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お嬢様が望むこと。

AM 5:00。

朝焼けが少し見える頃から僕の朝は始まる。

部屋に設置された大きすぎる窓からは、綺麗な海がよく見える。

〇〇「、、、まだ寒いな。」

僕はクローゼットから薄手のカーディガンを羽織り、自室を出る。


廊下

璃果「あっ!おはようございます!」ペコッ

彼女は佐藤璃果さん。

昨年の冬、とある理由でこの屋敷に仕え始めたメイドさんだ。

何事にも努力を惜しまない、素晴らしい人間性を持っている人。


〇〇「おはよう、璃果さん。」

璃果「本日はお嬢様と大学に向かわれますよね?
   準備はすでに整えています!」

〇〇「ありがとうございます!
   朝早くから本当に助かります、、、」ペコッ

僕は璃果さんに向けて頭を下げた。

璃果「いえいえ!お嬢様と〇〇様に拾って頂いた
   恩はこんなものではありませんから!」

〇〇「そんなに気に負わなくてもいいですよ!
   嫌になったら言ってくださいね?」

璃果「そんなこと言わないでください!
   私はお2人の事が大好きですから!」

僕たちと璃果さんの出会いはまたどこかで、、、


それから僕は昨日やり残していた仕事、書類の整理やトレーニングなど色々、、、

そんな事をしていたら7:30になってしまった。

そろそろお嬢様を起こしに行く時間だ。

、、、え?

お嬢様って誰のことだって?

そう言えば説明を忘れていました、、、

お嬢様の部屋に行くまでの時間に説明をいたしましょう。


まずはこの屋敷のことからがいいですね。

この屋敷は日本有数の財閥、掛橋家の邸宅。

僕の家系は以前より掛橋家に仕えており、それに倣って僕も執事として仕えている。

行う仕事は様々であり、会食のセッティングから屋敷の整備まで。

8歳の頃から両親に教え込まれた知識を余すことなく活用して、難なく仕事をこなしている。

、、、、、、だが。

僕に以前から手を焼いている仕事がある。

それは沙耶香お嬢様のお世話である。

僕とお嬢様は同い年の18歳で、主人と執事という関係性で育てられてきた。

両親にもその関係性は崩してはいけないと固く言われていた。

しかし、沙耶香お嬢様はその関係性をよく思っていないらしい、、、

おっと。

こんな話をしているうちに部屋の前に着きました。


コンコンッ

〇〇「沙耶香お嬢様。失礼致します。」

ガチャッ

お嬢様はまだベッドで寝ている、、、ふりをしている。

〇〇「お嬢様、お時間になりました。」

沙耶香「、、、、、、起こして。」

〇〇「はい。起こしに参りました。」

沙耶香「、、、、、、だから起こして。」

お嬢様が寝たまま両手を伸ばした。

〇〇「、、、これは?」

沙耶香「だからギューして起こして〜💕」

これだ。

以前から沙耶香お嬢様はハグや抱っこを求めてくるようになった。

この対処法が約10年、全くわからない。

〇〇「、、、早く起きないと大学に遅れてしまいます。
   私も遅刻はしたくありません。」

沙耶香「なら早くギューしないとだよ?
    ほらほら遅刻しちゃうよ〜💕」

お嬢様は子供のように無邪気な笑顔で笑う。

〇〇「はぁ、、、失礼します。」ギュッ

僕はお嬢様を抱き抱えてベットから起こす。

沙耶香「えへへ〜やったぁ💕」ギュッ

、、、お嬢様が離れない。

僕に抱きついたまま足を絡めて離れない。

〇〇「、、、お嬢様。早く離れてください。
   璃果さんが朝食を準備して待っています。」

沙耶香「ほんと!じゃあ食堂まで連れてって〜💕」


食堂

璃果「えーっと、、、お嬢様ですよね?」

沙耶香「そうだよー。」ギュー

〇〇「結局ここまで離れなかった、、、」

沙耶香「まぁたまには良いよね〜💕」ギュッ


お嬢様の朝食が済み、大学へ向かう。

〇〇「それではお嬢様。
   車を回しますので玄関でお待ちください。」

沙耶香「はーい!」


ガレージに車を取りに行く。

父様から頂いたロールス・ロイスファントム。

小さい頃に僕とお嬢様がつけた傷が少し目立つ。

父様はお嬢様がやった為に怒る事が出来ず、ただただ落ち込むことしか出来なかった。

僕は車に乗り込み、お嬢様の待つ玄関に向かう。


〇〇「、、、何で助手席に座ってるんですか。」

沙耶香「いいじゃ〜ん💕」ギュッ

お嬢様が僕の右腕に抱きついた。

〇〇「運転中の人間に抱き付かないでください。
   事故起こしますよ?」

沙耶香「〇〇はそんなことしないもーん💕」

〇〇「はぁ、、、」


僕とお嬢様は大学に到着。

毎朝こんな調子だから少し参ってしまうな、、、

沙耶香「今日は4限まであるから頑張らないと!」

〇〇「そうですね。お嬢様はすぐに寝るので
   気をつけてください。」

沙耶香「もー!そんなことないもん!」

〇〇「失礼しました。」

沙耶香「あと大学ではお嬢様禁止だよ!
    ここでは普通の女の子だから!」

〇〇「、、、、、、承知いたしました。」


大学。

この乃木坂大学では僕とお嬢様の関係、お嬢様が財閥の一人娘ということは隠している。

その方がトラブルに巻き込まれないで済むだろうという考えのためだ。

沙耶香「ねー〇〇!1限目の教室ってどこだっけ?」

〇〇「1限目はC407です。向かいましょうか。」

沙耶香「け・い・ご!!」

〇〇「、、、じゃあ行こうか。沙耶香おじょ」

沙耶香「あ!呼び方はさぁちゃんね?」

〇〇「、、、、、、さぁちゃん。」

沙耶香「うんうん!」


それから僕はお嬢様の無茶振りに答えながら何とか大学の講義を全て終えた。

今は車で帰宅しているところだ。

沙耶香「、、、ねぇ〇〇?」

〇〇「はい、なんでしょうか。」

沙耶香「〇〇って恋人いるの?」

、、、恋人?

何で急にそんな事を聞いてくるんだろう。

〇〇「いいえ、恋人などはいません。今のところ
   はお嬢様のことで手いっぱいですので。」

沙耶香「、、、なんか鼻につくなぁ。」プクッ

お嬢様がほっぺたを膨らませるのがミラー越しに見えた。

沙耶香「、、、まぁいないならいっか///」ボソッ

〇〇「はい?」

沙耶香「なんでもないよーだ。」


掛橋邸

僕は家に帰ってからもやる事は多い。

執事としての仕事を2時間行った頃、ふと思い出した。

そう言えば旦那様に渡す書類があったな。

えーっと、、、医薬品会社、貿易会社、大手自動車メーカーの資料など様々。

掛橋家の繋がりの深さに少し驚きつつ、僕は旦那様の部屋まで足を進めた。


僕は旦那様の部屋の前に着いた。

ん?少し部屋のドアが開いている、、、

まぁいいか。

僕はノックをしようと右手を上げる、、、がすぐに手を止める。

旦那様の話し声が聞こえてきたためだ。

電話越しに誰かと会話しているようだ。


あぁ、、、そろそろ沙耶香の婿を決める時期だと思ってな。

そうだ。そちらの息子さんなど良いのではないかと思って電話をかけたんだ。

彼は勉学の成績は素晴らしい。

それに会社の経営にも精通している。

沙耶香の婿には申し分ない人材だ。

、、、あぁ。詳しい日程はまた連絡する。

見合いの場所もそこで決めよう。

それじゃあまたな。


、、、、、、お嬢様の結婚?

それに相手もすでに決まっているのか?

僕は自分の胸に暗い雲が掛かるのがわかった。

それは何故だかは分からない。

旦那様「、、、ん?おぉ〇〇か。」

旦那様がドアの隙間から僕のことを見つけた。

なぜか重い足を何とか部屋の中へ運ぶ。

〇〇「、、、お渡しする書類をお持ちしました。」

旦那様「ご苦労。下がりなさい。」

〇〇「、、、沙耶香お嬢様はご結婚なさるのです
か?」

僕は聞かずにはいられなかった質問をした。

旦那様「、、、聞こえていたか。」

〇〇「申し訳ございません。」

どうかノーと言ってほしい。

この時ばかりは何故かそんな事を考えていた。

しかし、その希望は簡単に打ち砕かれた。

旦那様「そうだ。今年中に沙耶香を結婚させよう
    と思っている。」

僕は膝から崩れ落ちたくなるのを必死に堪え、「そうですか」と一言だけ残し部屋を去った。


廊下。

、、、、、、、、、様。

、、、、、、〇様。

、、、〇〇様。

璃果「〇〇様!!」

〇〇「、、、あれ?」

璃果「はぁ、、、心配しましたよ、、、」

〇〇「、、、何をしてたんだっけ。」

旦那様の部屋から出てきたところまでは覚えている。

璃果「〇〇さんが廊下で立ったまま動かないから
   心配したんですよ!揺さぶってもう反応が
   ないし!!」

〇〇「あぁ、、、すみません、、、」

そっか、、、

僕はお嬢様が結婚するという事実を受け入れられなかったのか、、、

璃果「どうかなされたんですか?」

〇〇「、、、実はね。」

僕は璃果さんにさっき聞いたこと全てを話した。

璃果「お嬢様のご結婚!?」

〇〇「ちょっ、、、声が大きいですよ!!」

璃果「だってまだ18歳の女の子ですよ?!」

〇〇「僕もまだ早いとは思うんだけど、、、」

璃果「旦那様は他会社との繋がりが欲しいん
   でしょうか。そのためにお嬢様を、、、」

〇〇「、、、、、、」


以前から旦那様ら会社の利益が1番の人だった。

利益のためならばどんな事でもする人だ。

この結婚も多大な利益を生むために設定されたものだと言うことは無意識のうちにわかっていた。

僕にこの縁談を止める義理は何処にもない。

そもそも何でこんなに悲しいのか。

お嬢様の結婚などとても素晴らしい事ではないか。

、、、お嬢様。

小さい頃から蓋をしてきた思い。

主人と執事という関係性が、この感情を表に出す事を許さなかったのだ。

僕はずっと昔からお嬢様が好きだ。


夕食。

この日の夕食は珍しく旦那様がいらっしゃった。

普段ならば忙しい旦那様は不在のことが多いのだ。

そのため、普段からお嬢様と奥様の2人で食事をとってる姿をよく見てきた。

しかし今日は奥様がいらっしゃらない。

確かご友人の結婚式に参加しているはずだ。

旦那様、沙耶香お嬢様の2人が夕食を取っている光景を僕は後ろから眺めている。

旦那様「、、、沙耶香。」

沙耶香「はい。お父様。」

お嬢様は先程までの口調とは打って変わって丁寧な話し方になる。

旦那様「実はまだ詳しいことは決まっていないが
    沙耶香の縁談の話があるんだ。」

沙耶香「、、、え?」

頭にクエスチョンマークが見えそうなほど困惑している。

沙耶香「なんで、、、」

お嬢様は取り乱した様子で旦那様に問う。

旦那様「もう決まった事だ。
    医薬品会社のご子息との縁談だ。」

医薬品会社、、、

先程、旦那様に渡した資料はこの話の事だったか。

沙耶香「、、、そのような話は聞いておりません!」

お嬢様は興奮した様子で席を立ち、旦那様に詰め寄る。

旦那様「何だその態度は。
    私に反抗でもするのか?」

沙耶香「、、、当然です!私の了解もなしにそんな話
    を進めているなんて!」

旦那様「会社のためだ。仕方のない事と思え。」

やはり利益のために娘まで、、、

沙耶香「、、、っ!!」ダッ

〇〇「お嬢様!」

お嬢様が部屋から飛び出し、何処かへ走り去ってしまった。

僕はすぐにそのあとを追いかける。


沙耶香の部屋。

沙耶香「、、、なんでよ、、、私は、、、」

私は部屋のベッドにうつ伏せになって泣いていた。

今日の夕食はお父様もいると聞き、嬉しくなっていた自分が馬鹿のようだ。

お父様は子どもの頃から仕事、仕事で家にいることが少なかった。

それでも寂しく感じることはなかった。

、、、その分の愛情はお母様や〇〇からたくさん貰った。

久々にお父様とお話ができるとワクワクした気持ちはもう消え去った。

しかも、お父様に対する憎しみの感情さえも生まれている現状だ。

、、、私にだって将来を共にしたい人はいる。

子どもの頃は一緒に遊んだりしていた人。

いつからか主人と執事という堅苦しい関係になってしまった人。

呼び方も"さぁちゃん"から"お嬢様"に変わってしまい、敬語を使うようになった人。

コンコンッ

その時、私の部屋のドアがノックされた。

〇〇「、、、お嬢様。」

私が世界で一番愛する人だった。

もう、、、

ここから連れ出してほしい、、、

2人だけで誰も知らない場所で暮らしたい、、、

主従関係なんて取っ払って昔のように、、、


〇〇「、、、失礼致します。」

僕は返事のない部屋のドアを開けた。

ベッドにはうつ伏せになっているお嬢様。

〇〇「御加減はいかがでしょうか、、、」

沙耶香「いいわけないでしょ、、、」グスッ

〇〇「旦那様がお呼びになっていますが。」

沙耶香「、、、行きたくない。」

〇〇「そうですか、、、」

2人の間に少しの沈黙が流れた。

沙耶香「、、、ねぇ〇〇。」

〇〇「はい。」

沙耶香「〇〇は私が結婚するって聞いて、、、
    なんて思った?」

〇〇「、、、とても、、、喜ばしいことだと、、、」

僕はこんな時でも執事としての立場から言葉をかけてしまう。

お嬢様がこんな言葉を求めているわけではないのに。

沙耶香「、、、ちがう、、、私は〇〇に聞いてるの。」

〇〇「え?」

沙耶香「私が子どもの頃から一緒にいた〇〇。
    その〇〇はなんて思った、、、かな、、、」

執事としての自分ではなく、本当の自分が思う事、、、

そんなのたった一つしかない。

〇〇「そんなの、、、嫌に決まってんじゃん、、、」

沙耶香「、、、うん。」

〇〇「僕はさぁちゃんの事が大好きだから、、、」

沙耶香「、、、私も〇〇のことが好き。」

僕たちは静かにハグをした。

誰にもバレないように静かに。

離れないように強く。


ハグをしてどれくらいの時間が経ったのだろう。

さぁちゃんが口を開いた。

沙耶香「、、、このまま2人でどっかいっちゃう?」

〇〇「、、、出来たらそうしたいけど。」

沙耶香「せめてお母様がいたらなぁ。」

〇〇「奥様なら、、、わかってくれるかな、、、」

さぁちゃんのお母様は、旦那様と違ってあっけらかんな性格。

物事を楽観的に捉える凄く朗らかなひとだ。

その時、部屋のドアが勢いよく開いた。

奥様「私がどうかしたの?」

璃果「あぁ!だめですよ奥様!」

〇〇、沙耶香「「、、、、、、え?」」

入ってきたのは奥様と璃果さん。

璃果「本当に申し訳ありません!!

奥様「いいのよー謝らなくても!
   結婚式から帰ったら沙耶香が泣いてるって
   言うじゃない?」

奥様は僕たち2人の前にしゃがみ込む。

奥様「だからお父さんに話を聞いて1発ビンタして
   2人に会いに来たのよ!」

笑顔でそう言う奥様に少し恐怖心を覚えた。

〇〇「旦那様にビンタって、、、」

沙耶香「お母様って意外にバイオレンスなの、、、」

お母様「あら?そんなことないわよ?
    でもドアの隙間から見てたけどやっぱり
    2人ともお似合いよね〜!」

沙耶香「みっ、、、見てたってどこから、、、?」

奥様「それは2人が告白し合ってる時からよ!
   昔の貴方たちを見てるみたいで、、、」

奥様はハンカチを取り出し、涙を拭う。

沙耶香「、、、何で泣いてるの。」

奥様「だって前から貴方たちの距離が遠く
   なってる様に感じちゃってたし、、、」

〇〇「まぁ主従関係なので仕方のない事ですから。」

奥様は少し神妙な顔をして僕たちに言う。

奥様「貴方たちは好きな様に生きなさい。」

沙耶香「でもお父様が、、、」

奥様「そんなの気にしなくてもいいわ!
   沙耶香と〇〇は大事な子どもたちだから!」


その後、旦那様から謝罪の言葉を頂いた。

旦那様「沙耶香、、、本当にすまなかった、、、」

沙耶香「もう大丈夫です!」ニコッ

旦那様「私は利益にかまけて大事な娘をも
    利用しようとしてしまった、、、」

奥様「ほんと最低な父親よねぇ。」

旦那様「返す言葉もない、、、」

沙耶香「じゃあ今度4人で旅行に行きましょう!
    〇〇も一緒に!」

奥様「じゃあ新婚旅行も兼ねて行きましょうか!」

〇〇「いや私みたいなものが同行するわけには、、、」

沙耶香「何言ってるの!
    私たちはもう家族になるんだよ〜!」

奥様「結婚はまだ先よ。」

沙耶香「えぇー!」

〇〇「私たちはまだ18歳ですから。」

奥様「もう少し大人になってからよ、、、ね?
   18歳の娘を結婚させようとしたお父さん?」

旦那様「、、、本当に申し訳ない。」

沙耶香「むぅ、、、しょうがないなぁ、、、
    今は〇〇との恋人生活を楽しもうかなぁ💕」

沙耶香は僕の腕に抱きつき、両親に見えないようにキスをする。

〇〇「ちょっ、、、さぁちゃん、、、///」

沙耶香「えへへ〜💕」

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