「月と六ペンス」


モーム「月と六ペンス」

ゴーギャンをモチーフにしたとある画家ストリックランドの物語。
主人公は画家の友人?、ですが、そのフィルターを通して天才の追い求める「美」というものが垣間見える構造になっています。ブリティッシュな毒の効いた金言が多く、グイグイ読ませるのに濃密です。

真善美は三位一体でなければならない、
という考え方があります。
美しくないから善でない、本物でないから美しくない等々。これらは不可分かつ独立しあう、さながらカラマーゾフ兄弟やクォーク粒子のような関係です。

時代の変わり目にこの安らかな三位一体の呪縛がほどけ、新しい(そして苦しい)可能性があふれでる。それは時に悪魔、時に英雄と呼ばれる。
ストリックランドは何を生み出したのか。

読みながら、少し司馬遼太郎の「峠」河合継之助を思い出しました。世の中に善いものか悪いものかといった問いの埒外で英雄たちは何を見据えていたのか。
六ペンスきらめくラストの切なさたるやもう。

なお、モチーフといえどもゴーギャンとは多少ずれがあるらしいので、ゴーギャンのむきだしの物語が読みたい方には
バルガス=リョサの「楽園への道」がおすすめです。

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