミングで青信号が点滅し始めた。

走ればギリギリ間に合うだろうけど、休憩と連絡を含めて立ち止まる。

息を整えながらスマホを取り出し、ある人に『少し遅れます』とメッセージを送った。

こんな調子だったらマネージャーさんの車で送ってもらえれば良かった、、、と心底後悔している。


筒井(よしっ!あと少し!)


私はスマホをバッグにしまい、赤信号が変わるのを今か今かと待ち侘びた。


PM8:12 とある雑居ビルの2階。


チェーン居酒屋と警備会社のビルとに挟まれた3階建ての雑居ビル。

1階は落ち着いたカフェ、2階には『夜太探偵事務所』と大きい文字が7枚の窓に一文字ずつ、3階は無人のフロア。


筒井「ふぅ、、、、、」

また乱れた呼吸を整え、少し薄汚れた入り口の自動ドアを手で押しのけながらくぐる。

ここの自動ドアは最近、調子が悪いんだよなぁ、、、
半分自動ドアで半分手動ドア。

そして薄暗いエントランスから奥の階段を登り、2階の探偵事務所へ。


ガチャッ、、、


??「こんばんは〜、、、、、ってあやめちゃんか。
   お仕事だったのに来てくれてありがと〜!」


ビルの外観には似つかわしくない革張りの椅子に座りながら、足を組んでルービックキューブをカチャカチャと、、、

私の"先輩"は、、、、、いや、ここでは"上司"というべきか。

私の"上司"はいかにも天才的な雰囲気を纏いながら、その雰囲気をぶち壊すかのような柔らかい口調で話しかけてくる。


筒井「私も好きで来てるので大丈夫です!
   与田さんも今日はお仕事じゃないんですか?」


与田「まぁね〜。
   だけど今日は貴重な活動日だから!」

まるでコナン・ドイルが描いたシャーロックホームズの衣装を身にしているのは乃木坂46、3期生の与田祐希さん。

なぜ現役アイドルがこのような衣装で、このような場所にいるかはまた後ほど、、、

ちなみに衣装は与田さんの自作らしいです。


筒井「今日はどなたかいらっしゃいました?」

来ていたロングコートをハンガーに掛け、部屋の隅にある電気ストーブを弱から中にした。

与田さんは一向に完成しないルービックキューブと睨めっこを続けながら返答をする。



与田「んーん、、、だーれも来なかった、、、」


筒井「やっぱ名前があれなんじゃないですか?
   誰も初見で入ろうなんて思いませんよ?」


与田「だって本名は使うなってマネージャーさんが
   うるさいんだもん。与田の一つや二つくらい
   良いって思わない?」


筒井「まぁ、、、アイドルですし?」


与田「早く依頼人来ないかな〜。」パタパタ

子どものように可愛らしい先輩が足をパタパタとしながら初めての依頼人を待ち望んでいた。

、、、、、、初めての依頼人を。


半年前。


与田「、、、、、、探偵やってみたい。」

筒井「え?」

始まりは半年前、私と与田さんが雑誌の撮影で一緒にいる時でした。

休憩中にお茶を飲みながら雑談していると突然、与田さんがそう呟いたんです。


与田「前にCMで一緒に探偵役やったじゃん?
   あやめちゃんが助手で。」


筒井「あぁ、、、でも何で急に?」


与田「だってカッコいいじゃん!
   ちょっとマネージャーさんに言ってくる!」


筒井「えっ?!与田さーん!!」


以前から変わった人だとは思ってたけど、、、

ウキウキでマネージャーさんに交渉している与田さんの後ろ姿を見たら、止める気にはなれませんでした。

きっと子どもを持つお母さんの気持ちってこんな感じなのかな?


そう言って与田さんの交渉が成立したのが約3ヶ月前。

この雑居ビルの2階を借りて『夜太探偵事務所』という看板を掲げ始めたのが2ヶ月前。

それから今の今まで依頼人が来た試しはありません。


与田「はぁ、、、誰か来ないかな〜。」

いつの間にか帽子と外套を脱ぎ、普段着の与田さんが現れた。

ああやって期待している与田さんには野暮なことだけど、誰か来たとしても本格的な事件であるわけがないし、可能性があるとして人探しかペット探しか、、、


コンコンッ、、、


与田、筒井「「えっ?!」」


何ヶ月ぶりかに叩かれたドア。

私と与田さんが顔を見合わせながら驚いていると、、、


??「いないのかな、、、
   でも電気はちゃんと着いてるし、、、」


ドアの向こう側から私たちの不在を疑う声がした。

すると与田さんが慌てながら脱ぎ捨てたばかりの帽子を被り、外套を羽織り直した。


与田「あっ、、、あやめちゃんっ!
   早くドアを開けてお迎えするっちゃ!!」

筒井「はっ、、、はい!」


焦って方言が飛び出している与田さんの指示で、私も急いで玄関扉の方へ向かった。


筒井(初めてのお客さんだし頑張らなきゃ!)

私は緊張しながらゆっくりとドアノブに手をかけ、丁寧にドアを開けた。


筒井「こっ、、、、こんばんは!
   夜太探偵事務所によっ、、、ようこそ!」


まずい、緊張からか言葉が詰まっちゃう、、、

それに相手の顔もまっすぐ見れないし、、、


??「あれ?あやめちゃん?」


あぁ、、、やば、、、、、早速じゃん。

私がこの活動で1番に危惧してた「顔バレ」が早速起こっちゃった。

っていうかそもそもマネージャーさんも事務所の皆さんもこの可能性あるのによく許したよね、、、


??「今日は撮影してたんじゃないっけ?
   確かマネージャーさん言ってたような、、、」


え?え?

何でこの人私のスケジュール知ってるの?

もしかしてこの人ってストーカーなんじゃ、、、



与田「えっ?何で山下がいるの?」


山下「いやそれはこっちのセリフ、、、
   っていうか『夜太』って『与田』のこと?」

筒井「えっ?山下って、、、」



私が声の方に顔を向けると、見慣れた先輩の顔が不思議そうにこちらを見つめていた。

どうやらドアを叩いたのは彼女のようだ。



山下「、、、、、、2人とも副業してんの?」


与田「まぁそんなとこ?
   マネさんから許可はちゃんと取ってるよ!」


筒井「そうですけど、、、」


山下「はぁ、、、」



山下さんがため息に近い呼吸をすると、私たちに向かって頭を下げた。

そしてゆっくりと、重々しい声で呟いたんです。



山下「2人ともお願い、、、
   私のストーカーを突き止めてください!」



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