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宇宙はいくつあるか

前回、時間という概念について数学的な対応物を考察をしてみたので、今回は宇宙の個数について簡単なメモを記載しておこう思う。おそらく、耳にしたことがある人もいるかもしれないが、現在物理学では「マルチバース宇宙論(multiverse)」という学説がある。我々が住んでいる宇宙は、多数ある宇宙の中の一つで、他にも多数の宇宙があるという宇宙論である。宇宙は英語で'universe'、つまりこの単語は一つのバース(詩)、一つのシナリオしか存在しないものというという意味を有する単語であるのだが、この単語の語源を否定してしまうようは世界観である。

【補足】厳密には、verseは「変える」という意味のラテン語であるvertereに由来しており、uniが「一つの」という意味なので、「一つに変えられた世界」と解釈するのがより正確ではあろう。

さて、マルチバース宇宙論においては、多数のシナリオ、つまり今自分達が経験をしている宇宙とはまた他のシナリオを経験している宇宙がある可能性を示唆する。複数の宇宙を考える動機の一つに、超弦理論と呼ばれる理論がある。超弦理論は現在の5種類のものが知られており、万物の統一理論の有力な候補の一つと考えられている。筆者は、特にその数理的な構造の部分に興味があるのだが、ここではIIB型の超重量作用(type IIB supergravity action)というものを書き下してみよう。以下の通りとなる。

$$
S_{IIB}=\frac{2\pi}{l_{s}^{8}}\left[\int d^{10}x\sqrt{-g^{10}}R^{10}-\frac{1}{2}\int\frac{d\tau\land \ast d\bar{\tau}}{(\Im(\tau))^{2}} 
+\frac{G_{(3)}\land\ast \bar{G}_{(3)}}{\Im(\tau)}+\frac{\tilde{F}^{2}_{(5)}}{2}+C_{(4)}\land H_{(3)}\land F_{(3)} \right] +S_{loc} 
$$

これは、IIB型の超紐の低エネルギーにおけるダイナミクスを記述するときに有効な作用となる。紐って言うくらいなのだから、紐の長さがありそれが$${l_{s}}$$である。また、$${\int d^{10}x}$$の部分は、宇宙は時間が1次元+空間が9次元の計10次元ということを意味している。

ここで、物理学で恐らく一番シンプルであろうと思われる、ポテンシャルが無い場合の自由粒子の作用も書いておこう。すると、

$$
S_{自由}=\frac{1}{2}m\int dt\dot{x}(t)^{2}
$$

となる。この自由粒子というものは確か高校生の物理で等速直線運動と呼ばれるところで出てきていたと記憶しているが、何となく雰囲気の違いを感じることが出来ると思う。一つ目の式では、「$${S_{IIB}}$$において、$${R^{10}}$$はアインシュタインフレイムにおける10dのリッチスカラー、$${G_{(3)}}$$は複合3形式フラックスで….」と説明が長くなるのに対して、二つ目の式では、「$${S_{自由}}$$において、$${m}$$は粒子の質量で、$${\dot{x}(t)}$$は時刻$${t}$$における粒子の速さである」と、物理的な意味もそれほど苦労なく説明することができる。

この2つの模型をドラクエで対戦するモンスターに例えるならば、自由粒子の作用はスライム、IIB型の超重量作用はラスボスのうちの1人といったところであろうか。せっかくなので、自由粒子の問題について簡単に復習をしておくことにしよう。

ポテンシャルが無い場合の自由粒子は、等速直線運動をすることとなる。等速直線運動とは、ある一定の速度で永遠に動き続ける運動のことを指す。こんな現象現実には無いのではないのではないかと思うかもしれない。もっともな話で、現実の世界で永遠に等速直線運動をし続ける現象など筆者も見たことがない。しかし、例えばカーリングでストーンを投げてピンにぶつかるまでの間の時間。或いは、近くに星などの重力源が無い状況で宇宙空間において野球ボールを投げた場合は、おおよそこんな動きをするだろう。数式も書いておくと、$${x_{0}}$$を初期位置、$${v_{o}}$$を初速度とすると、等速直線運動をしている場合の時刻$${t}$$における座標$${x(t)}$$は、

$$
x(t)=v_{o}t+x_{0}
$$

となる。もしかしたら、高校生のときに教科書で見たことがあるかもしれない。この考え方も最先端の物理に通じる部分があるのである。なんたってスライムを倒さないと、ラスボスにはたどりつけないのだから。

ここで、時刻$${t_{a}}$$に座標$${x(t_{a})=x_{a}}$$、時刻$${t_{b}}$$に座標$${x(t_{b})=x_{b}}$$にこの粒子がいたとすると、等速直線運動することから、

$$
v_{o}=\frac{x_{b}-x_{a}}{t_{b}-t_{a}}
$$

となる。ここから、ある時刻の速さ$${\dot{x}(t)=v_{0}}$$を$${S_{自由}}$$の式に代入してあげて、積分をしてあげれば、

$$
S_{自由}= \frac{1}{2}m\int_{t_{a}}^{t_{b}} dt\dot{x}(t)^{2} \\
              = \frac{1}{2}m\frac{(x_{b}-x_{a})^{2}}{t_{b}-t_{a}}
$$

となる。これでいっちょあがり。スライム撃破である。

ここで、今計算していた作用とは何なのか等の解説も書いておこうかと思ったのだが、それは解析力学等の教科書にも解説が書かれている事項であるし、せっかくのNoteなのだからややフランクに計算の雰囲気が伝わるような記述に重点を置こうかと思う。(教科書風に書いてしまう方が、実は簡単ではあるとは思うが)

例えば、朝ワンちゃんと散歩をする習慣がある人は、計算練習だと思って、ワンちゃんの作用$${S_{ワンちゃん}}$$を計算してみてはいかがだろうか。計算方法は以下の通りである。

まずワンちゃんの体重を測る。これは厳密には重量と呼ばれるものなのだが、メーカーさんがうまいことやっておいてくれていて、(地球上の位置によって補正は必要だが)質量を測ることができるようになってくれている。よって、例えばメモリが$${20kg}$$なら質量は$${m=20kg}$$となる。次に、ワンちゃんが1秒間に進んだ距離を$${l}$$とする。1秒間に進んだ距離なので、これが$${v_{0}}$$となる。でもって、$${S_{ワンちゃん}= \frac{1}{2}ml^{2}t}$$に代入するだけである。質量が$${20kg}$$のワンちゃんが1秒間に3メートル進んだのなら、1秒間の作用は$${S_{ワンちゃん}=90kg\cdot m^{2}\cdot s^{-1}}$$、2秒間ならこの2倍の$${S_{ワンちゃん}=180kg\cdot m^{2}\cdot s^{-1}}$$となる。車の運転が好きな人なら、$${S_{マイカー}}$$を計算しても良いだろう。もちろんこんな計算しなくても良いのだが、日本は合法的に物理の問題が解ける国なので、人生のうちに一度くらいやってみても良いと思う。

さてさて、だいぶ脱線してしまったが、宇宙の個数を解説するのが本日のメインテーマであった。超紐理論の定式化から丁寧に解説していると、丸々10年はかかってしまいそうなので、ひとまず現段階で分かっている答えを書いてしまおう。

超紐理論においてカラビ・ヤウ多様体と呼ばれる多様体の安定な構成の数、つまり泡宇宙等も含めた許される宇宙の個数は

$$
10^{500}個
$$

とされている。現実は小説より奇なり。ドラクエのラスボスのHPもこんな高くないはず。夢(沼)は広がるものである。

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