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ディスカッション 東野唯史×水野太史  (司会:河野直)

共通項_04

東野唯史氏・水野太史氏の2名をゲストとして迎えた本レクチャーは全国各地から約60名の参加者が集まった。参加者にはレクチャーを聞きながら、2者の取り組みに「共通すること」を探してもらった。発見した共通項はチャットボックスで投稿してもらい、30余りのキーワードが出揃った(上図参考)。後半は、これらの中から深堀りしていみたい共通項を選定して、ディスカッションを行った。

事業性とつくるものの質の関係性

河野:参加者のみなさんから、お二人の共通項をたくさん頂きましたので、読んでいきたいと思います。「使われない材料の活用」「合理化」「大量生産」「使い捨て社会」「非合理化」「不要物持続社会」「経年変化を楽しめる素材、材料を使用」「住み働く町への愛」「普段であればフォーカスされない大工さん、名のないデザイン、当たり前にあるもの、こと、ところを大切にしている」「事業性への意識」「自分のデザイン活動と素材や材料の開発、販売、提供を並行している」「素材の本質を見抜き、扱ってるからこそのオリジナリティ、新しい使い方」「素材から活動が動きだす」「自然なデザイン」「ナラティブな物語のある素材」「素材から始まるデザイン」「素材屋」「工業生産されない素材」「地域の未来を想像し、地域におけるご自身の立ち位置を考える」「大量生産品と一品生産品の間」「素材からの気付き」「脱カタログ社会」「自分で設計しながら、他の設計者に材料だけ売ったり、手伝ったりもする」「材料に込められた時間を通しての、地域への視点」「もともとある素材を生かすだけで終わらず、それをどう使ってもらうかまでの使い方の視点から、デザインされている」「伝統素材に新しい価値を拭き込む」「流行ではなく、次の世代にも続くべき活動」「材料を起点に建築物を考えている」「オリジナルな素材の組み合わせ」「思い出、ストーリー、記憶、情熱、文化、手仕事、人と人、人と地域」「あるべき未来を残すべきための活動」「その土地にあるものから生み出し、循環する」。みなさん、本当にありがとうございあます。他の人の挙げたものを見ると、「こういう視点もあったんだ」という気づきがあります。お二人は何か気になるキーワードはありましたか。

東野:「大量生産品と一品生産品の間」というキーワードは、水野さんと話すと面白いのかなと思いました。僕からすると、水野さんの工場の規模はとてもでかいものに見えたのですが、業界的にはどのくらいの規模感なのでしょうか? 僕らは古材売り場が150平米くらい、古道具売り場が500平米くらいの規模で、古材屋さんの中ではめちゃくちゃ小さい方です。だからこそ古材屋だけでなくプロダクト開発もするし、そこに価値を生み出して、稼いでいかなければいけない。「事業性への意識」ともかかわってくると思うのですが、稼がなきゃいけない量と稼ぐ量のバランスがうまく取れたときに、初めていいものがつくれたと感じています。水野さんの考える、事業性とつくるものの質の関係性について伺ってみたいです。

水野:水野陶製園は、敷地の規模でいうとタイルメーカーとしては中規模くらいですが、シェア的にはそれほど高くはありません。それはなぜかと言うと、うちは原料の粘土や釉薬をつくって他のメーカに卸す仕事をしていて、それが売上の約6割を占め、タイルやレンガの売上は残りの4割程度だからです。タイルメーカーの中では一カ所で原料の陶土造りから焼成までを扱うところはかなり珍しいのですが、祖父が分業せずに全部をやりたい人だったからこうした事業内容になっているそうです。そのおかげでオリジナルの焼き物をつくるノウハウがたくさん蓄積されていて、今こうした活動ができています。
 ちなみに最近の焼き物工場は効率化が進んでいて、機械が自動で積むようになっていたり、タイル専用の窯にして積まなくていいようにしていたりするのですが、うちは古い工場をそのまま使っているので、すべて人の手で積んでいるんですね。でも、そのおかげでどんな形のものでも対応できて、先ほど話した陶壁みたいなものから、すごく小さなタイルまで、なんでもつくることができる。古い設備を使った中での効率化を突き詰めてきた結果、こうしたことができているのです。

河野:焼き物に使う土も、工場の敷地内から掘っているのですか?

水野:うちの敷地で採れるくらいでは量的に土はまかなえなくて、鉄分を多く含んで焼くと赤くなる土は知多半島で採れるもの、白い土は瀬戸や多治見で採れるものを、使っていて、さらにそうした土をブレンドして欲しい土をつくっています。原料を買ってくれるメーカーからの難しい注文に答えてきたことで、土についてのノウハウが溜まっていき、それが結果的に今の製作にも活きています。
 特注タイルは僕がかかわる前にはやめていたのですが、水野陶製園ラボを始めてからたくさん受けるようになりました。設計事務所からの自由な発想の依頼を受け、その時々に実験を重ね、それらがノウハウとなって今蓄積されていっています。自分のところで全部やることもいいのですが、だからといって自社で閉じず、他のメーカーやつくり手と一緒に仕事をすることが、幅を広げるためには大事なことだと思います。

地域に深く関わることで、
周辺から良い社会をつくっていく

河野:「素材からの気付き」や「素材から活動が動きだす」というキーワードもありました。東野さんは「材料を起点に建築物を考えている」という共通項を挙げられていましたが、材料があるからこそ設計が始まるという面もあるのでしょうか。

東野:ありますね。リノベーションのときはまず建物があり、動かせない柱や壁があるわけです。そうした100%自由に設計できない部分がいいところで、条件が多ければ多いほどデザイン的には良くなっていくと僕は思っています。予算、工期、建物の形状、施主の好みといった条件が複雑に重なり合い、その隙間を縫うように進んでいった先に新しいアイデアが生まれ、面白いことができると感じています。

河野:東野さんは、古材をレスキューしつつ、設計・施工活動をされていて、目の前にどんどん古材が生まれてくるわけですよね。それ自体も設計活動のアイデアのもとになるのでしょうか。

東野:なりますね。設計をするときに、その現場に形の合う木があって、さらに表情がよかったり、その空間にぴったり合っていれば、こいつをどこかに使ってやりたいという話になります。また、うちでは照明やさまざまなプロダクトをつくっているのですが、「うちでこの材料をよくレスキューするけど売れないよな」ということがあると、「これを使って何かつくってみよう」となり、制作が始まることもあります。最近ではそうやって、丸い漬物石を使って照明をつくったりしました。

水野:僕も「材料を起点に建築物を考えている」ことがめちゃくちゃあります。ですが、僕の場合はストックしているのが焼き物なので、求められるときは起点にするのですが、求められていないときはあまり押し売りしないようにはしています。最近は認知が広まって求められることが増えてきて、起点として出しやすくはなってきました。

河野:ありがとうございます。水野さんは何か掘ってみたいキーワードはありましたか。

水野:「地域の未来を想像し、地域におけるご自身の立ち位置を考える」というのがありましたが、東野さんはローカルがあり、全国でも活動していて、世界も旅されていました。そのときの地理的な感覚ってどのような感じでしたか? 今後どのような仕事をしたいかも含めて伺いたいです。

東野:今後はできれば諏訪の仕事を増やしたいと思っています。これまでは全国を転々として設計をしていたので、一生懸命つくったお店に通えなかったんですよね。いいお店ができて、オーナーも最高で、美味しいものが食べれるのに、すごくたまにしか行けない。それが、ReBuilding Center JAPANをつくってから5年が経ち、都会から諏訪へ移住してくる人が増えて、歩いて5分くらいのエリアに僕たちが設計したお店をいくつかつくらせてもらえるようになり、「自分がつくったお店が近所にあるって最高だな!」ってことがわかってきたんです。あと、子供ができて、家の時間が明確にできたので、出張を減らしたいというのもあります。諏訪での設計を増やすためには住宅の設計ができたほうがいいだろうと思い、自宅でもある《リビセンエコハウス》をつくったりもしました。でも、友人や知人に設計を頼まれることも多くて、いまだに東京や名古屋の現場を手掛けることもあります。

水野:僕も、東野さんが言われたように、自分の身近な環境をより豊かにしていきたいという気持ちがあるので、設計は地元を中心にやっていこうと考えています。一方で、焼き物はいろいろなところで使ってもらえたら嬉しいなと思っています。ですが、焼き物は物理的に重いので、東京圏や関西圏くらいはいいのですが、北海道や九州くらいになると送料が結構かかってしまうんですよね。ましてや海外はもっと難しい。でも、いろいろなところに行ってみたいですし、海外で使われているところも見てみたいので、そのためにできることを考えています。

目の前の現場を次の仕事へつなげる

河野:いくつか質問もいただきましたので、僕の方でいくつかピックアップさせていただきます。「制作過程とか、工場見学とか可能ですか?」。

水野:うちは事前に予約をとっていただければ見学可能です。

東野:ReBuilding Center JAPANはお店ですので、営業時間中に来ていただければ見ていただけます。また、ワークショップを毎月開催していますので、それに参加してもらえれば、古材に触れたりすることもできます。他にも、ReBuilding Center JAPANではサポーターズ制度というのを設けていて、僕らの実際の仕事を手伝ってもらう、有志の方たちを募集しています。古材・古道具の清掃、くぎ抜き、売り場の整備、一緒にレスキューに行くこともできるみたいな感じで、僕らが通常行う業務を幅広く担ってもらう形になります。これらの情報はホームページに上げていますので、そちらをご確認ください。

河野:もう一つ、東野さんへの質問です。「レスキューは家主さんからの依頼が全体の95%ということでしたが、広告や営業活動はどのようにされてるのですか」。

東野:広告はまったく出していなくて、メディアに出る機会が多いので、それに任せている感じです。最初にReBuilding Center JAPANを立ち上げるときにクラウドファンディングをしたのですが、それがプレスリリースみたいな形になって、いろいろなメディアで取り上げてもらえたんですよね。それから、地元新聞やラジオ、テレビ──NHKの全国放送や『ガイアの夜明け』にも出ることができて、それで知ってくれた人たちが、実家に帰ったときに僕らの話をしてくれて、広まっていった感じです。
 あと、片付けをする人のほとんどが60歳以上の方々で、そういうSNSを見ない世代の人たちには口コミで広がっていくんですよね。レスキューの依頼をしてくれた約半数が口コミで知った方で、一つひとつのレスキューで満足してもらうことが、次の依頼につながるのだと思います。

河野:水野さんは地元の仕事が多いということですが、どうやって知ってもらうことが多いのでしょうか。

水野:僕も口コミ的なものですね。カフェを設計したら、そこに来るお客さんとか、そのコミュニティのつながりで案件が来るといった形で。タイルのほうは、設計者同士の口コミで広がっていって、使ってもらえてる感じです。

河野:ありがとうございました。私も同じようなところがあるので、すごく共感して話を伺っていました。最後に、定番の質問をお二人にさせていただきます。お二人にとって、つくるとはどういったことでしょうか?

東野:つくることは、救うことだと思っています。レスキューが僕の制作活動の軸で、古材は使えば使うほどゴミが減らせる素材なので。とにかく、つくることは救うことですね。

水野:前から言われてたけど、難しい質問ですよね(笑)。僕は、つくることは、つくることなんじゃないかと思っています。つくることが必要だからつくるわけですし、日々生活することの一部とも言えますし。あまり気の利いたことを言えず、すみません。あまりそれらしい答えが見つからなかったです。

河野:いえ、最後の市役所の陶壁の話を通して、たくさんのことが伝わってきました。お二人とも、難しい問いかけに、素敵な答えを返していただきありがとうございました。

レクチャーを終えて

「つくるとは、どんなことですか?」という質問を、毎回レクチャーの最後に、2名のゲストに投げかけています。東野さんは、「つくることは、救うこと」だと答えました。建築を学び始めた18歳のときの「デザインを勉強すると世界を良くできるんだ」という約20年前の思いに応答するような言葉であり、リビセンの活動を一言で言い表した言葉でもあり、東野さん独特の鮮やかな決断力の様なものを感じました。一方、水野さんは「つくることは、つくること」と答えました。つくることが必要だからつくるわけだし、日々生活することの一部なんだ、と。ご本人は気が利いたことが言えず、と謙遜されましたが、この言葉がスルメの様に噛めば噛むほど味わい深いのです。水野さんが日々土や人と真正面から向き合いながら手を止めない、喜びや苦々しさが伝わってきます。
 つくるということには少なくとも2つの時間軸があるということを理解できます。つくることが、生きることや働くことに大きな意味をもたらすと同時に、生きて生活することの一部であるということです。「普段から原料の粘土に触れているのですが、人間がここに住み始める前からあったものなんだと、マクロなスケールの時間を感じています。一方で釉薬は分子レベルでの化学反応の表出で、すごいミクロな世界のことも同時に想像しながら、日々製作をしています」と、水野さんは言います。水野さんの言うマクロとミクロ、制作を通じて実感する二つの時間にも、通じるものがあると感じます。(河野直)

水野さんには2回くらい会ったことがあり、別の1回はレクチャーをお願いしたこともあります。その時は、30分の持ち時間の10分くらいを常滑の海の写真で話していたような記憶があり、運営側としてヒヤヒヤしました。今回も写真が出てから「何話そうかな」って感じで、メインディッシュであろう常滑市役所の壁画の話までに時間がかかりすぎていたと思います。水野製陶園の魅力的な建物群ももう少し見たかったです。ただ、後半のメインディッシュにかける時間が圧縮されればされるほど、前半に登場し既に聞いたことのある大学時代のサークルや集合住宅が水野さんにとって大切だったんだとしみじみ伝わってきました。こういう伝え方もあるなぁと。
 東野さんはこれと対極的で、スライドの順番から伝えたいことがクリアに計画されている印象をうけました。古材や地方都市の地域コミュニティといったテーマからもう少し自由人的な方を勝手に想像していたのですが、プレゼンテーションもできあがる建築やプロセスもすごい仕事がきっちりしていて、良い意味で期待を裏切られました。nuiの魅力的な写真から、このプロジェクトがいかに大切だったかはっきり伝わりました。水野さんと伝え方は対照的なのですが、どちらも伝える力を感じましたし、この違いは、窯から出すまでどうなっているか分からないタイルと、完成形から別の完成形に組み合わせていく古材との違いに対応しているようで興味深かったです。
(権藤智之)


構成:和田隆介(わだ・りゅうすけ)
編集者/1984年静岡県生まれ。2010–2013年新建築社勤務。JA編集部、a+u編集部、住宅特集編集部に在籍。2013年よりフリーランス