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フォレスト・ガンプ30周年

 トム・ハンクス主演の『フォレスト・ガンプ/一期一会』初上映から30年経つと言う。
 初上映当時、私は20代前半。もちろん話題の映画だったこともあり、デートで観たか、友達と観に行ったかは定かではないが映画館で観た記憶がある。

 遠い目をして30年前の自分を思い出してみたりした。
 20代前半の夢見がちな、まだまだ子どもの私。足元を全く見ることもなく、地に足を着けず遊びまくっていた。そこはまるで舞踏会(クラブまたはディスコ)。素敵な王子様との出会いを求めて着飾ったシンデレラは週末ともなると夜の街へと繰り出していた。夜を思いっきり楽しむのだ。朝になると魔法は解けてしまうから。
 時代も背中を押していた、と時代のせいにするのは無理があるか。バブルはとっくに弾けていたのだが、まだまだ皆が浮かれていた気がするし、この後に来る不景気はまだまだ感じることはなかった。

 私もこの30年の間、子どもの母になり、子育てに生活に苦労してきた。      
 そして50代に入り体調を崩し、自宅療養を余儀なくされている現在、わりかし体調が良い日は、サブスクで配信されている映画や、ドラマを観る機会が増えたので、フォレスト・ガンプをとても懐かしく思い配信でもう一度観ることにした。

 時の流れとは恐ろしい。大枠の物語は覚えていたつもりが、細々とした部分や大枠さえも間違いだらけで記憶されていた。
 そもそも、私の中では、この物語はコメディ映画にカテゴリされていた。ロバート・ゼメキス監督の魔法で、コメディ要素を散りばめた楽しい映画に作りあげている。アメリカの大きな節目節目に必ずフォレストがいて、クスッとさせられる。その部分ばかりが記憶に残っていたのである。
 第二次世界大戦後のアメリカの成長と衰退、そしてフォレストの人生をリンクさせたアメリカの近代史映画なのだと改めて知った。

 今、この年齢で観る機会を与えあられたことに感謝する。大人になった今でなければ、この映画の意味もわからないままであった。そして、こんなにも胸に刺さることもなかったであろう。フォレストという知的障害のある実直な男の主人公とその母親に、こんなにも親近感を感じることもなかっただろう。
 私の長女は、軽度の知的障害と発達障害を持つ。私も周囲も、なかなか障害に気がつかず、育てにくさに疲れ果てていた。小学5年で検査を受けて障害があることがわかった。
 フォレストは周囲の子ども達から「バカ」とからかわれる。長女も学校でからかわれ、ある時私にこう聞いてきた。
「私ってバカなの?」私は即座に「それは違う!」と答えた。「あなたはバカじゃない。少しゆっくり成長しているだけ」
 フォレストの母親も彼に言う。「バカというのはバカをする人のことよ」
 この母親のセリフがどんなに私に響いたか。悪戦苦闘しながらの子育てが報われた気がした。私の長女も実直な女性に成長している。

 そしてもう一人、私にはどうしても自分と重ねたくなる人物がいる。フォレストの永遠の女神、ジェニーだ。
 ジェニーは問題を抱えた家族の中で育ったゆえ、早く自立を目指していたであろう。「鳥になって飛んでいきたい」とフォレストに語っていた。そして、ジェニーの夢は歌手に
なること。
 私自身も、ジェニー程ではないが、家族問題があり、早く自立することを望んだひとりだ。そして、才能も無いのに芸術関連で自活したいと夢を持っていた。きっとジェニーも、自分には才能が無いのは痛いほど知っていただろう。ストリップホールで、裸にギターでボブ・ディランの『風に吹かれて』を唄っていたジェニー。少なくとも、自分は一体何をしているのだろうと自問自答したに違いない。一応は歌手の真似事をできるようにはなった。性を使って。目指していたものとは大きく違っていたはずだ。
 『風に吹かれて』の歌詞が胸に刺さる。白い鳩になって空を飛びだしたジェニー。地に足をつけることなく航海し続けなければならない。
 足元にはフォレストという温かく安全な愛があるのに、不安定な方を選んでいく。きっと、性の搾取を受け入れることも多かったはずだ。
 私にも覚えがある。若い女の性には価値がある時があると。

 ジェニーが航海をやめたのは、自分の残りの人生を悟った時だった。今までがんばったね。ここにジェニーがいたら抱きしめてあげたい。「あなたは、バカよ!今まで何してたの!」なんて私には言えない。
 ずるい女と言う人もいるだろうが、ジェニーや私みたいな女は、遠回りをしてしまうのだ。

 フォレストの足元に落ちた白い羽根は、ジェニーが航海をやめて地に足をつけた合図ではないか。

 フォレストの母親は、自分の死を悟った時、最後の言葉を息子に伝えていく。
 私の人生の最後の時もベッドの上で、長女にきちんと死について語りたい。長女が取り乱さないように毅然と死を受け入れてくれることが私の願いとなった。 

 私には、その時々に観た素晴らしい映画がある。映画は私を別の世界へと連れて行ってくれるパスポートだ。しかし、『フォレスト・ガンプ』は私の胸に深く刻まれた。私の人生そのものになってしまった。
 もし、あなたの人生を教えてください。と聞かれたら『フォレスト・ガンプ』を観てください。と言おうと思う。
50代おばさんの図々しさを炸裂させすぎだろうか。図々しいはおばさんの特権なので許してほしい。





#映画にまつわる思い出

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