「春にして君を離れ」

アガサクリスティの、誰も死なない隠れた名作。
「春にして君を離れ」

主人公の女性が、ふと人生を振り返る。
ただそれだけの、ただそれだけの小説なのになんでしょうかこの読後感は。。

“理想の家庭を作り上げた”彼女の自己評価は極めて極めて高いのですが、その軸足は「他者がどう思うか」に置かれています。心理学で言うところの他人本位。満足した他人本位者には「救われる」余地が全くありません。親鸞の悪人正機も真っ青です。

そんな主人公の絶対的な世界が、アガサクリスティの繊細な筆致の中で根底から揺らいでいく様がもう圧巻。そしてその渦はいつのまにか読み手にも及び、思考が絡みとられていくのですいくのです。向田邦子の思い出トランプを少し思い出しました。

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