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赤ソバの花

吸い込まれそうな秋の空を見上げて
悔いた気持ちを中にしまう。
人からは悩みもなく気楽に生きていると思われるぐらいが
ちょうど良い。

何かを探す夢をよく見る。
どのポケットを調べてみても自転車の鍵が無い。
これでは帰れないと来た道を戻っていく。
約束の時間があって急がないといけないのに。

知った街の見覚えのある通りなはずなのに、どうしても元の場所に戻れない。
いくつか角を曲がるうちに道に迷ってしまった。
歩く人に道を尋ねても気ばかり焦って聞いたことを忘れていく。

細い路地を進むと目の前に大きな工場らしき古い建物が現れる。
誰か居ないかと中に入ってみる。
辺りはシーンとしてて人の姿はない。
それなのに何故か何かに見られている気配がする。

カサカサと乾いた音。
その方向に大きな目玉が見えた。
錆びた車の下に大きな蛇が居る。

見上げると屋根から垂れた鎖に何匹かの蛇が巻きついている。
開いた机の引き出しの中にも顔が見える。
扉の隙間からは重なり合って大量の蛇がニョロニョロ出てきた。

蛇たちはとても怒っている。
驚くほど素早い動きで一斉にこちらに向かってきた。
僕は急いで逃げ出そうとするけれど、足がうまく動かない。
あっという間に大小様々な蛇たちが僕の上に覆いかぶさった。

鍵は見つけることも出来ないまま。
約束の時間はとうに過ぎている。
一言謝りたかったけれど、誰も僕を見つけることは出来ないだろう。

暗闇の中
置き去りにされた自転車が頭に浮かんだ。



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