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札幌ドーム経営難のそもそも論

日本ハムファイターズに逃げられて、巨額赤字を出した札幌ドームの運営会社がそう遠くない段階で経営破綻するのではないか、との観測が出ています。運営会社なので、施設の固定費を負担することなく札幌市から施設の管理委託料を受け取ることが可能でしょうから、破産するまでは行かないでしょうが、利用者のいない巨大施設をどうするか、という問題は重くのしかかります。

この球場に限らず、維持経費が税金で賄われている事例は数多ありますので、プロ野球チームが居なくなって利用料が減ったとて、市民のために何か役割を果たすのならば、存続の是非は最終的に札幌市民の判断によることになります。

ゆえによそ者がどうこう言う話ではないのですが、この手の問題が各地で発生する背景には、施設利用を促進する戦略が明確でなく、稼働率の向上に責任と利害を持つ特定人物が存在しない、という公共施設ならではの構造があります。
札幌ドームの場合、サッカーワールドカップの誘致が主な建設動機だそうですから、後から決まった日本ハムファイターズのホーム化は大口利用者の出現に過ぎず、屋外育成天然芝の(空気圧浮上型)移動式サッカーコートに心血を注いでも、札幌市政の責任者に同球団と苦楽を共にする覚悟といった熱い心の絆はなさそうです。
球団の方も、名称は「北海道」日本ハムファイターズであり、サッカーの北海道コンサドーレ札幌よりも地場との密着性は薄い感じがします。だから、(悩んだにせよ)北広島市に移転する決断が出来たのでしょう。仮に、サッポロ日本ハムファイターズであれば展開は違ったのかもしれません。

札幌市側は市議を含め、日ハム球団の薄情さを詰っているように見えますが、札幌市の方が薄情という声もあります。民間企業の間であれば普通にみられる上得意先の経営事情への肩入れを市が忌避したのは、平等を建前とする行政機関としての立場が勝ったからでしょう。ひょっとすると、「市営球場を年間通して優先的に使わせて上げた」くらいに思っているかもしれませんが、それも不思議ではありません。

ネット界隈を中心に世間では、日ハムの試合がなくなっても採算性は確保できると大見得を切りながら赤字を出し、「野球の試合をやらせてもらえない」とか、「見通しが甘かったとは思わない」とか下手過ぎる言い訳と無反省な様が、実に見苦しいと批判の的になっています。

しかし、この運営会社が市役所の下位にある分身的な立場(第三セクターの指定管理者)であることを踏まえれば、話の筋は通っていることが怖いところです。「野球の試合をやってもらえない」ではなく、「やらせてもらえない」と言ったのは、(推測を交えますが)日ハムからの要請は施設改修の部分が大きいので運営会社の所管事項ではなく札幌市の判断による話であるところ、遂に市役所は日本ハムに譲歩しなかったという意味ならば、環境を整えてくれなかったという意味で「やらせてもらえなかった」という言い回しも成り立ちます。

また、「見通しが甘かったとは思わない」のセリフも、札幌市が指定管理に出す際に目標水準を押し付けているならば、「見通しが甘かった」と言ってしまうと、発注者を批判することになるので、運営会社(指定管理者)の社長としてそれは言えない話です。

つまり、投資の回収という民間企業ならば常識的な話も、市民のための施設と位置付けてしまえば、費用対効果という基準で考えられることになり、運営会社に内部留保がある状態ならば、優良な施設であって問題はないという判断になります。この先、仮に廃止になっても、役割は十分に果たしたと総括して終了になるでしょう。

ファイターズの新居であるエスコンフィールドは、日本エスコン社が主導的に進める北広島駅周辺開発の一部となる施設なので、札幌ドームの位置づけとは根本的に違います。千歳空港からの導線も意識したまちづくりの中で、娯楽ゾーンとして球場と一体的に集客系の施設を集めるという戦略があって、さらに新庄監督という人気者が率いるプロ野球チームの存在も重要なパーツであり得ます。

サッカーの世界大会を呼んで、そのあとはイー感じで使えばOKじゃん、といったノリで建てた札幌ドーム。その経営が見るに堪えないとしても、そもそも成り立ちが違うのですね。



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